願いの道筋(1)
私にとって、優馬さんは輝ける人でした。
初めて出会った時には、それほどでもありませんでしたけど。
ダンジョンというものが現れて、スタンピードで両親が死んで。
私は復讐のためか、ダンジョンを攻略しようとしました。
Eランクダンジョン、Dランクダンジョンは順調に攻略できたんです。
ですが、Cランクダンジョンで自分の限界が見えました。
知性を持って立ち回る敵。それを相手に、ただ目が良いだけではどうにもできなくて。
私は敵の動きをしっかり見て、攻撃を避けるのは得意でした。
だけど、それだけでは足りなかった。急に不意打ちされたり、複数体で同時に襲われたり。
それで、命の危険を感じて諦めてしまったんです。
実際のところ、私は死に場所を探していたのかもしれません。
だけど、本当に死が目の前に見えると怖くなった。そんなところだと思います。
結局、ダンジョンを誰かが攻略してくれると期待するだけになっていったんです。
そんな時に、優馬さんと出会うことになった。
始めは名前も知らなくて、ただ挨拶するだけの関係でした。
彼は頼りなさそうな見た目をしていて、だから、Cランクダンジョンに挑むのも信じられなくて。
だけど、優馬さんは私の想像を超えていったんです。
確かに攻略には行き詰まっているようでしたけれど、ほとんど傷を負わずに帰ってくる。
それだけで、確かな実力を感じられました。
いえ、ダンジョンを覗いていくだけという可能性もあったんでしょうけどね。
ただ、優馬さんは帰りを待ってくれる人がいるらしかった。
少し羨ましいような、彼も私と同じでなくて良かったような。そんな複雑な気持ちでした。
優馬さんの名前に見合った優しい笑顔は、きっとまだ何も失っていないから。
そう思うと、彼は取りこぼさないでいてくれたらな。そう感じられました。
ある日から見せてくれた笑顔がけっこう可愛くて、それで私にもだんだん心を開いていく様子が感じられて。
私からも、優馬さんに親しみを覚えるようになっていきました。
そこでようやく気がついたんです。私は誰かとの交流を求めていたと。
自分の感情を自覚してから、少しだけ優馬さんの帰りを待つ人が邪魔になってしまいました。
というのも、私の居場所になってくれそうな優馬さんにとっての、心のすみかだったから。
私が欲しいのは、私とずっと一緒に居てくれる人。
だから、優馬さんが遠くなっていく、そのきっかけくらいにしか思えなかったんです。
それでも、優馬さんのダンジョン攻略は応援していました。
だって、死んでほしくなかったから。心温まる時間を失いたくなかったから。
たとえ優馬さんが離れて行ってしまうのだとしても、また無くしたくはなかった。ダンジョンに奪われたくなかった。
両親の命が奪われた時のような悲しみをもう一度味わうのだと思うと、胸が張り裂けそうで。
私と優馬さんが、ほんの少しだけ交わった時間。それを心の支えに生きていくのも良いと、そう考えていました。
だけど、それが変わったのは、優馬さんがCランクダンジョンを攻略したと知った時。
なんだかんだで、彼は弱い人に見えていました。
だから、ダンジョンに挑むことを諦めるんだろうなと、そう思っていたんです。
でも、違った。優馬さんは成し遂げた。
私が投げ捨てた未来を、ちゃんとつかみ取っていたんです。
それはつまり、臆病な心を持ちながらも、そこから勇気を絞り出したってこと。
自分が折れた側だからこそ、その素晴らしさは誰よりも理解できると思えました。
だって、優馬さんはずっと苦戦していた。
それなら、逃げ出したいと思うのが普通じゃないですか。少なくとも私はそうだった。
だけど、優馬さんは諦めなかった。なにか装備を手に入れていたけれど、その支えがあったとしても。
ちょっと強い武器を手に入れたくらいで攻略できる場所じゃない。私は実感していました。
だからこそ、本気で優馬さんのことを尊敬できたし、好きになれた。
きっと、その時にはまだ恋じゃなかったはずだけれど。
でも、優馬さんと離れたくないと思う程度の好意ではありました。
だから、一緒にいる時間を失いたくはなかったんです。
そのために、必死に情報を探して、集めて。
優馬さんの名前を知ったのも、その時でした。
彼には簡単に調べられたと言ったけれど、私は全力だった。
偶然が紡いだつながりを手放したくなくて、全てを尽くした。
優馬さんとの関係を保てるのなら、それだけで幸福だと信じていたんです。
実際に、彼との時間は私を癒やしてくれた。
両親を失った私にとって、ただひとり心を許せる人になった。
友達もろくに居なかった私を、素直に受け入れてくれる人。
その存在のありがたさがどれほどか、優馬さんには分からないのだろうと思います。
優馬さんには何でも話せた。両親を失ったことも、遺産がそれなりにあることも。
それは、彼が私を大事にしてくれることを実感できたから。
つまらない欲望で、私を振り回したりしないと信じられたから。
優馬さんが死んでしまったら、私は生きる希望を失ってしまう。
そう考える程度には、私の光と感じていたんです。
絶対に離れたくない。そう思うまでに大して時間は必要なかった。
優馬さんと出会えた幸運は、絶対に無くしたくなかった。
仮に両親と一緒に居た時間に戻れたとしても、もう一度死ぬのを見過ごすかもしれない程度には。
私は、人生で初めての憩いを手に入れていたんですから。
両親だって、大切な存在ではあった。今まで無事に育ててくれてはいましたから。
だけど、優馬さんとは比べることすら、する気はない。
私のことを温かい目で見守ってくれる姿からは、親以上の愛情を感じましたから。
出会ってわずかな時間でしかなかったけれど、彼はとても強い親しみを覚えてくれていたんです。
優馬さんは確かに強かった。だけど、それだけじゃなかった。
私を見つめる優しい瞳。幽霊を怖がるような可愛い姿。
強さと弱さと優しさと、全部を持ち合わせた人だったんですよ。
だから、誰よりも輝いて見えた。人間だと思えた。
そんな彼は、私をとても大切にしてくれている。
だけど、私よりも大切な存在が居る。
嫉妬の心が抑えきれそうになかった。まだ、恋していた訳でもないのに。
でも、たったひとりの友だちだと思えば、おかしな感情ではないですよね。
誰かに奪われたくない友情だって、きっとありますから。
そんな感情が、もっと大きく変わったきっかけがある。
スタンピード。私に襲いかかるモンスターが、たくさん出現した事件。
それが、私達の関係を大きく変える運命の始まりだったんです。
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