第十三話 文芸部のプール日和が決まる!

 文芸部顧問の昼間夕子が文芸部への廊下を歩いていた。

夢乃兄妹の妹の真夏から声を掛けられて夕子は振り返る。


「先生、アレ、決まりましたか」

「うん、大丈夫だ」


「それで何ですが・・・・・・」

「プールのこと?」


「忘れてたんですが・・・・・・」

「何を忘れてたの」


「はい、水着です」

「水着?」


「水泳の授業は学校指定の水着じゃないとダメでしょうか」

「それで」


「授業じゃないなら、何でもいいかなと思って」

「なるほど、真夏さん、面白い発想ね」


「確かに授業じゃないけど

ーー 他のクラスの生徒と会ったらどうするの」

「そうか。それを考えていませんでした」


「今回は、学校のプールということもあってな。

ーー 我慢してくれ」

「分かりました。先生、ありがとうございます」


「ところで、真夏さんは、今から部活かな?」

「はい、これからですが」


「今日は、みんないるかな」

「みんな暇だから、定例会以外も部室に顔出ししています」


「そうか。それなら、好都合かな。

ーー いや、伝達事項だが」



 夕子は真夏と一緒に部室への廊下を歩いて行く。

夢乃兄妹の兄のヒメが部室から出て来る。


「ヒメ、もう部活は終わりか」

「いいえ、喉が渇いて自販機にドリンクを買いに行く所です」


「じゃあ、人数分、真夏さんと一緒に買って来てくれ。

ーー 先生の分もな」

夕子は、ヒメに六人分のお金を手渡した。


 しばらくして、ヒメと真夏が部室に戻って来た。

 ヒメはズボンのポケットから小銭を出しながら夕子に手渡す。


「先生、これ、お釣りです」

「ヒメ、ご苦労さま」



 部室には、三年の文芸部部長の日向黒子、二年の副部長の白石陽子、一年の川神遙と山白麗奈の四人が大きなテーブルを囲むように腰掛けている。


 ヒメと真夏が、ドリンクをみんなに手渡す。

「あら、これ、どうしたの」

「白石さん、これ、先生からの差し入れです」


 部員は、夕子を見ながらお礼を言った。

夕子は、珍しく照れてながら言い訳をする。


「いやな、ヒメがドリンクを買いに行くと言うから、

ーー お願いしただけだからな」


「ところでな、例のプール日和が決まった。

ーー 次の定例会の日になる。

ーー その日は授業を終えたら、ここに集合してプールの更衣室に移動だ。

ーー あと、バスタオルを忘れないようにな」


川神が真夏と同じ質問を繰り返した。

「それは、真夏さんも言ってたが、学校のプールだから、ダメと思うが」

「ですよね、先生」

川神が舌を出しながら照れ笑いしている。


「ヒメ、そういうことになった。水浴びはいいぞ!」

「先生、随分、積極的ですね」


「そりゃあ、連日、こう暑ければ、先生だってすずみたいからな」

「そういうもんですかね」

「そういうもんだ」


「じゃあ、みんな、次の定例会の水曜日が晴れるように“”をよろしくな」

と言って、夕子は部室を後にして薄笑いを浮かべた。



「なんか、昼間先生、プール日和の話だけだったね」

日向黒子がぼそりとつぶやいた。

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