悪に憧れた現代令嬢は、ドM 主人公をぶっ飛ばす!!〜ドMでも、最強?!〜

Aさん

悪に憧れた現代令嬢は、ドM 主人公をぶっ飛ばす!!〜ドMでも、最強?!〜


私は子供の頃から、悪役令嬢に憧れていた。


主人公を慕うあまり、権力を振るい困らせる。

しかし結局主人公への恋は実らず、ヒロインに取られてしまう。

そのまま死んでしまうまでがストーリーの一部分。

可愛いところもあり、愛くるしいキャラクターとして存在感を放つ

そんな悪役令嬢に。


なんとか死なない結末エンドを探したのは毎回のこと。


悪役令嬢か死なないように立ち回るのはいつも難しい。

でも助けられた時の喜びは、たまらなくよかった。


いつしかそんなことを繰り返すうちに、

自分も悪役令嬢そっくりの性格になってしまった。


悪役のような口癖、人を空気を吐くように貶す。

サンドバッグを生かさず、殺さず。

そんな性格。


the・悪役令嬢って感じまで似ている。

髪も縦ロールにしようか悩むくらい。


いつもいじめの主体になって女子のトップ。

何もかもができると自信を持っていた。


社会人になっても変わらずそんな生活を送ってきた。

大企業の社長だった父親を使い七光りで大出世。

親からは事を荒立てずコントロールする方法も学んだ。

従う部下は忠実なワンコになるまで丁寧に育てた。


すべては自分が悪役令嬢になるために。


でも1日にして、壊れた。壊れてしまった。


あの時までは……。

あいつがここに来なければ。

そんなことを考えた日もある。



そんなことを今日も会社のデスクで考える。

「あいつだけは私の手で……」


ぶつぶつと喋っていると、まさに考えていたあいつがやって来た。


「今回もよろしくお願いします、舞雪まい先輩!!」


そう言うのは後輩の荒方あらかたくん。

私のサンドバッグ。

例のあいつだ。

今までは、後輩を持つたびにサンドバッグとして遊んでいる。


まさに正真正銘、『悪役令嬢私の理想』だ。


いや、違った。

今回はそううまくいかなかった。


私を慕うサンドバック(調教済み)たちは

荒方くんのことが我慢できず自分がどうにかしてみせると息巻いたが、

あいつを御するまでは私がやると言って落ち着かせた。


まず知識を付けるために荒方くんの評判を調べることにした。


『荒方くんは顔がいい』

『仕事もできる』

『仕事仲間も仲良くしている』

『話しやすい』

『なんかあったら助けてくれる』


評判は上々。

物語の中でいう、いわゆる主人公気質といったところか。


ある日、助けてほしいと呼び出し、水を上からかける……。

私を舐めた罰。

どんな顔をするか楽しみだ。

最初はそう考えていた。


「荒方くん、裏で手伝ってくれる?」

「わかりました、舞雪先輩!」


呼び出すのはうまくいった。

そして裏にきた瞬間。


ドバァ!!


バケツの水をひっくり返した。

頭からびっしょりと濡れた。

荒方くんの第一声を想像すると、ゾクゾクした。

なのに。


「お風呂に入れてくれたんですね、ありがとうございます。舞雪先輩!!」


「え?」


爽やかな笑顔。そういって脱いだシャツからはシックスパックが

意外にも荒方くんは筋骨隆々。

違う。そうじゃなくて!

こんな反応が欲しいんじゃない。

おかしい。


荒方くんは私がいじめていくうちにおかしくなっていってしまった。

ごめんと言って書類を消す、さらさらそんなこと思ってないような言い方で。


「いらないのを消してくれたんですね、舞雪先輩!!」

「はぁ……」




======


最初のうちにやめておけばあの恐怖はなかっただろう。

そんなことを言ったってもう遅い。


荒方くんのドMを覚醒させてしまったのだ。


主人公がドM?!

おかしいだろ。

いじめるとニコニコしている。

いじめているのにありがとうと言う。


気持ちが悪くて仕方がない。


あぁ。

考えるだけで鳥肌が立つ。

「舞雪先輩〜! 今日は何をしてくれるんですか〜?」

「裏にきなさい……」


悪役令嬢たるもの、本性を見せるべからず。

悪役令嬢たるもの、威厳を保つ。

基本中の基本だ。


でも今日は特別。

ヤンキーに絡ませてみようと思う。

何とかしてこの地区で二番目に強いと聞くヤンキーと連絡をとった。

そんな実力者とやらせるのはかわいそうだが仕方がない。



それで終わっていたらよかった。

「今日はちゃんとサンドバッグとして活躍して欲しいの」

「わかりました!! 頑張ってやってみます、舞雪先輩!!」

「そ、そう……」


なんで嬉しそうなの?

おかしいってことがわからないの?


