第29話 受け継ぎし者
まず動いたのはアッシュであった。瞬時に身体強化を自らに施し、先陣を切って敵へと疾走する。狙うはアレクシアの首。その人並外れた速度で一瞬にして距離を詰めると剣を横薙ぎにふる。しかしアレクシアは避ける様子もない。
「ちっ!なかなかいい反応じゃないか!」
しかしその剣はアレクシアに届かない。その横にいた青い騎士がアッシュの剣を打ち払いアレクシアを、守るように前へ出た。
「なかなか良い腕じゃないかね!うんうん!よく鍛錬されている!」
「はっ!そうかよ!次はあんたのその鎧ごと一刀両断にしてやるよっ!!」
青い鎧のその男とアッシュが互いに切り結ぶ。変わる変わる攻め手がかわる。しかしアッシュは一人、敵は青い鎧とその他多数。今はまだ互角に見える。しかしそれも時間の問題だろう。
アッシュに続きクロウ達も動き出す。瞬時に身体強化を纏うとやはり狙うのはアレクシアの首だった。
アッシュを除いた7人で、その命を狙う。
「ふむ。なかなか侮れぬ練度よな。魔力の操作に無駄がない。まぁこの人数差。かられるネズミに違いはないが。」
あくまでアレクシアに動揺はない。それどころか冷静にこちらを分析するほどの余裕。
クロウらの常人離れしたその速度と力にもアレクシアは動かない。
「おい、相手は少数。ネズミ相手にも全力でかかれ。黒き箱が贄を求めておる。総員。かかれ!」
アレクシアの号令と共に、未だまで微動だにしなかった兵士たちが一斉に剣を抜く。
そして掛け声とともにアッシュやクロウ。子供達に向かって殺到する。
まさに多勢に無勢。今にも子供らの命を刈り取らんとする。
しかしアッシュらに迫る兵達の剣が子供らに届くことはない。
兵士たちの振るった剣は見えない壁に弾かれる。
「ほう。魔力障壁か。結界。これだけの攻撃を防ぐとは。貴様ら何とも良い師を、持っておるの。」
「えぇ!そりゃ世界一ですよ!」
クロウの結界。マーサに教え込まれ、無意識にも発動できるようになったもの。
その聖なる守りが子供らを包み込む。これでひとまずは安心だろうとクロウは落ち着き、再び剣を振るう。
結界に弾かれ態勢を崩す兵士たちを1人2人と。しかしあまりにも敵が多すぎる。個と軍。持久戦は不利だろう。
しかしクロウらもなかなかアレクシアに迫れない。兵の人垣が行手を阻む。
カイが何にもの攻撃を避けながら兵士を薙ぎ倒し、シュウが高速で移動し撹乱する。そしてポウが弓矢で確実に敵を排除していく。なかなか連携が様になっている。
メルは気配を消して隙を窺っているのだろう。姿が見えない。皆が己の得意分野で最上の結果を残す。
クロウはそれを見て負けてられないと、魔力を纏う。
最初はたくさん。それを薄く小さく、魔力の量は減らさない。むしろ増やして増やして小さく小さく。マーサの教えを思い出す。
敵地の中。雑音は耳に入らない。集中。
子供らにかける結界も維持しつつ自らに高密度の身体強化を施す。
マーサは身体強化こそが最高の魔法と言っていた。
ネルはそうして強くなったのだと。
2人の顔を思い出す。優しくも厳しい自分の親のことを。いつでも自分を慮ってくれる師を。
魔力が収束していく。目に見えるほどの魔力の圧力。それがゆらめき陽炎のようにクロウを包む。
目を開ける。視界が開けて体も軽い。無色透明な魔力が心地よく自分を包んでいるのを知覚する。
「本気で行くよ。全部僕が倒してあげる。絶対負けない!!!」
クロウは駆ける。
自分の仲間は自分で守る。自分の産まれで誰も悲しませないと。不幸にはさせないと。
ネルの言葉を思い出す。俺たちはクロウの幸せを願っているよと。
僕もだと思う。僕もみんなを幸せにしたい。だからこんなの早く終わらせて、みんなで美味しいご飯を食べようと。
そしてクロウは雷を纏う。足から膝、膝から胸、胸から頭。徐々に出力を上げて全身に纏う。
ネルを知るものがいれば驚愕しただろう。
ネルとマーサから受け継いだもの。
まさに雷を纏い戦場を疾駆するその姿。
雷帝の再来。
戦場に、落ちた一条の雷は敵を排除すべしと敵へと迫る。
それはもはや個で軍を圧倒するほどの圧力で、一騎当千の気迫であった。
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