36歳童貞、魔法少女になる

叉焼

第1話

「ピュアな心に引かれてやって来たにゃ。僕と一緒に魔法少女として…え?」





悪の化身『ジャークナー』に僕達の星は破壊されたのにゃ。

ジャークナーの次の目標は地球…

僕達の星の様な悲劇はもう起こさせないにゃ!

僕達妖精の力と清き心の人間の力が合わされば、きっとジャークナーにも打ち勝てる筈にゃ。

僕と契約して魔法少女になってくれる人間を捜さなくては。


はぁ、なかなか見つからないにゃぁ…

早くしないと奴等が来てしまうにゃ。

そういえば小さな女の子ほどピュアな心が強いって長老が言ってたにゃ。

…はっ! この近付くにピュアな心を感じるにゃ!

このピュアな心の持ち主なら、きっと魔法少女になって皆をジャークナーの悪の手から救ってくれるに違いないにゃ!


僕は必死でこのピュアな心の持ち主を捜した。

このアパートからだにゃ。

「ピュアな心に引かれてやって来たにゃ。僕と一緒に魔法少女として…え?」


『あん、そんな…先輩…ダメ』

『そんなに激しくされたら…私』

『あっ…先輩の…おっきい…』


僕の目の前にはヘッドフォンをしパソコン画面に釘付けになっている全裸の男が1人。

男はこちらに気付かないまま、激しく右手を上下しながら左手でマウスをクリックしている。

「…あれ?部屋番号間違えたかにゃ?」

いや…間違いなくこの男からピュアな心の力を感じるにゃ…

あれ? ピュアってなんだっけ?

男に近付いて顔を覗き込んでみた。

「うわっ、ぶっさっ!」

髪はボサボサ、顔は平均以下、腹は出てるし、うわっ…臭いティッシュが散らばってる…


「はぁはぁはぁ…あっ!ティッシュティッシュ」

「へ?! あっ! ちょっと待って! 僕はティッシュじゃないにゃ」



俺は今、日課の12時間耐久エロゲーをしている。

常に上下している右手はもはやアームレスリングの選手の様に逞しい。

「ふぅっ」

何回目の絶頂をだろうか、ティッシュの消費を2箱目になってから数えるのを止めた。

俺は画面に目を向けたまま、感覚でティッシュに手を伸ばした。

『ムニュッ』

ん? なんだ?

ティッシュを掴んだつもりが、ムニュッとした感触。

あれ? オナホ出しっぱだったっけ?

洗って陰乾ししてるよな?

何かを掴んだその手をを見ると、背中に羽根の生えた…猫?

「うわぁ!」

ビックリして椅子から転げ落ち、ヘッドフォンが外れた。

「なんだコレ! どっから入ったんだ!」

手から飛び出した猫は宙を舞い、

「コレとは失礼にゃ! 僕は光の国の妖精なのにゃ」


空飛ぶ猫は全裸の俺を下から上まで見て、

「あの~、失礼ですが性別は」

「見たらわかんだろ、男だよ」

「ご年齢は?」

「36だったかな」

「ご職業は?」

「ベテラン自宅警備員」

「…今回はご縁がなかったと言うことで失礼させていただきますにゃ」

『がしっ!』

俺は猫の頭を掴み、

「ニートの俺に面接ごっことは嫌がらせか? まさか親父の指金か?」

早く職を見つけろと耳にタコが出来る位に言われてきた。

俺は働いたら負けだと思ってる。


『バーーン!!』


「なんだっ!」

いきなり外から激しい音と振動を感じ振り向くと、少し離れた所で火柱が上がっているのが見えた。

「うわぁ事故かぁ?」

「ち…違うにゃ…あれはジャークナーの手先、僕の星はアイツ等に滅ぼされたんだにゃ。もう地球に来ていたにゃんて…今から他を捜す時間なんて………。お願いにゃ…僕と契約して、一緒に戦って欲しいにゃ!」

「え? 嫌だよ」

「にゃ!? 地球が滅びでも良いのかにゃ!?」

「俺にメリット無いし、動くの苦手なんだよね。俺がやらなくても誰がやるって」

「ジャークナー1体に付き妖精の国から10万円が支給されるにゃ」

「俺働いたら負けだと思ってるから、10万位じゃ俺の信念は曲げられねぇわ」

「…ジャークナーを全員倒したら、光の国の姫様が何でも願いを叶えてくれる筈にゃ」

「何でも?」

「何でもにゃ」

俺は急いで先ほどプレイしていたエロゲーの箱を手に掴み、

「ならこのヒロイン、ドスケベエルフのソフィーナちゃんを俺の彼女として現実世界に呼び出したりも出来るのか!?」

「もちろん姫様なら可能にゃ」

「ふぅ、最近運動不足だしな。しゃーない、たまには本気だしてやっか」

「…」

「っで? どーすれば良いの?」

「…この契約のペンダントを胸に着けて『光の戦士、ピュアホワイト』って叫べば変身するにゃ」

俺は猫からペンダントを受け取り、

「光の戦士!ピュアホワイト!!」

力の限り叫んだ。

すると、光のベールが俺を包み、瞬く間にヒラヒラのドレスに変えていく。

「この星は私が守る!魔法少女ピュアホワイト!」

勝手に口が動いていた。

「おい、…なんだこの格好は!?」

ヒラヒラの白いドレス、胸やスカートにはハートの刺繍があしらわれている。

「…その姿は魔法少女ピュアホワイトにゃ」

「俺は男だぞ?」

「…本来は女の子用にゃ」

「じゃあ何で俺を選んだ? ん?」

「他に変身出来るほどのピュアな心が見付からなかったにゃ…」

「こんな格好で外に出れると思うか?」

ヒラヒラの魔法少女ドレスを体重110キロの俺が着てるのだ。

「…今日はハロウィンだから大丈夫じゃないかにゃ?」

「今6月だぞ?舐めてんのか?」


『ドーン!バーン!』


外の爆破音が大きくなり、悲鳴も聞こえてくる。

「もう時間が惜しいにゃ! 強制連行だにゃ!」

猫は俺の背中に飛び付くと小さかった羽根が大きくなり、

「いくにゃ!」

『バリンッ!』

窓を割り外へ飛び出した。






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