トリックオアトリート

あいくま

ハッピーハロウィン

10月31日。


日本では、ハロウィンというイベントで盛り上がる日だ。


大人どもが子どもたちにお菓子を配り、トリックオアトリートと叫ぶ。

学生は友達同士でお菓子を交換し合う。

そんな日だ。


夜の繁華街。

ホコ天となった大通りでは仮装した陽キャ共が踊り狂っている。


どこかの夢の国では、ハロウィンがテーマのパレードが行われ、来場者を魅了しているらしい。


全く、騒がしいもんだ。


裏路地でひっそりと、破れたブルーシートに座って喧騒が過ぎるのを待つ。大通りとはうってかわって、コンクリートの冷徹さと明かりひとつない暗がり。まるで境界線でもあるようだ。お祭りとは無縁の暮らしを営みながら、いつもと変わらぬ夜を過ごす。こんな身分に祭日も何も無い。

お菓子なんてもってのほかだ。


もう11月だ。

緑が消え、茶色が目立つ。

薄汚れた毛布だけでは肌寒い。

すきま風が吹き込み、ただえさえやせ細った体を更に痛めつける。


ふと、大通りを見てみると、きらびやかなコスプレでキャーキャーしながら歩いてるのが見えた。己との差の激しさに心まで寒くなってきた。

今年も辛抱の時だ。


外のことは考えるな。


意識を、遮断する。


考えるのは明日のこと。

明日のご飯はどこでもらおうか。

通行人に慈悲を乞うか。いや、それはしないと昔決めた。

となると、2番路地奥の無料食堂か。無料のくせに美味いからな。あそこで凌ごう。

あとは......


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考えることがなくなってしまった。

喧騒は収まるどころか酷くなるばかり。

なんだか、パトカーの音もちらほら聞こえる。

バカなヤツら......と思いつつも自分も同類であることに気づき、心が沈む。


その後も座っていると、2人組の若者が迷い込んできた。衣装もキメて、明らかに向こう側の住人である。


なんだかずっとこっちを見てくる。

なんなんだ。自分たちだけ楽しんでるアピールか?

そう思っていると、不意に片方の人が近づいてきた。


「お菓子、どうですか?」


一瞬、戸惑った。

茶化す人、罵倒する人、哀れみの目を向けてくる人は大勢いた。というか、そんな人しかいなかった。

だが、この人の目は真っ直ぐこちらを向いていていて......

無言で小包を受け取る。

張り付いた喉が、動き出す。


「あ、ありがとう......でも、なんで」


「ハロウィンは、みんなが幸せになる日ですよ。元々の意味は知りませんがね!」


「みんなが幸せになる日か......」


言葉が胸に染み渡り、寒さで凍りついた心を温めた。


「トリックオアトリート!今日はあと少しですけど、楽しんで!」


こんなにポカポカするハロウィンは、いつぶりだろうか。



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トリックオアトリート あいくま @yuuki_zekken

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