第40話:駆け引き
アバディーン王国歴101年1月10日、新穀倉地帯、深雪視点
「カーツ様、今思いだしたのですが、私は聖女の術しか使えなかったと思うのです」
「ああ、それですか、まだ説明していませんでしたね」
「ああ、良かった、本当に以前は聖女の術しか使えなかったのですね?
戻して頂いた記憶がおかしいのかと心配だったのです」
「無用な心配をおかけしてしまった事、心から謝らせていただきます」
「いえ、謝って頂く必要はありません。
全て私の事を思ってやって下さったのでしょう?」
「確かに私利私欲ではなく、聖女深雪様を心配する余りにやった事です。
ですが、それは私の個人的な考えに過ぎません。
全て聖女深雪様のお気持ちを聞いてから行うべきでした」
「良いんです、本当にもう良いんです、だから原因だけ教えてくれませんか?」
「分かりました、2度と同じ失敗はしません。
何かする時は必ず聖女深雪様に確認させていただきます。
種豚チャールズ王太子に婚約破棄追放を言われる前と後で、聖女深雪様の使える魔術が格段に増えて強くなったのは、地球の神々の加護です」
「地球の神々が加護を下さったのですか?!」
「はい、この世界の神々は、本来自分たちがやらなければいけない、世界の管理を精霊にやらせていたのです。
しかも、その精霊の管理もやっていませんでした。
その所為で、神々の間で厳しく禁止されている、異世界間の魂移動、異世界間召喚を精霊がやったのです」
「異世界召喚はそれほど酷い行いだったのですね?!」
「はい、ただ、腐敗獣による被害にはどの世界も困っておりました。
この世界の神々があまりにも未熟で、自らの手で腐敗獣を斃せないので、地球の神々は腐敗獣討伐までは厳しい抗議は行わない事にしていたのです。
ですがそれは、聖女深雪がこの世界の人間社会でそれなりの地位を与えられる事、腐敗獣討伐の正統な報酬を得られるという前提でした。
それが、種豚チャールズ王太子の愚行で履行されなくなりました。
それも、その愚行に神々が世界管理を代行させていた精霊が加担していました。
激怒された地球の神々は、この世界の神々に厳重な抗議を行うと共に、聖女深雪様と俺に多くの加護と魔力を与えてくださったのです」
「そうなのですね、だから急に多くの魔術が使えるようになったのですね?」
「はい、はっきり言って、この世界の精霊は極悪人です。
欲に目が眩んで、卑怯下劣なベンジャミン王の言い成りになって、召喚する聖女深雪が聖女の術しか使えないようにしたのです。
邪魔になった時に、簡単に殺せるようにです」
「……そうですか、カーツ様が厳しい罰を与えるのもしかたありませんね」
「いえ、それは私も同じ事です。
私も全て知った上で、聖女深雪様を利用したのです。
この世界に生きる全ての命を守るためとはいえ、ベンジャミン王の悪事をみのがしたのです。
いえ、この世界の生きる命の為ということ自体が言い訳ですね」
「いえ、カーツ様がいてくださったから、守ってくださったから、私は生き残る事ができたのです、気に病む事は何もありません」
「そう言ってくださるのは有難いですが、犯した罪が無くなる訳ではありません。
俺は自分か犯した罪を背負って生きて行きます。
犯した罪を償うために生きて行きます。
その最初が、聖女深雪様の記憶を消して地球に戻って頂く事だったのですが、またしても罪を犯してしまいました。
聖女深雪様の意思を無視して、勝手に記憶を消してしまいました」
「そうですね、辛く苦しく哀しい思い出は多かったですが、全く何も良い思い出がなかった訳ではありません。
絶対に忘れたくない、大切な記憶もありました。
もう2度と勝手に記憶を消さないでください」
「やりません、もう2度と同じ過ちは繰り返しません」
「だったらもう良いです、過去の事よりもこれからの事を考えましょう」
「ありがとうございます、どうすれば良いのですか?」
「私と一緒にこの国を良くしてください。
身勝手な理由でこの世界に召喚され、利用されるのは嫌でした。
ですが、聖女としてこの世界を救う事には誇りを感じていました。
とてもやりがいのある役目だと思っていました。
でいればこれからも、やりがいのある、誇りが持てる役目を続けたいです。
ですが、地球に戻ったら、そんな役目にはつけません。
努力すれば、何か公共の役目に就けるかもしれませんが、この世界に残る方が重要な役目に就けると思うのです」
「確かに、この世界に残られた方が、世界を変えるような重要な役目に就けます。
ですが、先ほどのように、小悪人につけ狙われて嫌な思いもします。
この村では、あれ1人でしたが、重要な役目に就くほど、数も増え程度も悪くなり、聖女深雪様の繊細な心では辛過ぎる日々になります」
「確かに辛い思いをする事でしょう。
ですが、それでも、この世界を良くできるのならしかたがない事です。
それに、カーツ様が手伝ってくださるのですよね?」
「もちろんでございます、聖女深雪様。
この命尽きるまで、聖女深雪様の付き従い、お手伝いさせていただきます」
やった、これでずっとカーツ様と一緒にいられます!
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