第五話 不思議な魔法のノート

 貧血から数日後の昼下がり、ヒメは学校の屋上で待ち合わせをした。


 夢乃神姫、通称ヒメは、妹の真夏まなつと待ち合わせをしていた。

真夏はスピリチュアル好きな十六才の女子高校生。

兄と同じ文芸部に所属している高校一年生だ。


「ヒメちゃん、魔法のノートのお話を聞いたことがある?

ーー そのノートに物語を書くと願いが実現されるという

ーー 不思議なノートのお話なんだけどさ」


「真夏、それ、知っているよ。

ーー それには科学的な理由があって、

ーー 不思議じゃないと言う話を本で読んだことがある。

ーー 誰の本かは忘れてしまったけどね」

と、ヒメは言葉を濁した。


「ヒメちゃん、それもしかして、

ーー ジョセフマフィンとかジェームズアインとかじゃないの』

「かもしれない・・・・・・」

とヒメは答えながら話を続けた。




「日本の宗教とは関係無いけど、

ーー 祈りとか、

ーー アファメーションは意外に関係あるかもしれない・・・・・・。


ーー 人間の潜在意識は、

ーー 自動録音機なようなものだと言う話を聞いたことがあるよ。

ーー すべてを吸収してしまうスポンジのお化けみたいなものなんだとか」

笑いながらヒメが答えると


なの?」

と、真夏も笑った。


「真夏、例えだよ。例え。

ーー 吸収と言う意味では似ているからね。

ーー スポンジが吸収した水分を吐き出すけど、

ーー は無制限に吸収してしまう」


ーー 人間の潜在意識がお化けスポンジなら、

ーー 吸収した情報を変換せずに吐き出して実現する。


ーー もちろん吐き出すまでの時間差もあるけど、

ーー ある意味、同じ原理かも知れないよ。真夏」



「ヒメちゃん、そのに願い言をかける方法を知っているの?」

「知らないけど、怖いお話なら知っているよ。

ーー 真夏、聞きたいか」


「ええええーーうん」

「有名な作家に短命が多いのを知っている?」


「うんーー知っている。

ーー 小説家や漫画家に多いよね」

と、真夏。


「お化けスポンジが原因と、僕は考えているんだ」

ヒメは真夏に説明を続けた。


 潜在意識のストレージのような

自動録音機のように吸収しては吐き出して繰り返す。


「けれども、それには善悪正邪の区別も無いから不都合も吸収してしまうんだ。

ーー 冗談で噂話をしていたら噂の本人が現れた偶然もよくあるよね。

ーー それが、噂話ならいいんだが・・・・・・。


ーー 作家は架空の物語の中でお化けスポンジに不都合な情報を刷り込む。

ーー その結果、現実世界に再現してしまうのかもしれないと、

ーー 僕は思うんだよ。真夏」


「ヒメちゃんの話・・・・・・確かにありそうな話かも」

と言って、真夏は真剣な顔で兄を見つめた。


「真夏、世の中の成功者と呼ばれている多くの人ですら知らないお化けスポンジの仕組み。

ーー 彼らのほとんどは無意識の結果が良い方向になっているだけなんだ。


ーー 祈りやアファメーションを、潜在意識に届ける秘密の扉の鍵を見つけないと・・・・・・。

ーー 実際に潜在意識を発動できるかは、未だ誰にもわからない未知の領域なんだ」

と、ヒメは言って、言葉を止めた。


「ヒメちゃん、偶然は必然も、お化けスポンジの仕業かな?」

「噂をすればの、あれも同じ仕組みだからね」

とヒメは答えた。


 結局、魔法のノートはお化けスポンジに化けた。

のお話は脱線しながら延々と続いた。


 二人は、校内放送に気付いて、あわてて屋上を後にした。


 新緑の季節の日差しは夢乃兄妹に心地良く足取りも軽く駅までの道を急ぐ。

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