チート級の二刀流野球選手、異世界に登板する~物理法則無視の魔球と、宇宙まで伸びる特大場外ホームランは魔術ですら説明がつかないらしい~

かずなし のなめ@「AI転生」2巻発売中

第1試合:会場、異世界。試合開始【14話】

第1話 超人級の二刀流選手が、野球界から消えた日

 100


『……ヘイ、これはジョークじゃあないんだよな。解説できるか?』

『仮に不正ジョークだとして、どうしたら球が100個に分裂するんだ?』


 これはかなえ和夢かずむによるメジャーリーグ初投球を見た、実況席の声である。

 スタジアムを囲む、数万人の観客も沈黙を共鳴した。

 ルーキーと、横柄そうに鼻で笑っていた相手打者も凍った。

 背番号11を掲げた異形へ、それ以外に何が出来ただろうか。


 和夢かずむのショーは9球の非現実的な魔球に留まらない。

 初打席。初球から快音。


『ワオ……本当に月まで行ってしまったらしい。こんな特大場外ホームラン、見たことない』


 投手もひっくり返る程、飛ぶ。

 どこまでも、高く。果てしなく。

 底が突き抜けたような青空に同化するまで、無邪気に飛んでいく。

 ホームランされたボールは全て、見つからなかった。


 魅入られていた観客達も、神を見たように生気が抜けた相手投手も、星になっていくボールを眺める事しか出来なかった。

 そして、和夢かずむの初試合が終わる。


『し、試合終了……カズム一人で、完全試合と、全打席ホームランを成し遂げちまった。他の選手は、出る幕が無かった』


 “魔球”による防御率、驚異の0%。

 “全打席ホームラン”による打率、怒涛の100%。

 敬遠されようとも、その“韋駄天”たる証左の盗塁率、圧巻の100%。

 瞬く間に世界中でカズム・シラズの名が轟いたのは言うまでもない。


 その後、並み居る強豪犇めくメジャーリーグにおいて、“魔球”は一度も打たれる事はなかった。

 打席に立てば、必ず一球目で遥か彼方に打ち返す。

 申告敬遠を受けても、相手投手が三球投げる間にホームスチール盗塁帰還を成し遂げた。



 



 人類の進化種とさえ仰がれた和夢かずむは、最初の試合から半年後に、所属球団のインフィニティドリームズから原因不明の電撃退団を発表する。


 時折陰謀論めいた憶測も飛び交う中、事態は悪化する。

 和夢かずむが、


『最早この地球というグラウンドは、カズムにとっては狭すぎたのかもしれない』


 とあるコメンテーターが平然とそう言えてしまうくらいに、和夢かずむは異端だった。



 尚、誰にも分からなかった失踪の真相。

 鼎 和夢かなえ かずむは、異世界へと転移していた。

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