3-3-a ハッピーですか?
キッカがヨサクたちのコミューンに顔を見せた時点ですでに、ヨサクは雀夜にもライブ禁止を言い渡していた。キッカが琉鹿子のサポートに集中することになったため、彼女らのコミューンでのレッスンも休みとなり、雀夜は暇を持てあましていた。
「では、お話ししたとおり、帰りは遅くなりますので」
琉鹿子とマジョ狩りの
「はー、あの雀夜ちゃんがなー」
「あのは失礼だろー?」
「そういう先輩だってニヤケてるじゃないですかぁー?」
お互いにとことんさがりきった目じりを見せあうも一向に締まりが戻らない。居間で二度寝をしている華灯が朝に強かったら、いまのふたりを見て半日はおびえていただろう。
「放課後に友だちと
「おいおい、ユウキくんさんよ。ナニやら誤解してねえか?」
「ほぇ?」
ユウキはニコニコしたまま首をかしげた。が、目に飛び込んできたほうはただのほっこり笑顔でなく、人を食ったような男の目。
「サクちゃんがいつ、〝同性のお友だち〟っつったんだよ?」
「へ……え、ぇえぇえええーッ!?」
ユウキはたちまち顔どころか全身こわばらせて飛びあがった。ここが本物の
「でっでででッででもッ、雀夜ちゃんに限ってそんなッ」
「それも失礼だろ」
「ウッ……で、でもでもでもッッッ」
「わーかってねぇなーぁ」
大きな体で詰め寄ろうとするユウキを、ヨサクは片手をあげて押し返す。
「いいか? 顔はまぁ地味なほうかもしんねえ。だがあの子は姿勢がいい。べらぼぅにいい。姿勢がいいやつってのは目だつんだ。ただでさえ
「そ、それは……」
「一方でだ、ルカちゃんがひっついててそうやすやす男が近づけるとも思えねえ。が、ここに来て女帝・琉鹿子の無期限病休。やたら視界に入ってくる異性が突然フリーになった。友だちが伏せっちまって傷心中かもしれねえ。なら、考えることはひとつ」
「ゴクリ……」
ユウキは生つばを飲む音を思わず声に出してしまった。ふざけたつもりはなく気が動転したせいだ。ヨサクは自説の完成度に鼻をふくらませる。
「あと、肝が据わってんのもサクちゃんだ。意外に将来有望な永久就職先には目ざといかもしれん」
「さすがにそれは下世話すぎでは……?」
「気になるか?」
急に下から覗きこまれてユウキは言葉に詰まった。見透かすような赤紫色の目から顔をそむけるも、「そ……そりゃ、まぁ」と歯切れの悪い返事が出てくる。
「人間関係は、契約者の精神状態に直接作用しうるので、極力
「なら、やることはひとつだ」
「……え?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夏の日の長さがウソのようだった。
すでに夕暮れの香りもしはじめた隣り町で、雀夜はナイトクラブへ入っていった。
その背中を見送った黒い扉と、その手前に置かれたスタンド式の黒板にカラーチョークで『Happy Hour 19:00~』と書かれているのを、ユウキは目がかゆくなるまで見比べた。
「また焦るなよ、ユウキ?」
「先輩、そんなこと言ったって……」
数十分前の失態をヨサクに蒸しかえされるも、ユウキはすでに立っているのもやっとだ。
朝のうちにヨサクにそそのかされたまま、学校の放課後に合わせて敷地の前に隠れていた。校庭に出てきた雀夜は同級生らしき女の子たちといっしょで、ユウキをホッとさせたのもつかの間、手を振る同級生らに頭をさげたのち、校門前にいた不審な人物のところへまっすぐ歩いていった。
少し気の早い灰色のピーコート。
逆立てた髪はピンク色で、金縁のサングラスと大ぶりの耳飾りが大通りの反対側からもよく見えた。長身で
そこでヨサクが気がついた。
ユウキと出会うきっかけとなったSNSのアカウントを、雀夜はその後処理したかどうか。
しかし、ユウキが思い出すには十分だった。
あの夜に見た湯あがりの裸身を。ただしそのイメージは、ピンク髪の若い男に肩を抱かれ、手を握られているものだったが……。
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☆次回より更新日が「月・木・金」の週3・曜日固定となります。直近1/8(月)。
☆更新時刻も「15時」となります。よろしくお願い致します。
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