現代ダンジョン英雄育成計画:私だけのヒーローになってくれるよね♡
maricaみかん
始まりの決意(1)
ある日、僕たちが暮らす現代日本にダンジョンが現れた。
門のようなものが急にできて、そこに入っていくとゲームのような世界が広がっているらしい。
侵入していった人たちは、何割かが犠牲になり、残りが命からがら逃げ帰ってきた。
その人達によると、いわゆるモンスターとしか言いようがない存在が居る。
モンスター達は、見つけた人間達を攻撃していく。
種族も能力も様々で、それでも人間の脅威であることには変わりがない。
ただ、今のところはダンジョンから外にモンスターが出てくることはない。
多くの人にとって、危険ではあるものの、関係のない存在であるようになっていった。
僕もその1人で、いつもどおりに高校に通いながら過ごしていた。
「
なんて言ってくれる、幼馴染の
元々近所だったのだけれど、犬に噛まれそうになっているところを助けてからは、親しみを持ってくれているみたいだ。
まあ、僕はそれから犬が怖くなっちゃって、近づくこともできないんだけど。
いじめられっ子で意気地なしの僕には見合わないくらい可愛い人だ。
黒髪をいわゆるボブカットにしていて、清楚で可憐という言葉が似合うような人。
目はパッチリしていて、肌はびっくりするくらい白くて透き通っている。
ただ、見た目のイメージ通りではない瞬間もあるかな。
「そういえば優馬君。ダンジョンの映像は見た? 臆病な優馬君には、ちょっと刺激的だった?」
なんていたずらっぽいことを言ってきたりする。通学路を歩く上で、最近の話題が便利だということは分かるけどね。
僕が臆病なのは事実だけれど、直接言ってくるのはヒドいよね。
「少しだけね。自分からダンジョンに入っていく人の気持ちは分からないよ」
ダンジョンについては、多くの人が触れようとしていない。関わらなければ安全だと思われているからだ。
今のところは、ダンジョンの外にモンスターは出てきていないから。
ただ、例外はいる。目立ちたがり屋の人達。SNSや動画投稿サイトで活動するようなネタを求める存在がいる。
その人達は、たまに入っていって、死ぬか逃げ帰るかしていた。
動画や画像を見ていた人達にとって、ダンジョンに入ることは正気の沙汰ではない。
モンスターは、熊や虎よりも恐ろしい存在として見えていたからだ。
今のところ、銃が通じるかどうかは分かっていない。
少なくとも、何の準備も整えずに入っていい場所じゃないんだ。
僕の住む火狩町にも、ダンジョンの門があるらしいけれど。絶対に近づこうとは思わない。
見ていた映像でも、スライムとしか言いようがない存在に体当たりされて、押し倒されて、そのまま死んでいる人が居たから。
きっと、僕なんかだと簡単に殺されてしまう。
「私だって、優馬君にダンジョンに入ってほしいとは思わないよ。すぐ死んじゃいそうだからね」
「僕は弱いのは確かなんだけど、縁起が悪いことを言わないでほしいな、愛梨」
「ごめんごめん。優馬君が心配なのは本当だよ。大切な幼馴染だからね」
僕にとっても、愛梨は大切な幼馴染だ。毎日顔を合わせているし、親しくしてくれている。
棘のある言葉を言ってきたり、そんなのも親愛表現だって感じる程度には。
だから、一緒に過ごす日常を大事だと感じていることは事実だ。
「ありがとう。でも、僕はダンジョンに入ったりしないから。安心してほしいな」
「そうだね。あ、今日もお弁当作ってきたよ。お昼は一緒に食べよ」
いつも僕のお昼ごはんを用意してくれているあたり、愛梨だって同じように感じてくれているのだろう。
わざわざ手間をかけて弁当を作ってくれて、同じ空間でご飯を食べて、それを嫌だと思わないくらいに。
今日も明日も、同じような日常が続いていけば良いと思っていた。
その日の放課後まで、事件が起きるまで。
いつものように授業を終えて、帰り道。
突然、地震が起きた。隣にいる愛梨ともども、少し立ち止まってしまうくらいの。
「念のために、公園にでも行く?」
なんてのんきなことを言っている僕を見ず、愛梨は震えていた。
何があるのだろうと、視線の先を追う。
水色でプルプルしていて、跳ね回っているいわゆるスライム。
膝の高さくらいの大きさはあって、見た目だけなら可愛い。
でも、僕は知っている。弱そうな見た目をしていても、犠牲者が出ている存在なんだって。
今日の映像でも見ていた。スライムに体当たりをされ続けて死んだ人を。
ポヨポヨした音が出そうな感じで、こちらへと体を揺らしながら徐々に跳んで近づいてくる。
心臓が変になりそうだ。というか、もうおかしいのかもしれない。ドクドクしている感覚が分かる。
バクバクとした音まで聞こえてきて、音のおかげで少しだけ冷静になれた。
愛梨は怯えている。なら、逃げるしか無い!
