The Show Carries On!

サンレイン

第1話「傘」

「あちゃあ……、まさか降るとは思わなかったなぁ」

 音楽好きな古文の教師を説き伏せて作った軽音部。とはいえ、部員は朝陽 影三あさひ えいぞうひとりなので、正確には部ではない。教師が気を利かせて「放課後の教室使用許可」を取っておいてくれたのだ。

 視聴覚室の暗幕を閉めて、好きなバンドの曲やリズムマシンに合わせてギターを演奏するのが影三の「部活動」。今日も夢中でギターを弾いていたから、降り始めた雨に気付いていなかった。

 影三は空を見上げる。昼までは抜けるような青空が広がっていたというのに、今はどんよりと雲が垂れ込めて、静かな雨がしとしとと降り続いている。こうなったら、ギターだけでも濡らさないよう、制服を被せて駅までダッシュするか――、昇降口でひとり決意を込めた影三の背後から、すっと傘が差し掛けられた。

 驚いて振り向くと、そこには影三より頭半分ほど背の低い男子生徒が立っていた。自校とは違う制服、右頬に三つ並んだほくろが印象的な顔立ちだった。

「そのギター、大事なんだろ?」

 そう言うと彼は、影三に自分の傘をぐいと押し付けて、校門へ向かって走り去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る