第3話 ダークウェザーリポーター
黒髪ロングの
教えてくれって何だよ。勝手にやれよって感じだが、乗りかかった船、というより無理やり乗せられた泥船なので仕方なく協力することにした。そうしねぇと帰んねぇしな。
「ではまず一番面白い漫画アニメゲームを教えてください」
うわ、うぜぇ。あらゆるコンテンツ初心者にありがちな質問しやがって。そんなの決められるわけないだろ。ジャンルによって一長一短なんだし。
「難しいっすね。面白さは人それぞれですし」
「では空雄さんオススメのやつを教えてください」
眉間に皺を寄せながら本棚を見る。今あるのは、なけなしの金で買った百合作品ばっかだな。さっき声優のご報告を聞いてなければ今後も買い続けていたであろう。
「うーん」
どれもこれも、寝ても覚めても疲れている男向けの作品ばかり。初心者女にはこの面白さは理解できまい。
「ちょっと本棚見てもいいですか?」
「ああ、どぞっす」
こんな萌え作品ばかりの本棚、学生の頃なら慌てて隠していただろうが、今更どうだっていい。むしろドン引きして帰ってくれるとありがたい。
「なんか女の子が表紙のものばかりですねぇ」
「その方が売れるんっすよ」
しらねぇけど。
一冊手に取ってパラパラとめくり始めた。
「なんでこんなに目の大きな女の子が多いんですか」
目ざといな。いいだろこの方がかわいいんだから。
「デフォルメしてるんっすよ。容姿だけでなく、言動とかもね。その方がかわいいし、特徴が出てキャラが立つっすから」
「なるほど」
「では髪の色が派手なのも?」
「そうそう」
「語尾が特徴的なのも?」
「うんうん」
質問多いな。赤ずきんかよ。
その後、手に取ったのは比較的一般人向けのライトな日常系百合漫画だ。
「これ読んでみます」
「どうぞどうぞっす」
それから十五分ほど真剣に読んでいた。文字が少なめの漫画なので半分近く読み終わったようだった。そこで一旦、こちらを見る。
「……あの、半分読んだんですけどこの漫画、何も事件が起きないんですけど」
出たな。これだから上級国民はダメなんだよ。
「それがいいんすよ。かわいい子がかわいいことをしているだけで楽しいし癒されるものなんす」
疲れた人間にはこれが体に染みていいのよ。陽キャ上級国民には分かるまい。
「えぇー、もっと殺人とか他殺とか殺害とかしないんですか?」
全部一緒だろ! そんなヤンデレ百合漫画見たくねぇよ!
「日常系漫画の良さが分からないようじゃあお天気お姉さんの良さも分からないかも知れないっすね」
ちょっと嫌味たらしく言ってやった。
「それじゃあまるで私がお天気お姉さんに向いてないみたいじゃないですか!」
だからそう言ってんだろ! まだ毒舌漫談家目指す方が芽があるわ!
乃和木風華はぶーぶー文句を言いつつも、続きを読み始めた。
黙ってると顔は整ってるしモテそうなんだけどな。俺はタイプじゃないけど。
さてと、このまま漫画を読み終わるのをじっと見つめていれば通報されそうなので、俺は乃和木風華が本当にお天気キャスターなのか調べることにした。
スマホでコイツのSNSを再度確認する。あんまり投稿していない。もっと投稿しろよ。一番人気になる気あんのかよ。
画面をスクロールしてお天気番組初出演の時の投稿から日付を見る。その日付をもとに動画サイトに移動してアーカイブで確認。
……あ、居た居た。画面の隅っこにだらしない顔をした乃和木風華が映っていた。
……本当にアクビしてやがる。そして五分も経たないうちに画面から消え去った。
うーん、笑いにも繋がってないし、確かに印象悪いな。
とにかく本当にお天気キャスターなのは間違いないようだ。もうすぐ無職になると思うが。
俺がため息を吐いたと同時、乃和木風華が漫画をそっと閉じた。読み終わったようだ。
「ふぅ、これで漫画はマスターしました!」
一冊でマスターって……。SNSに書き込んでみろ。大炎上だぞ。
「よかったっすね。じゃあ漫画は終わりにしてアニメ見るっすか」
俺は内心
今あるのは昔になけなしの金で買った異世界アニメのDVDだな。サブスクは元を取らないと、という強迫観念に襲われるので使っていない。
「これにするっすか」
「これはどういうアニメなんですか?」
「主人公が異世界に行って世界を救う冒険アニメっすよ」
「シンプルでいいですねぇ」
本当は無双ハーレムアニメだが言う必要はないだろう。
並んで見始める。
「なんで女の子は薄着なんですか?」
漫画の時といい、目ざといな。小姑かよ。
「それはほら、厚着してたら体から放出する魔力を上手く操れないんすよ」
しらねぇけど。
「男性は厚着してますけど」
何一丁前に考察してんだよ。これじゃあ俺が矛盾してるみたいじゃねぇか。
「男はほら、筋肉があるから」
「男尊女卑をテーマにした世界なんですね」
そんなメッセージ性はない! 多分。
一話を見終わる。全話見ると時間が掛かるので、残りのDVDは貸してやることにした。
「じゃあ次はゲームをやりましょう!」
帰るという選択肢はないのかよ。
仕方なくゲームをやることにした。今あるのは百合ゲーしかない。一人用だし、時間も掛かるし辞めとくか。
うーん、ならスマホでゲームすっか。
「スマホ持ってるっすか?」
「バカにしてますぅ? この前壊しましたけど新品がありますよ。きらーん」
スマホ片手にドヤ顔。多分何回も壊してそうだよな。ガサツそうだし。
「んじゃそれでモンスター倒すゲームでもするっすか」
「やれやれ、付き合ってあげますか」
こっちの台詞だよ!