「愛梨、こっち!」
手を取って、全力でスライムと反対側へと駆けていく。
どこへ逃げれば良いのか分からない。そもそも、モンスターはなぜ現れたのかも知らない。
でも、とにかく少しでも離れないと。僕はともかく、愛梨だけは無事でいてほしいから。
走っていく中で、後ろから音が聞こえる。ペチャリと水が地面につくような音が。
つまり、後ろからスライムは追いかけてきている。やはり、人間を狙っているのだろうか。
そういえば、他の人達は居ないのだろうか。うまくターゲットを変えてくれないか、つい期待してしまう。
スライムに追いかけられた人は、きっと死んでしまう。それでも、愛梨が死ぬよりはマシなはずだから。
分かっている。卑怯で残酷で、とても許されない考えだって。
でも、僕なんかにモンスターを倒せるはずがないから。逃げるしか無いから。
愛梨は僕より足が遅くて、だから全力で引っ張っていく。
僕の命よりも大事な愛梨だから、絶対に助けたくて。
「優馬君、私のことは良いから……!」
なんて言われたって、何があったとしても手を離すつもりはない。
愛梨が生きていてくれるのなら、僕の人生にも意味があったと思えるから。
だって、愛梨だけだったから。僕を必要としてくれる人間なんて。
弱くて情けなくて、それでも自分を諦められなかった僕を。
「ダメだよ! 愛梨だけは何があっても見捨てないから!」
決意を込めて言葉にする。だけど、どれだけ走ってもスライムは振り切れない。
このまま追いつかれたら、きっと愛梨は死んでしまう。
でも、戦ったところで勝てるはずがない。でも、逃げられるかは怪しい。
どうすればいい。どうすれば。奇跡にかけるしか無いのか?
愛梨の顔を見る余裕すらもない。いま苦しんでいるのだろうか。悲しんでいるのだろうか。
本当は諦めたいと思っていて、僕が無理やり付き合わせているだけなのかな。
だとしても、愛梨には生きていてほしい。他の何が犠牲になってもいいから、愛梨だけは。
必死で逃げる。後ろから水のような音が迫ってくる。
相手には体力はあるのだろうか。僕はモンスターのことを何も知らない。
結局は、無策でがむしゃらになっているだけだ。
このまま逃げ続けていて、効果はあるのだろうか。
諦めたら楽なんじゃないか? そんな考えすら浮かんでくる。
でも、愛梨を見捨てたくない。せめて、彼女だけでも逃げ切ってほしい。
そういえば、今どこにいる? 音から遠ざかることを優先したせいで、知らない道に入り込んでしまった。
もし行き止まりに当たってしまえば、そこで終わりだ。
多少足が遅くなったとしても、知っている道を優先すべきだったか。そんな後悔が襲いかかってくる。
「優馬君、前!」
そう言われて前を見ると、行き止まり。完全に裏道に入ってしまっていて、逃げ場がなかった。
僕はここで、どうすれば良いのだろうか。
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