2-7-b いつがいいですか?
「
ひとり乾いた笑い声を立てたのは、ステージのどこにもいないヨサクだ。
不可視の足場に立つ雀夜が、
「
「和音をすり替えたんですか?」
ユウキが信じられないといった声をあげた。
「同じメロディを通せる和音を
「やってんのさ、あのお姫サマ。リアルタイム楽曲解析と仕込み
いまいましげにヨサクが舌を鳴らす。フリではなく本気でくさしたようだった。恐ろしいものを見たように。
「魔法少女のマジカル★ライブは、百点満点で当たり前。だが百点の在り方はひとつじゃねえ。自分の在り方に持ちこむことがデュエルの
「だからまず、忠実な
「そこで
「できたとしか言えねえ。俺も気づかなかったが、あのミニ
「あの……」
それまで黙っていた雀夜が、
「理解が追いつきませんが、要はつまり、もう琉鹿子さんは……」
「ああ」ヨサクは率直にうなずいた。
「もうとっくに、
「速くなりますわよ?」
琉鹿子がささやいた。
ライブは続いている。トリオが歌わなくなり演奏が乱れても、ふしぎと曲は壊れない。ただ三人と琉鹿子のステージの高度差だけが、
「なんで!? どうして戻らないの!?」
黒髪を振り乱し、
「ふわのッ! 付き合ったらあかん! ウチに合わせ――」
「あっ……」
突然、力が抜けたように声をもらし、黒髪が両腕をおろした。浮遊するバイオリンのボディがゴム製だったかのようにねじれている。ドラムセットも紙のようにちぎれて飛び散り、絶句した紫髪がなにか言う前に黒髪のステージだけが高速で下降を始めた。
「ふわ……くっ!」
「こはりッ!」
「絽々!?」
仲間の脱落を見送れもしないまま悲鳴で呼ばれる。紫髪が振り向いた先で、くり色巻き毛が顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら必死にバイオリンを弾いている。
「助けてっ、助けてこはり! 出られない! つぶされちゃう! わたしッ!!」
「絽々! 落ち着けぇッ! ちっと壊してでもかまん! 仕切り直しや!」
「こはり! あああっ、こはりぃ!?」
「絽々ぉぉッ!」
自分の声が届いていない。そのことに気づいて紫髪が手を伸ばした瞬間、くり色巻き毛の背後でグランドハープがどろりと溶けた。バイオリンも若草色の水になって流れ落ちる。崩れ落ちる魔法少女とともにステージが落ちていく。
「なんや……なんやこれ?」
紫髪が立ちつくす。
自分はもはや弾いていない。魔法のピアノが頼りない自動演奏をつづけるだけ。
なのに、曲は止まらない。欠けることなく
「こんなん、ウチらのライブやない……こんな……」
ぽきん、ぽきんと、はかない音が耳を打つ。
吸い寄せられるように振り向き、凍りついた。
黄色い花のようなマントが波打ち、白いタクトが
せりあがってくる黄金の楽団。そのさなかで笑う白黄の魔法少女と目が合ったとき、紫髪の少女は無意識にあとずさった。
「やめろ……
来る。
そして、
ふと気がつくと、曲が終わっていた。
「あら?」
同じ高さになったステージで、キョトンとした琉鹿子が小首をかしげる。「ああ。引き分けですわね」肩をすくめ、タクトを投げると、楽団もマントもどこかへ消え去る。
「じゃ、またやりましょうね、セッション?」
まばたきも忘れ、口もあけたままへたりこんだ紫髪の少女。その目の奥深くまで映りこんで、魔法少女は晴れやかに笑った。
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