第24話 蠢く闇
「足りぬ!全く足りぬ!!あぁ口惜しい…!魔力が…魂が…何もかも足りぬ!」
聖皇国のとある場所、とある地下にある部屋で、初老の女が髪を振り乱し叫んでいる。
部屋の中心には30センチ四方の黒い箱が置かれ、周りは乱雑に色々な本が置かれている。
その箱の下には五芒星、周りを幾何学模様がびっしりと描かれていた。
その箱の前で、足りぬと叫ぶ女。真っ黒なマントを羽織り中には金糸で模様の縫われた騎士服を身にまとっている。
その顔は皺がれており目を真っ赤に充血させてその白い髪をかきむしる。
「惜しい…惜しいのだ…この箱さえ…この箱さえ開いてしまえば…我がこの世を統べることができると言うのに…!!忌まわしい!」
その箱はまさに漆黒の闇を讃えそこに佇み、鍵穴もなければ蓋もない。
「この…古の至宝!我らの先祖より伝わる黒き箱さえ…開けば…!!」
女はこの箱さえ開けばと何かに取り憑かれたように繰り返す。
先祖代々より伝わりし箱、聖皇国の皇王のみが触れることを許される禁断の箱。
開けば世界が滅ぶとも、世界を統べる力が手に入るとも言われる箱。
歴代の王たちはこの箱を開くために、試行錯誤を繰り返してきた。今となってはどう扱うのかもわからない。一説には黒き王を封じたともされている。
女がこの箱にここまで取り憑かれたのはもう7年も前になる。それまではなんの反応もなかった箱が突如として黒い魔力を放出したのだ。
その時の魔力の量。その魔力の黒き美しさに女は目を奪われた。
なんとかしてもう一度見たいと箱についての文献を読み漁り、開けるには大量の魔力と純粋なる魂が必要だと知れた。
そこからだ、女はその箱を開けるために手段を選ばなくなっていった。その国において権力を有していた為に。
まずは側近の魔法使いたちだった。
彼らは命じられるがまま箱に魔力を送り続けた。しかし一向に開かない箱に郷をにやした女によって命を箱に捧げる生贄となった。
そして次は民だった。身寄りのない子供。罪人など、ありとあらゆる犠牲を払った。
それでも足りないと隣国から子供を攫うように騎士に命じた。
その時、隣国から攫ってきた者たちの中に亜人がいた。
その亜人の命を捧げたときに、箱がほんの僅かに光ったのを女は見逃さなかった。
それからだろう。流れてきた亜人を主に生贄に捧げ始めたのは。
女はありとあらゆる伝を辿り、いなくなっても問題にならないような人々を求め続けた。もはや後戻りもできぬところまで来ていた。
女の名は
アレクシア・レア・パトラギア
パトラギア聖皇国の39代女皇王であった。
アレクシアの狂気は止まらない。
その箱が開き、その力で持って世界を統べるのだと、思い込んでしまっているのだから。
「まだだ。まだいるはずだ。この箱を満たす魔力を。さぁ。連れてくるのだ。」
うわごとのように繰り返す。
そしてアレクシアは舵を切る。世界をも巻き込み、戦争を起こすことで魔力と魂を集めるのだと。
「まずはあの森だ…。あの森にある亜人全てを手に入れてやろう…。前に狩らせた時は抵抗が激しくてたくさん殺してしまったらしいからね。あぁ勿体無い…。」
もはや人を人とも思わず、何かの材料とでも思っているような言動。
クロウたちに、アレクシアの、聖皇国の闇がすぐそばまで這い寄ってきているのであった。
「さぁ狩じゃ。あの森を根こそぎ血の海に沈めて箱に満たしてやろう。」
アレクシアはふらふらと部屋を出る。
そして自室に戻り配下を集める。
宰相に騎士団長、魔法師団長に貴族たち。
そしてその顔には邪悪な笑みを浮かべて告げる。
「我が国の全勢力を持って森へと侵攻する。そしてその足で王国だ。全て滅ぼし我らが糧にしてやろう。」
かくしてクロウらの知らぬところで戦争の火蓋が切られようとしているのであった。
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