第27話 侵攻

 お披露目が終わり集落への帰り道。

先頭はダスティダスト。クロウはその後を追う。子供達はそのクロウを囲むように、護衛の様な配置でもって歩を進めていた。


 普通でいいのに普通にで。そんなことを思いながら周りを見渡すが、みんな真剣な目で周囲を警戒しており、雑談をするような雰囲気ではなかった。


 そんな雰囲気の中、歩き始めてから少し。

 まず気がついたのはクロウだった。ほんの少しの違和感。空気の乱れというほどでもないがいつもの雰囲気とは違う何か。もはや勘だったのかもしれない。続いてレオニールもふと立ち止まる。


「なんだ?なんか嫌ぁな雰囲気がする気がする…?」

「うん…。何かわからないけれどおかしな感じが、僕もしてる。」


 周りを警戒してみるが違和感の正体に気がつけない。こういう時は気のせいにせずにしっかりと考えろというのはネルの教えだ。


 周りを見渡し、魔力の流れを感じようとする。木々のざわめき、魔物達の魔力、音、匂い、感覚を研ぎ澄ませ周囲を確認する。


 するとほのかに香る火の匂い。

 多数の人間の足音

 金属が擦れるような音


 近い。何者かが森の中、焚き火を焚いているのだろうか。多人数。冒険者の数ではない。かなりの人数がいるように思われた。


「すごくたくさんの人が森にいるね。嫌な予感がする。金属の音もしてる。また奴隷狩りかもしれない。」


「なっ…いやそうか。わかった。集落へ急ごう。レオニール。コニー。お前ら2人で様子を見に行けるか?俺らは集落に戻り万が一を考えて避難の準備をする。」


「おう!任せとけ!サクッとさぐってみるわ」


 一同は頷くと行動を開始する。

 子供たちは、奴隷狩りという言葉を聞いて、悪夢が蘇ったのか少し青い顔をして頷いた。


—————


 レオニールとコニーは走る。クロウ達と別れ、火の匂いのする方角へ。最低限の身体強化で魔力の感知に引っかからないよう細心の注意を払いながら。


 走り始めて一刻もしないうちに、焚き火の煙が上がっているのを見つけた。2人は目で合図して、気配を消しゆっくりと近づいていく。


 そこには森の中、至る所で焚き火をしながら各々休息を取っているのだろうか。数えられないほどの人数の兵士らしきもの達がいた。

 目の前にいるだけで数百数千、後続にもいるようで、もはや数えるのも、ばからしくなるほどの人数。

 


「なんだいこりゃぁ…戦争でもしに来たってか…」


「まずいな。こいつらどこの兵士かわからんが明らかに正規兵だ。奴隷狩りした連中も、騎士風の奴らだったと聞いている。さっさと戻って報告しよう。にがさねぇと。」


 まさにレオニールの言う通り、聖皇国の正規兵が総力を持って森へと進行しているのであった。


 2人はこの情報を持ち帰るべく踵を返す。

 一刻も早くと気持ちが逸るのを抑え、あくまで隠密行動で森を集落へと引き返していく。

 急ぎたいが後をつけられるわけにはいかない。気がつかれないギリギリでもって駆けて行く。

 幸い向こうは大所帯。集落にたどり着くにもまだ時間がかかるだろう。


 焦りを押し殺し集落は向かいひた走る。



———————


 コニーとレオニールと別れ、先に集落に戻ってきたクロウ達は、働く子供らを集めていた。

 今から避難すると。隠し事をせず正直にまた奴隷狩りかもしれないと説明し避難の準備を進めさせる。

 幸いパニックを起こすことはなかったが、全員の子供が青い顔をして不安気に行動を開始する。


「クロウどうする。どこに逃げる。」


「とにかく僕たちの家に行こう。ここから半日の距離だし何よりこの状況をネル達にも、伝えなきゃ。」


「確かにそうだ。よし、それじゃぁ目的地はそことして、配置を決めよーや。」


 アッシュは覚悟を決めた目でクロウを見る。誰かが殿を勤めねばならない。

まだ追いつかれてはいないが逃げる集団の最後尾、何かあれば真っ先に狙われる位置。

 それを決めようと言うのだろう。


「アッシュ。わかってるよ。僕とアッシュが殿。先導はレオニール。中程にコニーにしよう。コニーなら明るくみんなを励ましてくれそうだしね。」


 命の掛る場面。それなのに笑いながら言うクロウ。

 アッシュごめんねと呟きながら自ら殿を買って出る。


 アッシュは何も言わなかった。それが最善かと納得して目を瞑る。

 それを良しとしなかったのはメル達だ。


「いけません!!クロウ様が殿など!!私達が囮になります!皆を連れて逃げてください!!」


メルの必死の説得。カイやポウ、シュウもそう言うがクロウは頷かない。


「メル。ありがとう。でもね?まだ僕より弱いでしょう?実は僕とっても強いんだよ?だから安心してよ。それにこれは命令だよ。君らは子供達を守りながら逃げるんだ。」


 そう言い少しの魔力を解放する。有無を言わさぬ圧を持ってメル達を説得した。

 メルも強くはなった。しかしクロウのその圧に言葉が紡げない。


 そこにレオニールとコニーが戻る。


「おい!逃げる準備は出来てるか!!」


「敵は数千数万!さっさと逃げないと!」


慌てて息を切らせて戻る2人にクロウとアッシュは頷くと子供らに指示を出す。


 各々が必死に準備を進める。

 また必ず戻ってくると心に誓い。今は命大事にと。


 それから少し、準備を整え出発する運びとなる。予定通りに先頭はレオニール。中腹に守るように子供達とコニーを配置し、後方はクロウとアッシュだ。


いざ森へとあるきだす。


しかし、不幸にも、追ってはそこまで迫っていた。


クロウらが子供達を歩かせ始め、集落を出ようとした時。


突如として放たれる火。


一つや二つどころではない。幾重にも放たれる魔法に火の手が上がる。


後少し、後少しのところ。

集落の目の前に、騎士達が囲むようにして、こちらに近づいて来たのであった。

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