第27話:処刑の決断と使い魔の成長強化

アバディーン王国歴100年11月10日、新穀倉地帯、カーツ公子視点


 使い魔の知らせは頭の痛い問題だった。

 チャールズ王太子とカミラ以外は、次に何かあれば死ぬようにした。

 だから王や侯爵がどうなろうとどうでもよかった。


 問題は、もっと長く生き地獄を味あわせる心算だったチャールズ王太子が、人間と言えないくらい堕落した事だ。


 神々の管理を外れてしまう、腐敗獣にまで堕落してしまったら、輪廻転生からも外れてしまい、これまでやってきた罪悪の罰を与えられなくなる。

 きれいさっぱり消し去らなければ、この世界を腐らせてしまう。


 俺個人の気持ちで言えば、この世界など腐敗して構わない。

 無責任な神々は創り出した世界など無くなって良い。


 この世界の神など、管理する世界のない最下級の神に落ちればいい。

 いや、神々の座から落とされればいいと思っている。


 ただ、心優しい深雪がそんな事を望まないのを知っている。

 この事実を深雪が知ったら、命懸けで神々を助けようとするのが分かっている。


 俺が深雪を地球に帰した後で、その事を知ったとしても、深く激しく助けられなかったと自分を傷つけるのを知っている。


「はぁ~、しかたがない、王は放っておいて良いが、種豚は滅ぼす」


「承りました、私がやらせていただいて宜しいですか?」


 俺の言葉を聞いたカラスを母体とした使い魔が聞いて来た。

 

「そうだな、試しに滅ぼせるかどうか試してみろ。

 まだゴブリン程度に留まっているなら、お前でも殺せる。

 完全な腐敗獣に変化していたら、深雪以外にはどうしようもない」


 今なら俺にもできるかもしれないが、試した事がないから何とも言えない。


「今直ぐ戻って試してまいります」


「ああ、任せたぞ」


 カラスの使い魔が急いで戻って行った。

 使い魔の魔術で殺せればいいのだが、殺せなかった場合の準備が必要だ。


(全ての使い魔に命じる、腐敗獣を滅殺するための魔法陣の準備を始めろ。

 腐敗獣を滅殺するのに必要な素材を集めろ。

 罪悪の場合に魔力を譲渡できるように、周囲の魔力を取り込め!)


 完全な腐敗獣でなければ、十分な準備をした魔法陣があれば、使い魔でも堕落した者を滅ぼす事ができる。


(((((はっ))))))


 この国の隅から隅まで守るために放った使い魔たちが、一斉に返事をしてくれた。

 俺の血と魔力を与えた能力の高い使い魔たちは、周囲の魔力を吸収して蓄える事ができる、特別な能力がある。


 ただ、その数は限られているので、聖女深雪の力を借りずに腐敗獣を滅殺するには、特別な魔法陣を描いてそこに連れて来なければならない。


(俺の血を与えていない使い魔よ、預かっている村を守る使い魔を送るから、到着しだい俺の所に来い、血と魔力を与える)


(((((ありがとうございます!)))))


「使い魔の基準」

下級使い魔:鳥獣や虫を魔法陣に乗せて魔力だけで創り出した。

中級使い魔:下級使い魔に血を1滴以上10滴未満与えて能力を向上させた。

上級使い魔:血を10滴以上100滴未満与えて能力を向上させた。

特級使い魔:血を100滴以上与えて能力を向上させた。


 水や油を実験する時に基準の1滴は0・03~0・05mlなのだが、使い魔を成長進化させるには、正確な量を知っておく必要がある。


 ただ、自分の血を1滴落とすのに毎回正確に計ってなんかいられない。

 なので、血を与える時の1滴が少ない場合の0・03を最低基準にした。

 何の思惑がなくても、与える1滴に大小ができてしまうから。


 使い魔の数は、多ければ多いほど、戦力にもなれば密偵にも使える。

 代官として村々を導く事も可能だ。


 聖女深雪に会せても問題のない、道徳を備えた村人にするには、俺の手足となって人々を導く使い魔は必要不可欠だ。


 聖女深雪は、できるだけ早く地球に戻したいのだが、素直に従ってくれるとは限らないのが問題だった。


 完全に記憶を消す気だったのだが、俺ごときの力では、この世界の神々が定めた、誘拐拉致召喚による貸与能力を超える事ができなかった。


 完全に消したと思っていた記憶が、少しずつ蘇っているのだ。

 その度に記憶消去の魔術かけ直しているのだが、数日すると記憶が蘇ってしまう。

 完全に記憶が消せないのなら、消せない前提で行動しなければいけない。


 その1つが、この世界の人間を深雪の基準で善良な人間に矯正する事だ。

 根本的な考え方は直ぐに変えられないが、表面上の言動だけは変えられる。


 王侯貴族士族は、上位の者に形だけは従う素振りはできていた。

 心の中では、何時か追い落としてやると思っていたとしてもだ。


 それは領主に従う町民や農民も同じだ。

 領主を騙して利を手に入れようとしている者は、心を隠して阿諛追従するくらい平気でやっていたから、矯正すれば聖女深雪の思う人間のフリくらいはさせられる。


 その為には、圧倒的な力を見せつけなければいけない。

 少なくとも前王家や王国の王侯貴族士族を超えるような力が必要だ。

 そのために、手当たり次第に使い魔を創り出す事にした。


 聖女深雪の記憶を消せたと思っていたから、この世界に余計な干渉をしないように手心を加えていたが、記憶を消せないのなら自重は止める。


 全力で、あるだけの力を使って、この世界を変える事にした。

 その為に必要な使い魔を無制限に創り出す事にした。

 これまで創り出した使い魔は、全部特級使い魔にする。


 いきなり多くの血を与えると、使い魔の身体が耐えられずに崩壊してしまう。

 だから、創り出す時には1滴の血しか与えない。


 独自にこの世界の魔力を集めさせて身体を成長強化させる。

 その成長強化した身体に1滴ずつ血を与えて、更に成長進化させるのだ!

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