で。
スマホにインストールしてやり、ゲーム開始。
「え、え、これどうやって動かすんですか?」
そこからかよ。お前が川に落としたゲームでも移動くらいしてたはずだろ。
「画面左下くらいに仮想操作キーがあるっすからそれを動かすんすよ」
「……わぁ、本当です! 歩きましたよ!」
それから四苦八苦しながらチュートリアルが終わり、マルチプレイのできる建物へ移動した。
受付のオッサンに話し掛ける。
“モンスター討伐したいだぁ? ギャハハ! お前みたいな若造にモンスターが倒せんのかよ? ま、やるだけやってみな。どうせションベンちびって逃げ帰ってくるだろうけどな!”
「なんかムカつきますね、銃殺ボタンはないんですか?」
こえーよ。お天気お姉さんが使っていい用語じゃないだろ。
“ほら、さっさと行ってこい! 死んでも骨は拾ってやらんぞ。ギャハハ!”
「嫌な人ですねぇ。頭蓋骨粉砕器はないんですか?」
だからこえーよ! 発想が拷問官!
「いいから行くっすよ」
「うわ、このハエみたいにチョロチョロ動いているキャラクターが空雄さんですか?」
俺がハエならお前はウンコだよ。
そして出発。
「武器ってこのボロボロの剣しかないんですか?」
「始めたばっかっすからね。ないっす」
「こんな小さい剣でちまちま戦うよりミサイル落とした方が早くないですか」
オープンワールドのゲームさせたら虐殺の限りを尽くしそうな危険な奴だな。
「この世界にそんなものはないっす」
「仕方ありませんね。早く斬殺してやりましょう」
順調に言葉選びが悪くなってるね!
なんやかんやでボスが出てくる。グロテスクなモンスター。嫌悪感が湧いてくる見た目だ。デザイナーすげぇな。
「かわいい見た目ですねぇ」
美的感覚が地雷系女子じゃねぇか!
「んじゃ適切に距離を取って戦ってくださいっす」
「あわわ、ダメです! かわいすぎて殺せませぇん!」
お前は殺す覚悟のない主人公かよ! さっきの意気込みはどうした!
「いや、ゲームと割り切って倒してくださいっす」
「私は無益な殺生はしないので」
さっき殺人、他殺、殺害がどーたらこーたら言ってだろ!
結局、俺がボスモンスターを倒したところでグダグダのゲームが終わる。
「ふー、これでサブカルというサブカルはマスターしましたね」
サブカル好きにぶん殴られろ。
「これで少しは話題にできるっすね」
最近ハマったと言えばにわかでも許されるだろう。オッサンどもは若い女に甘いからな。
「ええ、次の天気予報で血の雨を降らせてあげますよ」
ダークウェザーリポーターやめろ! 案の定言葉選び悪化してんじゃねぇか!
その後、言葉選びをやんわり注意して一旦落ち着く。
「じゃあ、そろそろ——」
乃和木が重そうな腰を上げた。
ふぅ、やっと帰ってくれそうだ。と思ったら、何かを思い出したかのように手をポン、と叩いた。
「あ、今度“一問一答”という企画があるんですけど、それの対策もお願いします!」
はぁ? 自分で何とかしろよ。てか、今更言うなよ。コイツ夏休みの宿題を最終日に親にやらせるタイプだな。
「頑張りましょうね!」
悪気のなさそうな笑顔。悪気あれよ。
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