第十話 上機嫌な昼間夕子

「先生、何かいいこと、ありましたか」

真夏が微笑みながら聞いた。


「真夏ちゃん、そう見えるかな」

「ヒメちゃん、先生、嬉しそうに見えるわよね」


「本当だ、神社の時と様子がまるで違う感じ」

「ヒメ、お前もそう見えるのか」

「はい」


「実はな、人に言えないことだが・・・・・・。

ーー ちょっと、いいことがあってな・・・・・・。

ーー まあ、なんと言うか、悩みが減ったというとこさ、あはは」


「先生でも、悩むんですね」

「ヒメ、どう言う意味だ」

「そのままですが」


「こやつ、軽口を叩きよって」

「ヒメちゃんは、私といる時は、いつもこうなのよ」

「真夏、そんなことないだろう」


「先生機嫌がいいから、ちょっとお茶でもしないか」

「先生、ご馳走してくれるんですか」

真夏がにこにこしながら聞き返した。


「先生の都合だからな、任せておけ」

「じゃあ、先生、良かったら、本屋のあるカフェにしませんか」


「先生も、あそこのカフェが気に入っている」

「じゃあ、先生、行きましょう」




 昼間夕子、ヒメ、真夏はエスカレーターで上がり、古典コーナーに立ち寄る。

夕子は三日月未来の新刊の売れ行きが気になり、度々、実店舗でエゴサエゴサーチをしていた。


「あら、昼間先生」

「おお、日向、偶然だな」


「今から、夢乃兄妹とカフェに行くところだ。一緒にどうだ」

「先輩、一緒に行きましょう」


「お邪魔じゃないかしら」

「みんな、文芸部じゃないか」

「じゃあ、お邪魔させて頂きます」


「先生、その前にレジで精算して来ます」

「日向は、古典少女だな」

「先生、ありがとうございます」




 日向が戻り、カフェのあるフロアに移動した。

夕子は、エゴサのあとで、この三人が一番クサイのだがと思っている。


 だが、ヒメの可能性は薄い。

かぐや姫の名前がわかった今では、尚更のことだ。


「真夏ちゃんは、何がいい」

「先生、クリームソーダをお願いします」


「ヒメは」

「僕は、アイスコーヒーで」


「黒子は」

「私は、コーヒーフロートでお願いします」

「じゃあ、先生もね、コーヒーフロートにするわ」


 アニメから出て来たような可愛いウエイトレスが夕子たちのテーブルにオーダーを運んで来た。

ヒメの顔が火照っているように幾分赤くなった。


「ヒメ、顔が赤いわね」

「あら、本当ね」


「ヒメ兄、あのタイプ、好みでしょう」

「真夏まで、悪のりして」


「ここの冷房、よく効いているわね」

「本当、涼しいわね」


 夕子と黒子がヒメにトドメを刺す。

ヒメは笑って誤魔化すが女の直感の敵ではなかった。



「今日は、みんなとお茶出来て、先生嬉しいわ」

「先生、悩み減って良かったですね」


「真夏ちゃん、それ、何の話?」

「黒子先輩、駅でね。先生が上機嫌で聞いてみたの」

「なるほど、先生らしいわね」


「お前たち、先生をさかなにしていないか?」

「そんな勿体ないこと僕はしませんよ」

「そうか、まあいい」


「ところで、かぐや姫のことだが・・・・・・」

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