第28話 弱男の贈り物
残念な服装特番が終わって数日後。
俺は家に居た。普段の俺は浜に打ち上げられた魚のごとく哀愁を漂わせているが、今日の俺は少し緊張していた。
というのも本日、六月一日は乃和木風華の誕生日で、これから家に来ることになっているからだ。
誕生日だから彼氏や不倫相手や枕の相手やセフレ当たりと過ごすのかと思いきや、そんなこともなくここに来るらしい。
そうでなくても友達、同僚、家族とかと過ごさねぇのかよ。ぼっち確定だな。やーい、俺みたいな奴ー!
内心あざわらっていると、玄関から音が聞こえてきた。いつものように玄関チャイムは鳴らされず、合い鍵で勝手に入ってきた。
「やぁやぁ、風華ちゃんが遊びにきましたよ」
「ど、どもっす」
「おやおや? 緊張してどうしたんですかぁ? もしかして今日はなにか特別な日ナノカナー?」
うぜぇ。白々しいこと言いやがって。
俺は鼻で笑いつつ、冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。
「誕生日おめでとうっす。これマカロンのケーキっす。ショートケーキにマカロン貼っ付けただけっすけど。ドーナツケーキのお返しっす」
一問一答の時、マカロン好きって言ってたからな。ちょっと高かったけど仕方ない。ありがたく食えよな!
「私のパクリということですね」
せめてリスペクトと言え。
「あはは……」
「ところで誕生日プレゼントはまだですかサンタさん」
誰がサンタだよ。誕プレくれるサンタとか個人的に繋がる気満々のストーカー予備軍だろ。
「はい、これっす」
A4サイズくらいの大きさで、赤いリボン付きの包みを渡した。普段プレゼントなんてする友人も彼女もいないし、なんだか気恥ずかしいな。
「食べていいですか?」
食べ物じゃねぇよ。食いしん坊め。
「食べられるもんならどうぞっす」
乃和木がソワソワしながらリボンを解いて開ける。そして中のブツを広げた。
それは“お天気お姉さん”と縦に書かれたTシャツだ。
「アハハ! なんですかこれ!」
俺と乃和木風華の仲は、知り合いと友達の間くらいだと思う。知り合いというには浅くなく、友達というには深くない。
たとえるなら会社の先輩と新人後輩みたいな関係だ。失敗ばかりで世話を焼く後輩に少しだけ愛着が湧いてきたみたいな、そんな関係。
だからブランド品などではなく、少しだけ話題に花が咲くような、そんなものにしてみた。服を買いに行った時、漢字Tシャツ欲しそうにしてたし似たような文字入れTシャツなら喜ぶと思ったというのもある。
「嬉しいです! 額縁に入れて飾りますね!」
「いや、汚れ仕事の時にでも着てくれっす」
「じゃあ普段着にして外歩きます!」
やめろ。SNSに晒されるぞ。
「身バレするしやめた方がいいっすね。それよりキャスターやスタッフと作業する時にでも着ていけば大ウケっすよ」
ま、一分も経たない内に飽きられるだろうけどな!
「スベリそうですけどね」
余計な一言をいうんじゃないよ!
「でも本当に嬉しいです。ありがとうございます。私のあげたパソコンと比べると安すぎますけどね」
コイツはまた余計なことを言いやがって。でも俺みたいなやつはこういう思ったことをなんでも言ってくれた方が助かる。
俺は察しが悪くて、訳も分からずに嫌われていることが多い。だから言われた方が次に繋げられる分まだマシなのだ。もちろん大ダメージは負うけどな!
「パソコンと同じくらい愛を込めてるっすよ」
「ウイルスですか?」
やめろクソ!
「そんなことより! これから暇ですよね!」
断定口調やめろ。暇だけどさ。
「今日はアニメのDVD持ってきたんです! 鑑賞会やりましょう!」
そう言ってカバンから取り出したのは分厚いDVDBOXだ。タイトルはお天気魔法少女ハレルヤ。確か一年分の話数があるから、全部観ると一話三十分として大体二十四時間掛かることになる。
「これまさか全部観る気じゃないっすよね?」
「当然観ますよ! ポップコーンやチュロス、それにジュースも持ってきました!」
「明日の仕事は大丈夫なんすか?」
「やだなぁもちろん休みですよ。仮に仕事がある日でもキャスターとしては出して貰えませんし、デスクワークも全然任せてくれないんですよ。なので最近はデスクで消しゴムを使ってドミノ倒しで遊んでます!」
リストラ間近の追い出し部屋要員じゃねぇか!
「寮も門限ないですから今日一日帰らなくても大丈夫です。空雄さんも明日休みですよね。
「どうやら逃げ場はなさそうっすね」
誕生日に、部屋の隅に溜まるホコリくらい価値のない俺と過ごすって、改めてやべぇ奴だよな。
「ですです。誕生日マンの言うことはー? ぜったーい!」
王様ゲームのノリで言うんじゃねぇよ。
で、結局流されてしまう俺。俺って絶対ぼったくりバーに引っ掛かるタイプだよな。むなしい奴。
「あ、そうでした! ちょうどここに安っぽい部屋着があるので着てきます!」
安っぽくて悪かったな!
乃和木が洗面所に向かうが、手前で立ち止まった。
「いいですか? 決して覗いてはなりませんよ?」
もう鶴の恩返しはいいって!
数分後。
「じゃーん! どうですか?」
サイズ感はピッタリだ。
「ダサいっすね」
「ですね。選んだ人のセンスがダメなんですよ」
お前に合わせてやったんだけどな!
「さぁさぁ、アニメ観ましょう!」
そして地獄のアニメ観賞が始まった。途中ババアが帰ってきて三人で食事をして、ケーキ食って、お菓子食って、その後朝までアニメを見続けるという
乃和木は終始明るくて素直に感心してしまった。この点だけはお天気お姉さんに向いてるな。俺もちょっとだけ楽しかったし。ちょっとだけな!
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