第70話 曇ってます

「私、サラと申します。クリスティーナ様がダウンされたので、ここからは私がリオ様のお世話をさせていただきます」


 眼鏡をクイッと直す侍女様。出来る人間雰囲気がプンプン致します。

 それにしても、お姫様にお世話されてる私って、何?


「そう言えばサラさんは、さっきまで医療棟にいたんですよね~。視力とか良くなってませんか?」


「そうなんですか?ですが、コレは伊達ですので」


「え、知らなかった~」


 ─────私は視力回復薬じゃないんだけど‥‥‥‥。


「肌質が若返ったことには、大変感激しております」


「‥‥‥‥家の姉達には、内密にお願いします‥‥‥‥」


「もちろんです‥‥‥‥」


─────何?最後の方二人が何言っているのか、小声で聞こえなかった。


「それでお姉さん、あの、恐縮なんですが‥‥‥‥『男性用』って使えますか?」


「─────え、知らない‥‥‥‥」


─────『女性用』があれば『男性用』もあるわな。はははは。

 三人で『男性用』に行ってみれば、こちら側もクリーンが届いていたらしく、ピッカピカの浴場が出来上がっていた。『男性用』に遠慮?しないよ?─────誰も真っ裸になっていないからいいじゃん。

 

 元の状態を知っているのか、ふぉぉぉと感激しているウィル少年に、水栓を開けてみようと促すと、こちらも問題なく湯口からお湯が出てきた。


「すごいですっ!すぐにでも入れそうですね!」


 ─────僕、報告に行ってきます。とウィル少年は走り去っていった。

 ドバドバと湯船にたまるお湯を見ながら、サラさんがポツリと呟く。


「私達も入れるでしょうか‥‥‥‥」


「ん?お姫様はそのつもりみたいだけど?」


─────みんな疲れてるだろうからって。

 ま、私がお先に借りたましたけど?そういう施設でしょ?みんなで使わなきゃ。せっかく直したのに意味ないじゃん。


 そう言うとサラさんは、嬉しそうに笑った。


 ─────眼鏡曇ってますけど。



「隊長~失礼しま~す。リオさん『大浴場』使えるようにしちゃいました~」


「─────マジか」


「マジです~も~スゴイですよ~『男性用』も今、お湯張ってます~」


 ─────ガタッとフリートが椅子から立ち上がる。


「行きましょうっ!夕食もそこそこだった我々には、一番最初に使う権利があると思いますっ!」  


「─────お、おう」


 ‥‥‥‥お前、そんなに好きだったのか、風呂。


「さ、先に行っててくれ。俺は後から行くから‥‥‥‥」


─────そうですか、では。


 こちらの返事もあまり聞いてないようで、さっさと部屋から出ていく。


「あ、フリート様~まだ何も用意してないので~ちょと待ってください~」


 遠ざかる少年の声を聞きながら、思わずため息が出た


「アイツ、あんなにも風呂好きだったんだな‥‥‥‥」


「俺もあそこまでとは思わなかった。─────あれ?フェンリルがいねぇ」


 一番風呂と喜びいさんで扉を開けた向こうの世界は、フェンリルがまったりと湯に浸かっている姿だった。


「‥‥‥‥フェンリルは風呂に入るのですか‥‥‥‥知りませんでした‥‥‥‥」


─────その光景に、フリートはスンっとなった。

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