第20話 社員寮2・密室殺壁事件
お化け屋敷みたいな自室を紹介し終わった乃和木風華は一旦廊下に出た。
「次は他のキャスターさんの部屋を紹介しようと思います」
「まずは隣の鳴神響さんのお部屋です」
えっ、人妻三十五歳俺の最推しお天気キャスター鳴神響ことビッキーの部屋だってぇ!? ありがてぇ!
「響さんは結婚してますけど、愛の巣が仕事場から遠いのでこちらの寮に住んでいるんですね」
愛の巣やめろ……! そのワードは俺にクリティカルダメージなんだが!?
「今、響さん自身は仕事の都合で居ませんけど、後から来てくれるそうです。部屋は入っていいと事前に許可を取っているのでこのまま突入したいと思います」
なんか既視感のある展開だな……。頼むからトラブルは起こさないでくれよ。
「それではお邪魔しまーす。あ、すごーい! 間取りは私の部屋と全く同じでワンルームです!」
大体そうだろ。
「さーて下着はどこかなー?」
お前は深夜番組に出るちょっとエロいオッサンリポーターかよ。ただ、人妻の下着は見たい!
「あ、それはダメ? ですよね」
スタッフからNGを出されたようだ。クソッ! 人妻の下着見せろ!
「仕方ありませんね、では金目のものを探しますか」
泥棒かよ。
乃和木は黒髪を鼻の前で結び、風呂敷を被った泥棒のごとく、抜き足、差し足、忍び足で中に入っていった。
いちいちノリが古くせぇな。生まれる時代間違えただろ。
奥に入ると、一度カメラが部屋全体を映した。机もベッドも整理されていてビッキーの几帳面さがうかがえる。
さすがビッキー。ただ、もうちょい隙が欲しかったな。ベッドが乱れているとか、きったねぇクマのぬいぐるみがあるとか、部屋中バラが散りばめられているとかさ。
「パッとみた感じ完璧ですね。もうちょっと隙が欲しかったです」
隙しかないやつに言われたくないわな。つーか俺と同じこと考えんじゃねぇよ。屈辱だわ!
次にカメラが部屋の隅を映した。野球か何かのバットと表彰の盾のようなものが見える。
「お、これはケツバット用の道具ですか?」
んなわけねぇだろ。ケツ壊れるわ。
「あ、思い出しました。響さんは学生時代ソフトボールで全国優勝したらしいんですよ。だからその道具だと思います」
さすがビッキー。運動もできちゃうのね。
「バットいいですねぇ。私もバッティングセンターで二十球カットで粘った末にフォアボールを選んで出塁したことがあります」
前に飛ばなくて球切れしただけだろ! カッコつけてんじゃねぇぞ!
「ちょっと素振りして見せましょうか? ……窓に当たらないよう少し下がりますね」
お、意外と考えてるな! そもそもこんな狭い場所で振るなという話なんだがな!
「ほいっ!」
乃和木がフルスイングした直後、大きな鈍い音が辺りに響いた。
「……あ」
俺と乃和木の声が重なる。
カメラがアップした先の壁には、野球ボールくらいの大きな穴が開いていた。
うわぁ、やりやがった。またビッキーに怒られるぞ。
乃和木は、青ざめた顔をしている。しかし、程なくして何か閃いたのか生気を取り戻した。
「あ、スタッフさん。このバットちょっと握ってください……いやいいから、指紋を付けてくれればいいですから!」
罪をなすりつけんじゃねぇよ!
しかしスタッフは頑なにバットを手に取ろうとしない。いいぞ、コイツを許すな。
「仕方ありません、第二プランで行きます」
素直に謝罪かな? んなわけねぇか。
期待通り、近くにあったカレンダーで穴を隠している。
「スタッフさん、これ良かったらどうぞ」
スタッフに自前の飴を渡しているようだ。買収してんじゃねぇぞ!
「ここでは何もありませんでした。いいですね?」
カメラに映ったスタッフ達は飴をカラコロさせながら頷いていた。
きっちり丸め込まれてんじゃねぇよ! チョロい奴らだな!
「最後に鍵を閉めて、密室完成です」
何が完成だよ。カメラに犯行の一部始終映ってんぞ。
「それでは一旦CM入ります」
勝手に仕切るな!
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