第48話 その怒りは王国を破滅に誘う魔術となる
昼下がりの静寂を切り裂いたのは、空を裂いて落ちた雷鳴だった。
「……これで、二度目、ですね」
黄金の六枚羽をたなびかせながら空を見上げたのは、天使の守護者――テトラ・アーロンだった。慈悲深い表情の奥に宿るのは、凍てついた静かな怒りだ。
彼の足元には、戦闘のあと、燃えた森の残骸。クロウの自宅から遠くない場所。王国が送り込んできた第二陣の刺客――王宮直属の処刑人の精鋭たち10人が、森を探り、クロウを狙い、そして返り討ちにされた場所である。
そこへ、真紅の髪を風になびかせながら現れたのは、狂戦の龍――アドラ・エル・ヴァイツ。
「ふふっ、まーた燃えちゃってるわね、王様の使いっ走り共が」
彼女は焦げ跡の残る瓦礫を鼻で笑いながら蹴り飛ばす。
「これでもう何人目? いや……もう、数えてないけどさぁ。いい加減にさ――」
その青い瞳がぎらりと光り、毒を帯びた笑みが浮かぶ。
「殺しに来てるってことは、殺される覚悟はあるんでしょうね?」
そこへ静かに足音を響かせて現れたのは、吸血鬼の貴族――カストロ・ヴェルデハイル。その双子の姉妹、ベルロッテもすぐに続く。
「おやおや、我らが王の住まいが、またしても火遊びの舞台になったようで。王都の鼠共は本当に無粋ですね。上等な血を汚す趣味でもあるんでしょうか」
「……クロウに手を出した時点で、王の命運は尽きたのよ」
ベルロッテの唇は微笑んでいるが、その声色は冷え切っていた。
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「……もう我慢しなくていいでしゅよね?」
そう言って、地面にちょこんと座っていたのは、聖なる天の子――ブレア・フォー・ベルナルティ、通称ブレッち。金の巻き毛を揺らし、少し不機嫌そうに唇を尖らせていた。
「黒髪黒目ってだけで、クロウしゃまがいじめられてきたの、私ずーっと見てたのにぃ……。やっと、この人生では幸せになれたって思ってたのにぃ……」
彼女はぴょんと立ち上がり、頭に小さな光輪を浮かばせながら言った。
「もう、ぜったい許さないですのぉ!」
その言葉に、無言で頷くのは、全てを喰らう不動の盾――ガルガント・ディアス。巨体に刻まれた無数の傷と、鋼のような瞳が、彼の言葉よりも雄弁に語っていた。
「クロウ様を守る。それが我らの存在理由。敵が王でも……関係ない」
その場に居合わせた誰もが、その言葉に静かに頷いた。
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クロウは静かに歩み寄ると、彼らの中央に立った。
その瞳には、怒りも悲しみもなかった。代わりに――迷いがあった。
「……僕は、戦いたくない。誰かを傷つけてまで、自分の命を守りたくないと思ってた」
彼の声に、マーサがそっと寄り添う。かつて聖女と称された彼女は、母のような優しさで、クロウの肩に手を添えた。
「あなたは優しい子です。でも、優しいだけじゃ守れない命もあるんですよ、クロウ」
ネルがゆっくりと膝を折り、地面に片膝をついて言った。
「クロウ。お前は何も悪くない。黒目だとか黒髪だとか。お前は幸せになるためにずっとわがままになっていいんだ。」
クロウの黒い瞳が大きく見開かれる。
「……ネル……?」
ネルの言葉に誰も異を唱えなかった。クロウが王族の血を引く第三王子であり、捨てられた子であることは、今ここにいる者たちだけの秘密。だが、だからこそ、誰もがその命を賭してでも守ろうとしている。
テトラが静かに宣言する。
「我ら守護者一同、王国への進軍をここに提案します。これは……正義ではありません。あくまで、我らが守るべき者を守るための、私刑です」
アドラが不敵に笑う。
「ふふっ、いいじゃない。私刑。私、そういうの大好物」
ベルロッテがクロウの肩に腕を回し、甘く囁く。
「全部、私たちに任せて。クロウ様はただ、笑っていて」
カストロが短剣をひらりと翻し、真紅の舌で血の呪文を囁く。
「夜が、王城を呑み込む頃合いですね」
クロウは、ただ一言だけ呟いた。
「……ありがとう…みんな…」
その声に応えるように、守護者たちは同時に一歩、前へと踏み出した。
王国への進軍が、いま、始まる――。
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