第10話 トラセントダンジョン

 超越者たちを集めたギルド、トラセントを作った。


「それでダンジョンを作るってことだったけど、どういうのつくるんだ」


 ディアブルが身を乗り出しながら聞いてくるけど、よく見るとほかのみんなも同じように目を輝かせている。興味津々だな。


「そこらへんはみんな集まったところで相談しようと思っていたから、あまり考えてないんだよな。ということで意見を頼む」


 俺がそういうとみんながみんな揃ってあーだこーだと言い出した。それを聞いたアリアロッテはさっそくといわんばかりに近くにあったホワイドボードに書き込みを始めた。


 そうして書かれた内容をまとめていくと何かとんでもないダンジョンになりそうだ。それはそうだろうみんな高レベルだけあってこれまでさんざんダンジョンを攻略してきた。また、中には別のゲームでもというやつが多数、夢を詰め込むようにアイデアが飛び出していった。


「なぁ、これ無理じゃね」


 タナートスがぼそりとそういったことで、俺たちはそろって気が付いた。


「……やばい」

「……調子に乗りすぎた、かな」

「どう見てもそうだろ」

「あ、危なかったな」

「もう一度考え直しましょうか」

「だな」

「う、うん」


 いろいろ詰め込みすぎて、どう考えても攻略不可能なダンジョンを考えてしまった。それに気が付いたのち再び最初から考えることになった。



 そんなこんなでさんざん話し合ったことで、ようやく納得のいくダンジョンの設計が出来上がった。あとはこれをクリエイトシステムを使って実際に作成していく。このダンジョン作成の仕方としてはシステムに付随されている作成ソフトをゲーム内パソコンで起動し作成するというもので3Dとかそういった知識がないと作れない。実は俺たち4人では作れないといった理由がこれで、残念ながら俺たち4人にはそのスキルがなかったのだ。しかし幸いリリアンとアルフレッドの2人が3D関係の仕事をしており、すぐさま作成ソフトを使ってダンジョンを作ってくれた。


「これで、大体ダンジョン出来たけれど、モンスターとかはどうするんだ」


 ガルマジオが出来たダンジョンを見て、満足そうにしながら聞いてきた。


「それは、アリアロッテとミサリオの2人がやってる」


 ダンジョンといえばモンスターが徘徊しているものだが、これはすでに先ほど言った2人がすでにモンスター図鑑から選別し確保している。あとは適当に配置しておけば倒されてもリポップするはずだ。


「となるとさ、やっぱり階層ボスとかもいるよね。それはどうすんの」


 ルナ3が言うようにダンジョンといえば階層ごとに出現するボスとなるわけだが、これは図鑑から選別するというわけにはいかない。それというのも図鑑に載っているのはあくまでこのゲーム既存のもの、それを配置してもボスという特別感が全くない。


「それはNPCで作ればいいんじゃない」


 フローレンが言った。確かにそれで魔物を新たに作ることも可能だ。


「それはそうだけど、なんかねぇ」

「ああ、言いたいことはわかる」

「でも、別に酷使させるわけじゃないから大丈夫だろ」

「というか、俺たちぐらいのレベルだと問題なくね」


 そう言った会話が起こっている理由は、かつてこのゲームで起きたある事件。事件といってもそこまでたいしたことではないんだけどね。


「ねぇねぇ、それってもしかしてあの事件?」

「ああ、あれは、悲しい事件だったよね」


 あかねんとルナ3がしみじみと言っているわけだが、これは2人にとっては他人事ではない事件だったからだ。


 さて、その事件、メリアリス王国事件のことを少し話しておくと、この事件の概要としてはサービス開始から2年と少しぐらいしたころだっただろうか、そのころゲーム内でも結構大きなギルドであったメリアリスが国を作ったことに始まる。当初は普通に国を動かしていたようで、プレイヤーも結構移住していた。ちなみに俺たちも一瞬考えたがなんというか辞めた覚えがある。それで、その国で何が起きたのかというと、あれは建国から現実時間で2か月ぐらいしたころだろうか、突如とんでもなく重い税をかけ始めたかと思ったら、まるで国民を奴隷のように扱いだした。プレイヤーたちは当然そこから逃げ出したがNPCは逃げられなかった。そして、ある日反乱が発生。まさかNPCが反乱をするとはだれも思わなかった。しかも、その反乱には衛兵隊が加わったことにはさらに驚愕したものだ。この衛兵隊というのは運営が動かしている者たちでゲーム内で重罪を犯したものを殺しに来る連中でそのレベルは150から500までとなっており俺たちみたいな超越者ならともかく通常プレイヤーではまず勝つことはできない。そして、彼らに殺された場合、現実時間で1か月牢に入れられる。つまり1か月間何度ログインしても必ず牢内に出ることになり、当然脱獄もできない。しかもやっと刑期が終わり牢を出れたとしてもレベルが半分になり装備類(課金アイテム以外)も没収されてしまうというかなり厳しい罰となるから、通常は殺された時点でやめていくことになる。とまぁ、実際メリアリスのメンバーたちもそうして辞めていった。

 まぁ、ここまでであれば特に事件とするまでもないことだ。確かにNPCの反乱には驚くべきではあるがそれだけといえばそれだけでしかない。

 では、どうして事件となったのかというと、実はこの事件の現場は何と現実で発生した。

 なんとメリアリスのメンバーの一人が運営を訴えた。苦労してレベルを上げて獲得したアイテムを没収されたのは不当だと言い出した。そうして裁判になったわけだが、これについてはあっさりと運営が勝った。それというのもしっかりとこういうことをするとこういう罰がありますと、ホームページからパッケージまであちらこちらにはっきりと書いてあるからだ。というかログインするとき毎回同意しているあの長い同意書にも詳しく書かれているらしい。読んだことないけど……

 それはいいとして、実はメンバーの中に現役のアイドルがいたということが最大の問題だったんだよな。それというのも、そのアイドルは清純派として売り出しており、ゲーム内とはいえ民を苦しめていたということが大炎上した。ここで疑問ゲーム内では基本自分でばらさない限り正体は知られないし、何よりそのアイドルも正体を明かしていなかった。ならなぜバレたのか、それこそマスコミだった。マスコミがこの裁判に興味を持ち何やら調べて報道した。その内容の中にアイドルの名が書かれてしまったというわけだ。その結果そのアイドルは引退に追い込まれ、またはその道連れとしてグループ事態までも壊滅してしまった。ちなみにそのグループは長い年月にわたり国民的アイドルとして人気を博しており、日本人なら知らないものはいないといわれているほどのグループだった。

 ルナ3とあかねんもまたアイドルであり、実は2人が忙しくなったのもこのグループが壊滅したのでその後釜に入ったからだ。


 閑話休題。



 それから俺たちはそれぞれアイデアを出し合ってNPCを作成していったのだった。

 そうして、それから現実時間で3か月後、何とかダンジョンが出来上がった。その名もトラセントとギルド名を冠したダンジョンである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る