038:竹!!!!!

 次は僕の番だ。


「小熊さん。チェキをお願い」

「待ってましたー。最初は何枚撮るんだいっ?」


 おっ、小熊さんも乗り気だ。

 これはチェキが撮りやすい。チェキりやすいってやつだ。


「まずは5枚でお願いします」

「かしこまりましたっー! 準備するねっ」


 チャイナくままとのチェキが5枚確定したぞ。

 やばい。毎度のことながらポーズとか全く考えてないぞ。


「隼兎くんっ。準備ができたからこっちおいでっ」


 もう準備終わったの!?

 考えてる余裕なんて微塵もなかったぞ。


「おじいちゃんもいつもみたいに写真お願いねっ」

わしに任せるのじゃ」


 小熊さんのおじいちゃんも一眼レフカメラの準備を始めたぞ。

 今回は半目にならないように注意しなきゃだ。

 それにポーズもバリエーションが多い方がいいよな。

 右手でポーズと左手でピース。両方でピース。これで3種類か。いや、これは3種類になるのか?

 まあ、いつもみたいにぶっつけ本番でやるしかないよね。そんでくままに助けてもらおう。

 そんなことを考えながら立ち位置へと向かった。


「最初はれおれおと同じで挨拶のポ〜ズっ。しぇいしぇい〜っ」


 うおっ!

 可愛すぎるだろ。横からでも可愛さが伝わったぞ。

 こんな挨拶されたら可愛さのあまりぶっ倒れてしまうわ。


 ――カシャ!


「次は戦いのポーズ。あちょーっ!!」


 くぅうううう!!

 これも可愛すぎる。片足が上がっててチャイナ服の切れ目の部分が際どいぞ。正面からならどんな光景が!

 というかこの戦いのポーズだけで決着が着いちゃうわ。誰も勝てないし、可愛さオーラで近付くことすらもできないだろ。


 ――カシャ!


「続いて〜、くままポーズっ。あっ、今はチャイナだからパンダポーズだっ!! ぱんだ〜っ」


 ぱ、パンダポーズだとぉおお!?

 一見するとくままポーズとなんら変わりない体勢だ。だけど、チャイナ服を着ることによってパンダを彷彿とさせるポーズとなる。

 衣装だけでここまで可愛さのバリエーションが増えるとは。これは想像もしてなかった。想像以上の可愛さだ。

 本物のパンダ以上。全動物が束になっても敵わない可愛さだぞ。


 ――カシャ!


「4枚目は〜、腰をひねらせて振り返りのポーズっ!!」


 腰をひねらせて振り返りのポーズだってー!?

 チャイナくままの華奢な体からくっきりとした腰のラインが!

 それだけじゃない。お尻のラインも。それと、やっぱり脚が! 肌が! 推しの太ももが!

 このポーズはご褒美すぎる。あと1枚残ってるのに止めの一撃すぎるポーズだよ。


 ――カシャ!


「ラスト5枚目は〜、キョンシー!! ぴょんぴょんって感じのポーズっ!」


 まさかのキョンシーポーズだとぉお!?

 腕を真っ直ぐに伸ばして甲を見せカメラに向けている。小熊さんの手の甲がどんなチェキよりも近い。

 いいのか!? いいのだろうか!?

 小熊さんの手の甲がこんなに近いチェキがあっていいのだろうか!?


 ――カシャ!


「5枚撮り終わったよ」


 撮影してくれたクラスメイトからの言葉を聞いて、僕の頭は一瞬真っ白になった。

 は? もう5枚終わったの?

 小熊さんの可愛さに圧倒されてポーズを撮るのを忘れていた。

 撮影前に想像してた3種類のピースすらもできずに終わってしまった。

 これで累計42枚になるのか。1枚小熊さんにサプライズでプレゼントしようかな。

 そうなると累計は41枚になるか。


「ふふっ。隼兎くん、全部同じポーズだよ」

「半目の竹じゃな」


 また半目だったの!?

 そりゃそうか。半目にならないように全く意識とかしてなかったし。

 というか竹って何!?

 棒立ちってこと? ポーズ取れずに棒立ちだったってこと?


 確認のため、小熊さんが見ているチェキを覗き込んだ。

 そこに映っている僕の姿は、まさに竹だ。可愛さに負けずに真っ直ぐに立っている竹だ。

 気絶しなかっただけマシだと開き直ろうではないか。


「はいっ。チェキありがとうね。な隼兎くんもすごくいいと思うよ。私はっ」

「あ、ありがとう」


 棒立ちが褒められた。本当に褒めるのが上手なこと。

 僕もそういう人を傷つけない真っ直ぐな心の小熊さんが好きだな。


「それじゃ着替えてくるねっ」

「え? 着替え? もう終わりなの?」


 どういうことだろう。急な用事でもできたのかな?


「違うよっ。次はメイド服を着ようと思ってさっ。チャイナ服は隼兎くんたち見たがってたでしょ? だから最初に着てみたのだよ〜」

「なんてありがたすぎるお気遣いなんだ……天使か? 女神か? いや、くまま様だ!!」

「くまくまくまくまっ。それじゃ隼兎くんっ、お着替えするから待っててねっ」

「は、はい!!!」


 チャイナくままは、さっき撮ったチェキ5枚を僕に渡して着替えスペースへと入っていった。

 あぁ、天使すぎる。大天使様……大くまま様だよ。本当に。

 まさかメイド服姿の小熊さんともチェキが撮れるだなんて。

 幸せで僕死んじゃうんじゃないのか?


「幸せで死んじゃうんじゃないか、って顔だね」


 突然声をかけられた。

 驚いて反射的に声をかけてきた方へと首を傾けた。

 そこにいたのは、れおれおだ。


「な、なんでわかったの!?」

「くままが言っていた。わかりやすい表情をするってね」

「どんだけ僕の表情ってわかりやすいんだ……」


 つくづく思う。わかりやすい表情って何?

 そんなに的確に当てられるもんなの?


「それに、純平くんもそんな感じで休んでるからね」

「じゅ、純平!?」


 れおれおの席の正面で純平が休んでいた。

 幸せのあまり力尽きてしまったんだ。

 こりゃ仕事が出来なそうだ。なんてだらしない執事なんだ。

 でも仕方ないよね。純平にとってのれおれおは、僕にとってのくままみたいな存在だ。

 力尽きて当然。意識を失うのも当たり前。死と生の境目を生きるのなんて普通なんだから。

 でもね純平。まだこの幸せの時間は終わってない。

 だから力尽きるのは早いよ。


 僕はこの時間が……第2班の時間が終わるのと同時に意識を失うだろう。

 第3班である僕は仕事をせずに退場する。そんな未来が見える。

 クラスのみんなに、特に第3班には迷惑をかけてしまうだろう。

 でもそれでいい。僕はこの時間に全力を注ぐ。

 だからまだ倒れるわけにはいかないんだ。


「じゃじゃーん! メイドくままだよっ! いらっしゃいませご主人様〜っ」

「――がはッ!!!!!」


 まだ……倒れるわけにはいかないんだ……。

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