第21話:お友達と服
アバディーン王国歴100年11月5日、グリムストン男爵領、深雪視点
「ふっふっふっふっ、何だかんだと言ってカーツさんは親切ですね」
「これ以上近づくのは許さない。
この領地の連中は、領主がいない間に城に押し入った強盗だ」
「でも、城を襲わないと飢え死にしてしまったのですよね?」
「食糧だけを奪ったのではない。
動かせる物は全て持ち出したし、奪った物を村人同士で奪い合った。
その時に弱い者は殺され女は犯された。
力のある者が新たに領主を名乗り、同じ村人だった者を支配しようとしている。
そんな連中に近づいたら何をされるか分からない」
「そんな人たちでも、私が頼んだから助けてくれるのですよね?」
「この世界では、こんな連中が平均的な普通の人間だ。
地球の、日本の善良な人とは違うと言って殺す訳にも行かない。
見殺しにするなら兎も角、この手で殺すのは、ごく普通の民を貴族が虐殺する事になってしまう」
「なんだかんだ言っても、私のお願いした通り、使い魔に支配させて、もう悪い事ができないようにしてくれるのですよね?」
「誘拐拉致召喚された被害者の聖女深雪さんが、この世界の人間の罪を許して助けたいと言うんだ、この世界の人間である俺が無視する訳にはいかない。
だが、何度も言うようだが、深雪さんが傷つく事だけは絶対に許さない!」
「分かっていますよ、遠くから見るだけです、ねえ、パンちゃん」
「はい、深雪さん、遠くから見るだけなら大丈夫です、私も反対しません」
カーツさんが魔術で創り出した使い魔のパンちゃん。
サル型だけけど人間と同じようにお話ができる。
これまではゴーレム軍馬のオリバーさんとしか話せなかったですが、今は沢山の使い魔とお話ができるので寂しくありません。
あ、カーツさんと話すのが嫌だったわけではありません。
ただ、カーツさんの話はあまり面白くないのです。
かたくて、児童養護施設の職員さんを思い出してしまうのです。
ゴーレム軍馬のオリバーさんは、堅苦しさはないのですが、何所か私に対する遠慮があるようで、仲良くなれたとは言えない状態でした。
でも、使い魔の子たちとは直ぐに仲良くなれました。
元が動物や虫だったからか、友達になるのに壁がなかったのです。
動物型の使い魔に愛情を込めて舐められたら、壁なんて作れません。
虫型の使い魔も、全身をすりつけて愛情を表してくれました。
私も全身で愛情を返したら、直ぐに仲良くなれました。
どの子もある程度身体の大きさを変えられるようで、小さくなって私の肩の上や頭の上に乗る事もあれば、大きくなって背中に乗せてくれる事もありました。
ただ、これまで私を背に乗せてくれていた、軍馬たちが焼き餅を焼いてしまって、拗ねた子たちを宥めるのに時間がかかってしまいました。
これからは軍馬と使い魔を順番に乗ると言って機嫌を直してもらいましたが、その気はなかったのに乗馬が上手くなりそうです。
その話を聞いたカーツさんが、とてもおしゃれな乗馬用の服と装備を手作りしてくれたのには驚きました。
英国風の乗馬服と言っていましたが、そこまで知っているのは、私に対する賠償の為だけでなく、おしゃれに興味があったらだと思うのです。
「深雪さん、他に欲しい物はないか?
無理矢理この世界に連れてこられた深雪さんには、できるだけ不自由のない生活をしてもらうから、何でも言ってくれ」
カーツさんは毎日同じことを聞いてくれます。
着る服も食べ物も住む所も、何の不自由も無いと毎日言っているのですが、それでも毎日同じことを真剣な表情で聞いてくれます。
あまりにも真剣に毎日に聞いてくれるので、何か言わないと悪い気になります。
かと言って、日本にいた頃に憧れていたフリフリのドレスが着たいなんて、言っても無駄だと思っていました。
カーツさんと二人、人里離れた場所に暮らしているのです。
普通の服だって手に入るとは思えなかったのです。
でも、おしゃれな乗馬服を手作りできるカーツさんなら、私が憧れていたヨーロッパの貴族令嬢が着るような服が作れるかもしれません。
「え~と、カーツさんは地球の貴族令嬢が来ていたドレスを知っています?」
「中世ヨーロッパの貴族令嬢か?
それとも戦前の日本にいた貴族令嬢が来ていたドレスか?」
「日本に貴族がいたのですか?!」
「いたぞ、ヨーロッパのようなドレスを着た時代は短いが、もっと古い時代には、着物がヨーロッパのドレスになる。
欲しいのならドレスでも着物でも作るぞ。
着物は俺しか作れないから、少し時間がかかるし作りも雑になる。
だがドレスなら、この国の貴族にドレスを作っていた職人が沢山いるから、良いドレスを早く作れるが、どっちが良い?
いや、両方作ろう、両方作って着てもらう」
成人式に来ていく晴れ着なんてない。
女性用の羽織袴でも、施設の私では着られないと思っていました。
諦めていたからこそ、晴れ着とドレスにはとても憧れていました。
ただ、自分で働くようになったら着られるかもしれないと思っていましたので、それを見にかれたのかと思って、ドキリとしてしまいました。
「両方作っても良いの?」
「お金なら掃いて捨てるほどあるし、職人は貴族が皆殺しにされて仕事が無くなっているから、よろこんで作るぞ」
「お金があって、本当に作っても良いのなら、ヒラヒラの沢山ついた煌びやかドレスが着てみたいの。
着物は自分で働くようになってからでないと絶対に着られないと思っていたの。
両方作っても良いなら、普通の家の子が成人式で着るような晴れ着が着たい」
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