第22話:晴れ着とドレス
アバディーン王国歴100年11月10日、グリムストン男爵領、カーツ視点
聖女深雪がとても喜んで、はじけるような笑みを浮かべてくれたので、この国中の服飾職人を集めてドレスを作らせた。
男の服飾職人に、聖女深雪の体のサイズを計らせる訳にはいかないので、服飾職人の妻か娘に計らせた。
国が乱れているので、ドレスに使う生地がなかった。
だから魔術を使って最高の生地を沢山作って渡した。
俺だけでなく、使い魔となった者達も、羊毛のように自分の毛が毛織物に使える者は、自分の毛と魔力を使って最高級の材料を作った。
他にもクモやチョウのような使い魔は、自分の魔力を糸に込めて、鋼鉄の防具よりも丈夫なドレスが作れる糸と生地を生み出した。
流石にそんな素材をこの世界の職人には渡せない。
こちらを舐めて盗んで逃げようとしたら、殺さなければいけなくなる。
その時に哀しみ心を痛めるのは、職人の家族ではなく深雪さんだ。
それを避けようと思ったら、俺が作るしかないのだが、流石に特殊な材料でドレスを作る腕はないし、魔術でどうにかなるとも思えない。
「ドレス作りは任せてください」
「全く新しいドレスは作れませんが、お手本があれば同じ物は作れます」
「はい、私もお手本があれば同じ物が作れます」
「できればここいる者全員分のお手本が欲しいです」
「全部違うデザインのドレスだとうれしいです」
材料を作りだしてくれたクモやチョウの使い魔が、やる気満々で言ってきた。
彼らは、ただの虫の頃でも、とても複雑で美しい巣を作ったり蚕を作ったりする。
それがこの世界の一般的な人間以上の知能になり、上級精霊並みの魔力を手に入れた上に、聖女深雪への感謝と忠誠心を持ったのだ。
深雪を守り美しくするための、ドレスを作る努力は惜しまない。
彼らがそこまで努力すると言うのなら、俺も力を尽くすべきだ。
『この世界にあまねく満ちる魔力よ、俺の行いが正しいと思うなら集い力を貸せ。
聖女深雪を守り彩るドレスを作りたいが、この世界のデザインは嫌なのだ。
できる事なら、聖女深雪が恋しく思う元の世界のデザインで作ってやりたい。
その為には地球からデザインを取り寄せないといけない。
地球からデザインを取り寄せるには膨大な魔力は必要になる。
だがこの世界の魔力を地球に送って霧散させるのも嫌だし申し訳ない。
だから俺の命力と気力と合わせて丈夫な綱にする。
その綱を通じてデザインを取り寄せ魔力も回収する。
必ず回収するから集まってくれ!』
魔力に知能や意思があるという確証はない。
だが、世界の全てに神が宿っているというのが、古い日本人の考えだ。
その影響を受けて育った俺は、この世界の全ての物にも神が宿っていると考え、感謝するようにしていた。
そのお陰だろうか、俺が思っていた百倍もの魔力が集まった。
魔力だけでなく、元虫の使い魔が糸を提供してくれた。
カンダタの糸ではないが、この世界から地球にまで使い魔の糸を送る。
その糸を使って地球のドレスデザインを手に入れる。
糸には俺の命力と気力を中心に、この世界の魔力を大量に纏わせているから、神々に攻撃されない限り切れる事はない。
『そんな無理をしなくても良い。
深雪の待遇に関しては山のような文句と腹立たしさ、いや、怒りがある。
そちらの神々がどのような文句を言うおうと、深雪が望む物は何でも送ってやる。
着物だけでなくドレスも着たいというのは、日本の神として思う所もあるが、日本人も特別な時以外は着物を着なくなっているからしかたがない。
晴れ着として着たいと言ってくれただけでも満足しなければいけない時代だ』
思いがけず地球の、それも日本の神々から言葉をもらえた。
言葉だけでなく、現物の着物とドレスまでくれると言う。
日本の機織りの神や洋裁の神が、御手製の着物やドレスをくれると言うのだから、断る事などできない、よろこんでお受けするだけだ。
だが、深雪を心から愛し忠誠を誓ってくれた使い魔の気持ちも無視できない。
だから日本の神々にお願いして、神々が使わないデザインを教えてもらった。
深雪の事を心から心配してくれている日本の神々は、快く新旧のあらゆるデザインを使い魔たちに教えてくれた。
実際に着物やドレスが完成するのは、一カ月後か二か月後になるだろう。
神々と使い魔たちが、魔力と真心を込めて作るのだから当然だ。
見た目に気を使うだけではないのだ。
守りの力を込めるのだから、それだけの時間がかかる。
神々と使い魔による着物とドレスが手に入るのなら、もうこの世界の服飾職人が作るドレスは必要ない。
粗末すぎて見劣りするのは明らかだし、防御力が全く無い。
聖女深雪が着たいと言っても絶対に着させられない。
神々や使い魔が守りの力を込めた服を知らない時なら、聖女深雪にお願いされたら、できが悪くても人間の服を着てもらったかもしれない。
だが守りの力を込めた服があると知ったら、どれほどお願いされても駄目だ。
聖女深雪の安全を上回るモノはこの世界にはない。
ただ、この国の服飾職人を滅ぼす訳にはいかないので、技術を伝えさせるためにも、産業として成り立つ程度の依頼は出さないといけない。
だから人型に変身できる使い魔の為のドレスに注文を変更した。
使い魔たちには聖女深雪の影武者になってもらう。
そっくりの姿になってもらって、職人が作ったドレスを着たら誰にも見抜けない。
男用の服も、聖女深雪の着物やドレスには見劣りし過ぎて、とても一緒には立てないだろうが、使い魔の数だけ注文した。
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