足りない身体
夜は月明かりに照らされ、虫のさざめきと木が緩やかになびいてる。昼間、外で畑作業をしているおばあさん、藁や作物を町の届いているおじさん達がいるのに、今、皆寝静まっている。
「ぐ~んご~う」
二階建ての村の少しはずれ一軒家、 二階の自室、二段ベッドの上で兄がいびきをかいて寝ている。きっと布団もちゃんと掛けていないで
だらしない顔をしているのが容易に想像ができる。
いつから寝ていないだろう。二段ベットのしたで仰向けになりながら考える。
この眠らない体になって半年が立つ。
王都アンバル、人口3万人の大都市、ここには
お金、人、食べ物なんでも集まってくる。特には魔術が発達して、国のライフラインには魔術が欠かせない存在になっている。しかし、そんな魔術でも人間の生死に係るもの、金を生み出すことは自然の摂理に反していると固く禁止され、破ったものは、禁固刑、最悪死罪が課せられる。
しかし、人間の飽くなき探究がそれを良しとはしなかった。自らの寿命、老いを恐れた、ガラフ王は、王立研究所に自らの写身を作れと王命を
下した。
方法として、進んでいた死んだ人間の魂を人工身体に移すものだった。
だが、研究は難航した、人格が破綻して研究員を殺したもの、体が拒絶反応を起こして、目が虚ろのまま動かなくなったものなど、目を背けたくなるような陰惨な結果ばかり、積み上げられた。
そして、歳月は500年を超えて、ようやく人工身体と魂の定着が成功し、zシリーズが誕生した。
僕はその中の65番目のサンプルだった。
被験者はアルフという2歳年離れた兄を持つ13歳の少年だ。不良の事故で弟を失った兄ヘルガは父が王立研究所で人工身体に携わってことを知っており、夜書斎にいた父にしがみつき泣き叫びながら、
「父さん、アルフを弟を、直してくれ!
父さんならそれが出来るだろう!!」
弟を失ったことで身体の半身を欠損したかのごとく心のバランス不安定になり、藁にも縋る思いで懇願した。
「直すのではない。これは生まれ変わりに
近いものだ。元のアルフに戻ることはない。
別の身体にアルフの魂を定着させるものだ」
渋く低音の声でアルフに現実をつきつける。
「それでも構わない。アルフがまた戻って来る
なら、どんなあいつでも受け入れる」
「そうか、、、分かった。最善を尽くす。
父さんももう一度アルフに、会いたい、、
からな」
父に縋る兄の手が強く、体は小さく震えていた。
一週間後、アルフが再誕した。見た目は生前と変わらず、スラットした体系にくせ毛の茶髪の13歳である。
「兄さん、、」
「アルフなのか」
研究所での調整が一段落したあの日、ベット、本、食事しかない家で感じる温もりとは縁遠い
真っ白な実験室に兄さんがきた。顔の筋肉が硬い、困惑と安堵の顔を混ぜた様子で僕に近づき、そっと抱き寄せてくれた。
二度会えないと思った兄さん会えて、抱き寄せてくれて心から嬉しかったけど、身体伝わるであろう暖かさをこの人工の皮で感じることができなかった。
僕はもう、あの頃には戻れないのだと悟った。
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