第17話 マスコットキャラ3・歌
マスコットキャラドライくんのお悩み相談が終わり、いよいよ締めである歌に突入しようとしていた。
「それでは次がドライくん最後の出し物になりますわー!」
「えー!」
スタッフ達のワザとらしい声が響いた。くっせぇ演出しやがって。だがそこがいい。
「えー、残業代欲しかったドラー!」
お前は黙っとけよ!
「今からドライくんにはお洗濯の歌を歌っていただきますわ。この歌を聴いて少しでもお洗濯の時間を楽しく感じていただければと思いますわ」
あ、そういうコンセプトなの? 洗濯を妨害するための邪悪な魔物の歌かと思ってたわ。ま、そんなわけないよな! ビッキー作詞作曲だし!
「それではお聴きくださいな。曲名は“ドライくんのうた”」
直後、前奏が流れ始め、乃和木風華入りのドライくんが画面中央に映し出された。マスコット越しでも緊張しているように見える。
そして、いよいよ歌へと突入する。
「さぁみんな、楽しい洗濯の時間だよ〜」
順調な出だしかと思われたが、突然、曲の音が途切れた。
おいおい、なんだなんだ?
「どうやら音響トラブルのようですわね。申し訳ございませんわ。少々お待ちくださいませ」
あ、ヤバイヤバイ。マニュアル人間の乃和木風華が、紙相撲で意図してない方向に移動する駒みたいにブルブルし出してる!
数秒後、問題なく前奏が始まった。
「皆様お待たせ致しました! それではドライくん、お歌の方、お願い致しますわー」
壊れかけの乃和木が再び歌い始める。
「さぁみんな、楽しい帰宅の時間だよ〜」
おい、洗濯はどうした。今の心情が歌詞に出ちゃってんぞ!
「ドライ、ドドライ、どうしよう〜」
だから今の心情でちゃってんぞ! ヤバイヤバイ!
「まずは痛い痛いしようよ〜」
せめて飛んでいけしろ。マズイ、完全に歌詞がズレ出してる!
「洗剤、漂白剤、柔軟剤、食べようよ〜」
先生、イジメです。
「醤油を詰め詰め、スイッチポンでハイ完了〜」
そうか! 逆に醤油で洗うことで汚れを満遍なく行き渡らせるんだ! アホか。
「洗濯バサミ、カキフライ、蜂さん、なんでもデリート〜」
洗濯機は万物溶解液ではないぞ!
「ラララ洗濯、フッフー濯ぎ、ウォウウォウ脱水」
パリピ系クリーニング屋さんかな?
「ああウェイ光のお洗濯〜」
ここ栄光だったろ! ウェイ光やめろ! パリピ感増すだろ!
「さぁみんな、楽しい脱走の時間だよ〜」
うんうん、逃げてぇよな。でも一番逃げたいのは作詞作曲したビッキーかもな。またか、って顔で天井見上げちゃってんもん。
「くさい、くくさい、どんくさい〜」
歌詞全く違うけど、辛うじて韻を踏んでんじゃねぇぞ!
「張り手で砕け散る蜂さん〜」
強い。乃和木風華も砕け散れよ。
「曇り空でも食べちゃうよ〜」
蜂なのか洗濯物なのか。どちらにせよ食うな!
「風が吹き、空を舞うカキフライ〜」
うんうん、洗濯機に入れられたけど無事生還したんだねぇ。衣頑丈だねぇ。じゃねぇんだよ!
「太陽の下、泳ぐキミに醤油を感じたね〜」
うんうん、醤油で洗濯したもんな。タルタルソースがよかったよ。……うるせぇよ! 洗濯機は調理器具じゃねぇんだよ!
「ああ、ああ、ああ、ああ〜」
ここ、ラララとかフッフーだったろ。死にかけの聖歌隊みたいになってんぞ!
「さぁみんな、楽しい幻覚の時間だよ〜」
もう限界のようだな!
「ドライ、ドドライ、どぶさらい〜」
お前の脳みその泥をさらえよ。
「洗濯物で蜂さん休憩、ジャブジャブ〜」
お、シャドーボクシングして蜂との戦闘準備万端だな!
「刺されたイェイイェイ〜」
負けてんじゃねぇよ! それにまだパリピだったのかよ!
「キミのワイシャツ見知らぬ口紅〜」
いきなり愛憎劇っぽいの始まったぞ。
「詰めるべきか泳がせるべきか〜」
人は浮気を疑う時、みな名探偵になるのだ。やかましいわ。
「好き、嫌い、好き、嫌い、死にさらせ〜!」
迷った挙句殺害ルートやめろ!
間奏。ふぅ、やっと落ち着ける——と思ったら。
「うわあああああ!」
いやそんな歌詞なかっただろ! ここ間奏だぞ! 心霊系音楽やめろ! 前の歌詞のせいで殺害の可能性高まっただろ!
「ドライ、ドドライ、don't cry〜」
人を殺して罪悪感で泣いた後みたいになってんぞ。歌詞が元に戻ったしようやく落ち着いたか。もう遅いけどな!
「言ってなかったけ〜れど〜」
もう言わなくていいよ。
「人を刺してはダメなんだ〜」
傷害事件確定!
「みんな〜、聴いてくれてありがとうございました〜」
なにがありがとうだ! これで洗濯が楽しくなるかよ!
曲が終わり、精神逃避行から戻ってきたビッキーが顔を引き締める。
「……ちょっとドライくんのアレンジが加えられましたけどいい曲でしたわね。皆さま聴いてくださりありがとうございましたわ」
さすがビッキー、怒らずに冷静でプロ意識高い。
「ドライくんも素敵な歌ありがとうですわー! また来て欲しいですわー!」
さすがのビッキーでも、内心もう来んなよとか思ってそう。
「それじゃあみんなまったねードラー!」
クソコッペパン野郎が何事もなかったようにスキップしながら画面外へハケていった。ビッキーの気も知らずにのんきなやつ。二度と出てくるなよ。
こうしてクソマスコットの出演は終わった。
早く中のやつクビにしろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。