予想外の反応に戸惑いながらも指定された場所に着く。


薄暗い倉庫で、湿ったカビが腐敗臭を放っている。

天井のトタンの間からは、日がうっすら差していた。

その日が差す場所にはガタイの良い男がパイプ椅子に座っているのがわかった。


その男は椅子からはみ出てしまうほどの筋肉の持ち主で、強いことが見てとれる。


そして荒方くんはその男にゆっくりと歩いていく。

荒方くんは特に怖がる様子もない。

ゆっくりと歩いていく。


それをただ見つめる。

悪役令嬢としてこんなやり方でいいのかと悩んだ矢先にとんでもないことが起きた。


舞雪が男の手下と思われるものに捕まってしまったのだ。

いやらしい目をしていて今にも痴漢をして来そうだ。


「へっへっへ。この女は好きにして良いんだよな、頭」

「こんな良い女そうそういないっスよ、楽しくなりまっせ!!」

「?! そんなの契約にないはずよ!!」


戸惑う私を気にかける素振りすら見せず、男が口を開けた。

「荒方って誰か知っているのか……?」

太い声がそう話しだす。


シン、とした空気が流れる。


「その様子は知らないんだな、コイツは裏じゃ『殴られの荒川』って言われてんだ」


は?

あの『殴られの荒川』?!?!


この地域では一番強いとされる、謎が多い人物。

殴られの荒川は、ただ殴られるだけ。

自分から攻撃をせず、攻撃を受けとめ相手が疲れ切ったところで

最後に最小の動きで相手を殺す殺し屋と言われた。


倒した相手は数知れず。

銃すらも受けたと言われる都市伝説があるほど。

そんな都市伝説は聞けばいくらでも出てくる。

そんな男だと聞く。


でもこんな会社に来て、のこのこといじめられにくるとは考えにくい……?


混乱した頭で私が考えていると、

ぬるっと触れてくる手に気が付く。

「おいお嬢ちゃん、俺らに捕まっているのが分からないのかい?」

そんなことを言い無理矢理、胸をさわろうとしてきた。


「きゃあぁ!!」

思わず私が叫んだ瞬間。


空気が重たくなったのを感じた。


触ろうとした手下も手を止めるしか無かった。

全ての時が止まったかのようだった。


ただ一人を除いて。

荒方くんがコツコツと音を立ててこちらに向かってくる。

仕返しをしにきたのかと思わず目をつむる。


イヤだ、イヤだ。

そんなことを考えるうちにもこちらに向かう荒方。

腕を上げゆっくり殴るような型に移るのが、素人でもわかった。


舞雪は目をつぶる。

私がこれまでして来たことの仕返しだと思った。

運命として受け止めようとした。




しかしどこまで経っても殴られることはなかった。

怖かったが、おそるおそるゆっくり目を開けた。


そこにあったのは手下が倒れている姿と、それを踏みつける荒方くん。

どうしてだろう。


心の奥底が、傷んで仕方がない。

地面を這いつくばる姿が、きっと私の未来の姿だと思うから?


……違う。


私はそこで初めて気が付いた。

私がいま苦しいのは、自分が今まで何をして来たのだろうという良心からだ。


今更だった。


今頃気づいたって遅い。やって来たことはもう取り返しがつかないのだから。


「舞雪先輩、大丈夫てしたか? 人を殴るのは久しぶりです。

え、なんで泣いているんすか? もしかして当たってしまいましたか?!」


あたふたする荒方くんを見ると心が癒される。

多分これまでも。

その反面、今にも泣き出したい良心が心をズキズキと傷つける。


「俺を忘れたわけではないよな……」


太い声が刺すように響いた。

「大丈夫です。あなたのことは忘れていませんよ。

だって僕を追放したのはほかでもない、あなた自身なんですから」

荒方くんはすぐに反論する。

え、あの人が荒方くんをヤンキーから抜けさせたの……?



「あなた……。人を追放したのなら自分はどうしてたのですか!!」


舞雪は咄嗟に声が出た。


「呑気に遊んでたとかではありませんよね!!」

「そ、そうだが……それがどうした」


あまりの迫力に男は少し萎縮したように見えた。

だがまだ心は折れていないようだ。


「あなた!! そんなんじゃあ悪役失格ですよ!!!」



「そんなんどぉでも良い!!」

一瞬黙り込んだが男はパイプ椅子からガシャンと大きな音をたて、立ち上がる。

が、その刹那の隙を荒川がすかさず叩き込む。

首を強く叩くと無念そうに倒れ込む男。

隠れていた子分はそれを見た途端にドタバタと逃げて行くではないか。



だが全ての敵は倒せたと言うことだと思う。

しかし、2人の間に長くも短い沈黙が流れる。


「ど、どうして私を殴らなかったの……?

だって悪いことをいっぱいした、だけど叩かなかった。どうし、ムグゥ!」


舞雪は口を閉じた。

いや、荒方くんに閉じられたというのが正しいだろう。

唇を触われるのが自然とイヤでは無かった。

暖かい日向のようだった。

そんな破廉恥なと言うところだろうが言えなかった。

魔法にかかったかのように。


「舞雪先輩、あなたは僕の先輩であり、悪役令嬢なんです。だから主人公が救ったって良いじゃないですか。あなたはもうフラグが立ったのです」

不思議と腑に落ちた。

こんな笑顔は反則だろう。


「まぁ、いじめてくれる人がいなくなるからですけど」




ふざけ半分で主人公が言った言葉は心に恋愛という名の火を付けた。


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読んでいただきありがとうございます。


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