第23話 契約
「なぁ…クロウ?なんだって?俺たちが…泊まりで…?ん…?」
「そう!だってアッシュたちはこの子達が子供なのに見捨てるのは忍びない!って僕に言ったよね?そうだよね?」
「まぁ…たしかに…?」
「ならほらこれで僕たちにもメリットはあるでしょう?助けてあげられるよ?」
確かにそうだろう。現状彼らを助ける方法はこれしかない。
ただただ食糧を恵む、それでも一時的に食いつなげるだろうが先がない。
彼らが生き残るためには狩りの仕方を学び、生活する術を学び、基盤を一から作り上げるしかないのだ。
しかしそれは子供らだけではなし得ないだろう。そう。監督者がいる。最後まで必要最低限の知識と技術を与えることのできるものが。
そう考えるとまさにアッシュらは適任だった。技術も知識もある。そしてある程度の外敵から身を守る術もある。
考えれば考えるほどこれ以上の案はないだろう。それがアッシュらの心情をより複雑にする。
「わかるぜ。わかるんだけどよ。じゃぁクロウはこいつらを部下として雇う。そうなったらこいつらに何をさせる?名目で部下にするだけじゃメリットも何もないだろ?」
「そうだねー!でもほら僕らも狩に出る回数を減らせるよ?この子達には狩を覚えてもらって、その余剰分を納めてもらう。それの対価としてこちらも何かあった時の後ろ盾としての役割と、アッシュらが仕入れてきたパンや生活で必要な品を卸す。ほらメリットがない?」
クロウの言うことには一理あった。
今の狩りの頻度でも食うに困らないだけは獲れている。
しかしこれ以上生活を豊かにしようとすると狩で得た獲物を街に持っていき金に変え、色々なものを購入してこなければならない。
しかし一度に獲れる獲物にも限りがある。
確かにこれ以上ないメリットになるだろう。子供らに色々なことを教えることは先行投資。
自分らの生活水準を上げつつも、彼らも食い繋ぐことができる。まさにWin-Winの関係なのだ。
「わかった。あぁ、クロウが正しいな。じゃぁ最後に一つ、クロウは俺らに何をしてくれる?」
「アッシュたちにかぁ。子供らが獲れる獲物だけじゃアッシュらにばかり負担があるもんね。そうだなぁ…。」
アッシュにそんなことを言われると思っていなかったのか先程とは違い頭を悩ませるクロウ。
クロウのその仲間には脇が甘い様子を見てアッシュに笑顔が戻る。
子供らしい一面を見て安心する。
「まぁそれは後でもいい。この依頼ダスティダストとして承る。」
アッシュはそう笑うとコニーとレオニールに目配せする。
2人は笑いながら頷く。
「ありがとう!アッシュ!何か考えておくね!それまでは貸し一で!
じゃぁメル!こちらの話はついたから、どうするかは君ら次第だよ?」
そうクロウはメルの目を見て問いかける。
メルはその目を真剣な眼差しで見つめ返す。
「お…俺たち…がんばるから…クロウ様たちの役に…立てるように…がんばるから…よろしくお願いします…」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、しっかりとした声で、助けて欲しいでもなく、心からあなたの役に立ってみせると、そう告げたのであった。
「うん!よろしくね!」
「おう!任せろ坊主!俺たちが一人前の冒険者にしてやるぜ!」
クロウとコニーは元気よくそういい、アッシュとレオニールは優しく頷く。
ここに初めて、クロウの部下としてエルフやドワーフ、亜人らの子供、総勢15人が加わったのである。
——
遥か未来、黒の王の懐刀として、諜報や暗殺を担う最強の部隊となりその名を轟かせ、
黒き陽炎と呼ばれ恐れられる者たちがここに集っていたのであった。
しかしそれはまた別のお話。遥か未来、まだ確定していないそんな物語。
——
今はただ、子供らはこの細い細い蜘蛛の糸を、その手に掴んだ喜びに涙を流すのであった。
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