第八話 聖女は学園で特別授業を開始する

「トオル様、私の趣味はいかがでしたか?」

「とても良い趣味をお持ちですね。キャンプは子供の頃以来でしたから、お陰でリフレッシュできましたよ」

「それは良かったです。いつも一人だったのですが、私も楽しかったです。ま、また一緒に行ってくれますか?」

「はい、もちろんですよ。それで、今日はどちらへ行かれるのですか?」

「今日の予定は、ジュネイル聖女学園に特別授業をしに行きます」


 ◇


 馬車に揺られて一時間。

 舗装されていない山道を、ガタガタ揺られながら学園に到着した。

 

「ラーナさん、それではこの辺りでカメラを回しますね」

「私の授業まで見られていると思うと、やっぱり緊張します」


 山奥にあるのもあって学園はかなり広く、校舎も大きい。

 桜のような花びらが舞い散り、芝生では瞑想している子もいれば、立ったままお祈りを捧げている子もいる。


 女子高生ぐらいだろうか。

 学生たちはラーナさんを見かけるなり、キャーキャー言っている。


『今日も見に来た』

『花の蘇生見逃したw』

『異世界JK!』

『キャンパスでかすぎ』

『素敵な学校』



「起立、礼、着席」


 三十名の女子高生が礼をして席についた。

 中には耳が長いエルフや、狐耳の獣人族など様々な種族がいる。


『ケモ耳きたあああああああああ』

『幼児っぽいのはドワーフか?』

『金髪エルフの子がJKに見えないほど妖艶w』

『やっぱり、ラーナちゃんが一番可愛い』


「それでは聖女候補生の皆さん、本日も特別授業を始めます。本日のテーマはズバリ、愛です」

「はい!」

「えと、エレーナさん、どうかされましたか?」

「後ろで変な魔導具を持っている男の人は、ラーナ先生の彼氏ですか?」


 おい、みんなして俺をジロジロ見ないでほしい……。

 

「か、彼は私の密着取材を担当して…」「キャー! 密着ですって!? ラーナ先生も隅には置けないのですね〜」

「はい! はい! はい! ラーナ先生と彼氏さんとの出会いを教えてほしいです!」

「か、彼との出会いは、私が強制的に召喚を…」「キャー♡ ラーナ先生は案外肉食系女子だったのですね!」


 授業が始まり、早速思いもしない方向へ向かっているのだが、大丈夫か……?


「コ、コホンッ。え、えと皆さん何やら勘違いをされている様ですが…」「ラーナ先生! 好きな人を攻略するにはどうすれば良いですか?」

「攻略!?……え、えと、今回の授業のテーマは愛ですが、そういった…」「やはり告白した方がよろしいでしょうか? でも聖女候補生である、わたくしから想いを告げるのもどうかと思いまして、あ、でもでもいつまで待てばいいのか分からないですし、彼が他の子と引っ付いてしまうのではないかと毎日毎日毎日毎日不安でどうしようも無いのですが、ラーナ先生であればどのように対応されるのですか?」


『金髪ドリルの暴走わろたw』

『授業ではなく、ただの恋愛相談w』


 ラーナさん、かなり困ってるな。

 テーマは愛と言ったが、彼女の思惑からして恋愛ではなく、おそらく家族愛だとか友情なんかを教えたいんだと思うのだが……。


「や、やはり自分から告白する……というのが良いと思いますね。ジッと待っていても何も変わりませんし」

「やはりそうだったのですね!」

「そ、それでは授業の本題に…」「はい、はい、はい、先生! わたしも好きな男子いるんだけど、どんな風に告白したらいいか分からないのよね。アドバイスくださ〜い」

「じ、自分の想いをそのまま告げては良いのではないでしょうか……?」

「例えば?」

「た、た、例えば…………」


『ショート仕掛けてるw』

『お顔真っ赤なラーナちゃん可愛いwww』

『異世界であっても年頃の女子は同じなのか』

『最強聖女も恋愛には疎いのかも』


「た、例えば、例えばですよ?」

「例えば?」

「ず、ずっと前から、す、す、す、しゅきでした……」


『噛んだw』

『噛んだな』

『しゅきはやばい』

『しゅきの威力ぱねえ』

『しゅきw』

『可愛すぎるw』


「「「キャーッ!! 先生かわいい〜♡」」」

「お、大人をからかうものではありませんよ〜!」

「ラーナ先生、ありがと、じゃなくて、ありがとうございました。あたしも『しゅき〜』って告ろうっと」


 プスプスと火照りきった顔をしながら、生徒の恋愛相談だけが続いて授業の終業チャイムの鐘が鳴った。


「ラーナさん、お疲れ様でした」

「お、お疲れ様でした。今日はとてもお恥ずかしい所をお見せしてしまいました……。いつもはあんな風にはしゃぐ子たちではないのですが……」

「テーマがテーマでしたからね。でも、ラーナさんは本当にみんなに愛されている様で、とても良かったと思いますよ」

「あ、ありがとうございます。今日のお仕事は以上になります」

「今日はずいぶんと早いお帰りなんですね」

「はい、明日は何と言っても年に一度の聖女祭ですからね。帰ったら準備をしなければいけませんし」

「聖女祭って何です?」

「あ、聖女祭というのは、クラス毎に色々な催し物を行うお祭りの事です。楽しみにしていて下さい」


 あ、学祭のことか。

 どんな事をするのか楽しみだな。

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