第二話 新入部員 夢乃神姫、白石陽子

 神聖女学園文芸部は、別棟の図書室の隣を部室にしていた。

文芸部の隣は、美術部、茶道部、華道部、写真部、占い部、かるた部、天文部、演劇部、吹奏楽部、ゲーム部、パソコン部などがある。


 神聖女学園の部活規定は五名以上で、定員未満となると同好会に降格される規則があった。

春以降、文芸部は、三年二名、二年一名だ。

現在は三名で同好会降格寸前になっている。

文芸部顧問の昼間夕子がヤキモキするのも無理はない。


成田寿美礼なりたすみれ三年

吉川静よしかわしずか三年

日向黒子ひなたくろこ二年


新入生二名確保が部活生存の最低条件だった。




夢乃神姫ゆめのしんき一年は、数少ない男子生徒の一人だ。

昼間夕子先生に学校の廊下で呼び止められた夢乃は緊張した。


「夢乃、今日は、天気いいな」

男口調の昼間夕子。

「はい、先生」


「そこで、どうだ。あとで、屋上に来ないか」

「はい! 行きます。

ーー クラスメイトもいいですか」


「構わん、じゃ白石に声をかけて見ます」

「じゃ、放課後だ」

「はい、先生」


 夢乃はクラス委員の白石陽子を探していた。

陽子も夢乃を探している。

廊下の端に夢乃を見かけて、白石は駆け寄った。


「夢乃君、少女漫画ファンでしたよね」

「そうだけど・・・・・・」


「キャンディチョコの最新刊を持っていたら、

ーー 今度貸してくれない」

「いいよ・・・・・・。

ーー 僕からもお願いがあるんだけど・・・・・・」


「今日の放課後、昼間先生に呼び出されている。

ーー 屋上で待ち合わせしているんだけど」

ーー 白石も付き合ってくれないか」


「私、お邪魔じゃないのかな?」

白石が笑いながら答える。


「そんなんじゃないから

ーー 白石に声掛けることを伝えてあるから」

「そんな・・・・・・まあ暇ですし・・・・・・いいわ」


 夢乃と白石は、屋上に通じる薄暗い階段を上がりながら、アニメや漫画の話をしていた。

昼間夕子は、夢乃たちより先に到着して遠くに見える山脈を眺めいた。




「先生、すみません。遅れました」

「問題ない、ところで、夢乃、白石、アニメとか漫画好きか」


「今も、その話をしながら歩いていました」

「僕は作家志望で、白石は漫画家志望なんです」

「それはいい・・・・・・。

ーー ところで、君たちにお願いが二つある」


白石が唐突に先生に質問をした。

「先生、私もですか」


「そうだ、夢乃に声掛けしたあと、

ーー 白石について熟考した上のことだ」

昼間は二人の生徒を交互に見ながら説明を続ける。


「今、文芸部は定員が足らず存続が難しい状況だ。

ーー あと二名が必要で君たちが候補に上がった」

昼間夕子先生は、生徒たちからの人気の先生で、夢乃と白石は顔を見合わせて驚く。


「どうだ、夢乃、白石、

ーー 返事はあとでいいから考えてくれないか」


「夢乃君が良ければ、私には断る理由がありません」

白石は夢乃に責任を振った。


「白石さん、そりゃあないよ」

夢乃が言うと、昼間と白石は苦笑いする。


「昼間先生、僕も白石が良ければ断る理由が無いから」

白石の言葉を逆手に取って夢乃が応じたので、三人は大笑いが屋上に響く。


「お前ら、アニメみたいな展開だな」

「ところで、もう一つがあるので、聞いてくれ」


「実は、演劇部に文化祭のシナリオを頼まれた」

「まさか劇のシナリオですか。先生」


「テーマは、三日月未来の【かぐや姫は帰らない】をモチーフにしているらしい」


「先生、それアニメみたいで面白そうですね。

ーー で、僕と白石は何をするのですか」


「入部したら、その物語のプロットを二人で考え欲しいんだよ。

ーー 先輩達三人は文芸部の文化祭の準備で手が空いて無い。

ーー 君たちに是非、お願いしたい」


夢乃が昼間を見て、今の流れを確認した。


「先生、じゃ、入部したあとで・・・・・・。

ーー かぐや姫の新しい物語のプロットをお手伝いすると言うことですね」


「そうだ、できるだけ君たちの力でやってくれ、

ーー 原稿は先生がチェックするから心配ない」


原作のプロ作家が原稿チェックと事前に知らされていたら、夢乃も白石も緊張していただろう。

昼間夕子は意味ありげに二人にヒントを与えた。


「かぐや姫が現代に転生していたらと考えたことないか。

ーー 月からお迎えが来て月に戻るよるより現実的じゃないか」

ーー かぐや姫には従者がいる。

ーー 従者が転生する年、かぐや姫も転生すると言う都市伝説もありだな」


夢乃は、それを聞いてワクワクした。


「先生、そういう物語で行きます」

夢乃の返事を聞いていた白石の瞳が輝いていた。


「夢乃君、台本のイラストを私に書かさせて、

ーー 天女みたいなイメージが見えたので」

「白石さん、イラストは君に任せるよ。

ーー 美術部が嫉妬しそうだけど・・・・・・」


昼間が口を開いて、更にヒントを与える。


「物語に、こうじゃないといけないと言う決まりごとはない。

ーー 昔と違って今は、誰もがネットなどで物語を書ける時代なんだ。

ーー フィクションは、作家の自由な発想で良くも悪くもなる。


ーー アニメや映画だって、つまらなければ五分見るのも辛いだろう。

ーー 自分が読んで面白い物語が最高と思わないか。

ーー 他人の評価は二の次三の次でいい」

昼間夕子は腕時計を見て言葉を切る。


「じゃ、今度は部室で会おう。

ーー 場所がわからなかったら、職員室に来てくれ」

「昼間先生、ありがとうございます」

夢乃と白石の二人は昼間に丁寧なお辞儀をした。


遠くの山々が薄く夕焼けに染まっている。

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