ゴーストフェイク

あさひ

第1話 ある女性の話

 カーテンが少し開いていた

日差しが痛いのはそのせいだろう。

 薄暗さが占める部屋の中で

ベッドから一人が起き上がった。

「うぅぁあ……」

 呻きながら毛伸びをする

パソコンの明かりだけがそれを目撃しているはずである。

「さてさて……」

 女性がベッドから起き上がると

冷蔵庫がある下の階へと歩き出した。

 外は朝ぐらいなのか

赤く黄色い光が階段前にある窓から覗く

手で隠しながらゆっくりと降りる彼女に声がぶつかる。

「あら? 起きたのね」

「おかあさん」

 下から覗くのは

エプロン姿でお玉を持っている女性だ。

「味噌汁…… ひさびさかな?」

「そうねぇ」

 言葉を残しながら

台所もとい冷蔵庫のある部屋へと戻っていく。

「卵焼きとご飯と焼き魚と……」

 過去に食べた朝ごはんを想起し

少しよだれが出そうになった。

 それくらいお腹が空いているのではなく

お母さんと呼ばれたエプロンの女性が

あまりに料理が上手いのである。

 リビングの方へと足取りが軽い

ひさびさの朝ごはんで卵焼きが食べれるのだ。

 意気揚々と着席すると

料理が運ばれてくる。

「今日はおろしポン酢だねぇ」

「そうねぇ」

 塩対応であるが

案外にも母は喜んでいた。

 口が少し綻ぶ辺りが

娘のことが相当であろう。

「で? 仕事は手につきそうなの?」

「んぅ?」

 口に頬張った状態で

もごもごと喋ろうとするが喉に詰めそうになった。

「私が悪かったわね」

 水の入ったコップを差し出されると

彼女はそれを勢いよく飲み干す。

「ぷはぁっ」

「で? どうなの?」

 仕事とはネットでの配信業であり

個人で行うアイドルのような職業だ。

「モデルも出来たし、あと機材ありがとうっ!」

「それは良いのよ」

 何か言いたげだった

恐らくは心配ということである。

「変な人に騙されないでね」

「わかってるよぉ」

 そんなことある訳ないと

半信半疑で答えているのが

なおさら心配を煽った。

「あなたがその仕事をすることを後悔させないでね」

「後悔なんてないよぉ」

「あなたじゃなく私がね」

「むしろ誇りになるからぁ」

 そうねと軽くあしらいながらも

可愛い娘を案じたのか冷蔵庫に向かう。

 大量のエナジードリンクと

メモ書きを渡された。

「こんなに持てないよぉ」

「ちゃんとメモ書き読みなさい」

 メモ書きには

一日に一本のみ飲んで

飲むために一階に降りてくることが

書かれている。

「寂しいんだぁ」

「そうかもね」

 母の目が少しだけ優しくなる

心が温かくなる感触がした。

 朝の日差しが目を覚まさせたなら

母からの陽光は心を起きさせるのだろう。

 それが朝のことだ

夜のあることを示唆しているような

そんな感じだ。


 日が暮れると

電気を付けなければ見えないが

部屋はパソコン以外が光を持たない。

「さあ始めますか……」

 パソコンのアプリを起動し

準備を始める。

 パソコンの画面にキャラクターが映ると

横に文字の大群が出始めた。

「おぉーっ! みんな元気だった」

 文字の大群がおはように変化すると

仕事が始まる。

「おっ? この子じゃん」

 文字の大群もといコメントに

時々だが見に来る子が映った。

「今日も好きです……」

 独り言のように

コメントを復唱する。

 にやけながら

そのコメントを噛みしめた。

「私も好きだよ」

 そして体の感覚に

少しだけ不思議な感覚がする。

「やっぱし超能力ってすごいね」

 キスをされる感覚がする

体を触られる感覚もした。

「この子の顔ってどんな顔なんだろう?」

 超能力とは

コメント欄にいる子が発しているのかは

わからないが毎回のようにその感覚がする。

「この前のゲーム楽しかったね」

 語り掛けてみたが

こちらからは言葉でしか伝わらない。

 コメント欄に

誰とというコメントがびっしりになり始める。

「ゲームのセリフだよ」

 安堵の声がコメント欄に占める

それほど人気があるのだ。

 不意に画面の横から

メールが受信される。

「ん?」

 メールを一応にも確認すると

コメント欄にいる子の名前で

ゲームのお誘いが来ていた。

「おかしいな……」

 コメント欄の子は

ゲーム出来る人がいるんだ

いいなとコメントしている。

 メールを無視していると今度は声が添付されていた

その子の声だとわかった。

 なんでわかったのかは

会ったことはないにせよ

超能力で伝わってきたはずの声だったである。

「君と会いたい」

「私もぉ」

 その瞬間に

コメント欄の子が

誰となのと

焦った打ったのか

だtrしょと打っていた。

 メールに対して

偽物と思った瞬間にメールが止む。

「誰だったんだろう?」

 頭にネット用語が過る

【ゴーストフェイク】

 ゴースティングという盗撮と盗聴を合わせた行為により

フェイクでそういった職業に会い

騙し代価を請求したりゲームなどを楽しむ連中のことであった。

 そして被害から言うと

暴力事件なども発生している。

「まさかねぇ」

 その日は配信をそつなく終え

眠ろうとした時だ。

 メールの着信音が鳴る

確認するまでもなく睡魔のためにベッドに潜り込む。

 寝落ちする頃には

音が気にならない程度に眠っていた。


 ドンドンっと大きな音が鳴り響く

部屋のドアではなく玄関だろうか

けたたましくなっている。

「うぅ…… なに?」

 下から母が顔面蒼白で

ゆっくり音を立てずに上がってきていた。

「いつから居たの?」

「起きるのが遅いわよ」

 小声で母親が

辺りを警戒しながら答える。

「どうしたの?」

「あなたの知り合いと言うから開けようとしたけど」

「いないよ」

「そうよね」

 知り合いにこんな夜中で

家にまで来る人はそもそもいない。

「じゃあ名前は?」

「みかみたくって言ってたわよ」

 コメント欄の子がその名前である

しかしそんなことをしない。

「声は?」

「高い声だった気がするわ」

 低い声でしかない

そしてまだ現実で会ったことがなかった。

「そうだゲームのアカウントで確かめよう」

「ダメよ」

「なんで?」

「おそらく偽物よ」

 どうしてわかるだろうと思ったが

すぐに理解する。

「そういえばお母さんも強かったよね」

「その子はそのゲームにアクセスしていないわ」

 ゾッと悪寒が走る

デレデレでなおかつ彼女の振りまでしていた。

「私の幸福はニセモノなの?」

「そうね」

 その前にこの危機を乗り切らなければならない

警察を呼んだがいまだに来ないらしい。

「渋滞がひどいらしいの」

「警察が?」

 電話をもう一度だけ掛けてみた。

【もしもし? どのような件ですか?】

「先ほど電話したんですが……」

【そのような電話はありませんでしたが?】

「へ?」

【今が初めての電話ですがね?】

 電話すらもハッキングされていたのだ

助けも呼べないようにである。

 状況を説明し

警察に動いてもらうことが可能となった。

【とりあえず向かいますね】

 その瞬間にメールの着信音が

鳴り響く。

 メールの内容は

【偽物に騙されるな】

【私が本物だ】

【警察など必要ない】

【ふざけるな】

 何通も何通もひっきりなしに送られてくる

超能力で伝えれば良いものを何通も

この時に気が付いた。

 家にあるカメラが

自動で動いていたことに

そして潰れたはずのカメラが起動しているという

不可思議に気が付く。

「なるほどゴーストフェイクなんだ……」

 サイレンが鳴り響いたのは

放心してから三十分後だ。

 謎の男は姿が消えていた

まるで本当のゴーストと

頭の中で過る。

 謎の存在は分からぬまま

現状の証拠で男がいたとだけわかった。

 そして今もメールが送られてくる

様々な言葉を用いてこういうのである。

【私が君の愛しい人だよ】


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ゴーストフェイク あさひ @osakabehime

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