魔の象徴の王子を幸せにしたい〜皆がいればもう既に幸せなんですけど?〜
はるはるぽてと
クロウ幼少期編
第1話 産まれの不幸と幸せな生活
黒い髪に黒い瞳
その国では、黒は魔の象徴だった。
その国の3人目の王子として産まれた子は黒髪に黒い瞳、そして人の理をこえる魔力を持っていた。
クロウと名付けられ、産まれてすぐに辺境の地へ流され、1人の乳母と、1人の騎士を与えられ、5年の月日が流れた。
5年後
8畳ほどの小さな部屋とトイレとキッチン。
質素なベッド。それに1人の乳母と1人の騎士が王子にとっての世界の全て。
そんな境遇を慮ってか、乳母や騎士は王子に色々な話を聞かせた。
冒険の話、美味しい料理の話、それを知ることなく死んでいくであろう王子にこんな話をと思う気持ちもあっただろうが、話を聞く時の王子の笑顔が彼らにとっては幸せだった。
「ねぇ、マーサ。大きくなったら僕にも友達や仲間がたくさんできるかな?」
「えぇ、えぇ、きっとできますよ。あなたほど優しい人を私は知りません。きっと素敵な友達が大勢できます。」
マーサと呼ばれた乳母は王子の頭を撫でながら、ほんの少し悲しげな瞳でそう答える。
齢60を過ぎ、白髪に皺の深い顔、優しげな瞳をした乳母は本当の母のように王子に寄り添っていた。
「おーい、今日はいい獲物が取れたぞ!ほろほろ鳥だ!今日は肉が食べられるぞー!」
そう言って部屋に入ってきた1人の騎士は2人に笑顔でそう言った。
マーサと変わらない歳にしては鍛え上げられた肉体に、傷だらけの革鎧、弓とナイフを携えて肩には羽根をむしった鳥を抱えている。
「マーサ!クロウ!ほら、ほろほろ鳥だ!今日は煮込みにしよう!美味しいぞ!」
「わー!ありがとうネル!嬉しいなぁ、僕鳥の煮込み大好き!」
そういうと満面の笑みで2人を見上げる。
あーこの可愛い幼子がなぜ魔の象徴なのか。
私たちだけは味方であり続けようと、そう決意を胸に2人はクロウを抱きしめる。
その夜
鳥の煮込みを食べ、満足した笑みを浮かべたままクロウはマーサの膝の上で寝てしまった。そんなクロウの頭を撫でながらマーサとネルは話をしている。
「マーサ、最近のクロウはどうだ?私たちには幸せそうな笑顔しか見せない。こんなに心優しいのに。黒髪に黒目で生まれてこなければと思ってしまうよ。」
「えぇ、本当に。毎日あなたが狩に出掛けている間、私とあなたの冒険の話を聞きたがりますよ。本当に、心優しく成長しているわ。」
2人は本当の親の様にクロウを見て微笑んだ。
「でもね。ネル。最近またクロウの魔力が増えてきているわ。何があっても身が守れる様にと言って魔法を教えながら出来る限り魔力を、使わせているけれど。このまま増えたらどうなってしまうのか私にもわかりません。」
そういうマーサの目はクロウの将来を憂いていた。
「そうか。本当に忌々しい魔力だ。時代が違えば英雄になれた。たくさんの人々から祝福されたはずの子なのに。今は俺たちで愛情を注いでやることしかできない。自分の無力が悔しいよ。」
ネルもまた己の無力に嘆く。
この世界において魔力とは奇跡の力だ。
無から有を生み出し、不可能を可能に変える奇跡の力。その元となる力。
古来より神に与えられた祝福とも言われ、魔力が多ければ多いほど、世界に干渉する幅が大きい。
火を産み出すことも、魔力が小さければマッチほどの火、大きければ大火となった。
本来魔力の大小が外見に与える影響などほとんどない。しかし一定の大きさを持つ魔力は本人の髪や目を黒く染める。
現在の黒に対する印象も、過去黒髪黒目を持って生まれた人間が全て魔王となった過去から来ている。
黒に染まったから魔王になるのか、魔王となるから黒に染まるのか。それはわからない。しかし過去黒に染まった人々は遍く魔王となり君臨したのだ。
そんな境遇に生まれたクロウは今後どうなるのか、マーサもネルも、我が子の幸せだけを願うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます