一章

廿月たちの日常

ゾウの幻想


 白暦1846年。あの悲劇から数年後。明烏廿月あけがらすはつきは18歳になっており、とある特殊な街で何でも屋さん働いていた。今はそこで大掃除をしている。同じく働いている女性従業員と一緒に。


 その街はアニメのキャラが実際に存在している所。

 “カートゥーンシティ”と呼ばれているところもあった。


 今の青年の姿は、髪の色が銀髪で少しはねている毛もある。体型は少し筋肉がついており、見た目より細マッチョ。服装はストリート系ファッション。至ってシンプルだ。違和感なくゾウ、ネズミ、カラスのイラストがプリントしてある。



 はつきは本棚を整理していたら分厚い本を見つけて、掃除を中断してそれを読み始める。



 

 ――さて、みなさんはこう考えを持ったことあるだろう。もし人間が、空を飛べたなら、もし異性とのハーレムを作れるのなら、もし科学が発展し今よりも景気が良くなるなら。そして“現実にアニメのキャラが現れる”なら……と。


 もしも、現実世界に漫画やアニメ、そして映画やドラマのキャラが現れたのなら、あなたはどうしたいですか?


 私はその答えを知っています。さぁ私の発明した二次元を実体化する装置でこの世界に革命を起こすのです!


 そして新たな生命アニメの誕生を祝うのです! ――白暦1738年ブランドン・コック著者。



 

「……へぇ、この町はこう言う感じで生まれたのか」

 明烏廿月あけがらすはつきは分厚そうな書物を読みながらそう呟く。

 

「へぇ! オレちゃんも知らなったぜ親友。100年近く前からこういうのが建てられていたんだな」

 

 髪はショートの金髪、毛先に青色がついている。スタイルが良く胸の大きい、特に足の長い女性が、廿月はつきの肩を組んでその本を一緒に読んでいた。

 彼女の名前は一ノ瀬悠輝いちのせゆうき。そして悠輝ゆうきはアイドルを目指している。廿月より年が2個上の先輩だ。


 その女性の服装は何でも屋で働いていると思えないぐらい胸元、ヘソと足を露出していて、藍色のオフショルダー、それにホットパンツを履いている。


「あぁ、アニメのキャラがいるというのは分かっていたが……。なにせ、俺は住宅地近くに住んでいたから噂ぐらいしか知らなかったかなと。昔行っていたショッピングモールに二次元キャラはいたけど」廿月はつきは彼女に向かって話す。



 約100年前に歴史的な出来事が起こる。

 アニメを具現化させて現実へ現れるようになったのだ。

 最初は海外で街がつくられた。その後、廿月のいる国にも設立された。

 

 彼らがいる街は通称カートゥーンシティと言われており、具現化されたアニメキャラ達が沢山いる。

 その都市の名前は墨現市すみげんし猫黒区ねこくろくにある街だ。

 

 ここはビルの2階にある事務所。彼らはそこで暮らしながら従業員として働いている。

 給料はそこまで多くないが毎日三食用意して、お昼代や交通費も出していると言う優遇っぷりだ。

 

 残念なところをいえば事務所内が異様に臭うこと、働きたての頃の二人はそれによって苦しんでいたが今は慣れたのか全く気にしていない。


「わかるぞ、親友、いや“はっきー”。オレちゃんもアイドルを目指していたが、畑や田んぼが多い地域にいたからな」


「へぇ、その地域ではアイドルだったの?」


「もちろんさ、オレちゃん、お年寄りや子供のアイドルだったぜ〜。カラオケ大会というライブもやってたさ。そのライブが人気すぎて席がなく定員オーバーだったわ〜」


「へぇー、すごいなぁ……とりあえず、俺の背中に胸押しつけるのやめてくれない?」


「え? 別にいいじゃん。俺ちゃんそんなこと気にしないし、むしろ将来売れそうな有名人にこういうことされて嬉しいだろ?」


「うーん。嬉しいといえば嬉しいけど、俺は心配になるなぁ……」


「おい! お前ら。イチャコラしないで、さっさと仕事に戻れ」と、言っているのはそこ何でも屋の社長。『霧山きりやまさん』。40歳だと思えない程若々しい肌に扇子の風を送る。

 

「仕事と言いましても、事務所掃除じゃないですか」

「うるせえ、それも仕事の一つだ。給料もだすぞ」

 

「いくらですか?」

 廿月はつきは疑問に思い、軽く質問してみる。

 

「430円払おう」

 何でも屋の社長が手でお金のジェスチャーをするのを見て、廿月はつきは考える。

 

「430円か、悪くないですね」

「おいおい、はっきー。流石に安すぎだぜ。もっと値上げ交渉しないと」

 彼女は“それはないだろう”と感じたのか廿月はつきに対して突っ込む。

 

「でも、掃除しただけで、430円貰えるのは有難いよ」

「それはそうだけどさ……。いつかトップになるオレちゃん達らしくない金額だから貰うのもやめておいた方がいいんじゃない?」悠輝ゆうきは冷静に話す。


 社長は、“ははは”と笑いながら、手を見せ、指を折り4という数字を出した。

「あぁ、ついでに買い物行ってくれたらその4倍はだす」


 それを聞いた従業員二人は驚きながら、霧山さんの目を見合わせる。

「え?! 4倍ですか?! 一ノ瀬さん行きましょう」

「たしかに4倍はでかいな……。掃除し終えたら買い物でも竜の涙でも買ってくるよ」

 

「冗談言うのはよせ、でもこの街なら竜がいてもおかしくないんだよな……」

「まぁアニメタウンみたいなところですから」

 廿月はつきがしゃべったあとに、3人は声を上げて笑い合う。

 

「とりあえず早く掃除を終わらせるために、お前らの能力使ってもいいからな」霧山さんは廿月はつきたちにとっていい提案をした。


 彼らはアニメを具現化できる能力者なのだ。廿月はつきは学生の時に、悠輝ゆうきは上京した時の能力を授かった。


「まじぃ~、わかった! はっきー、オレちゃん達の能力を発動させようぜ!」

「俺は乗り気じゃないが、まあいいか」



幻想奇譚トゥーン・アクション

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