037:れおれおのツーショットチェキ
ミルクティーは飲んだ。ここからはチェキの時間だ。
チェキは1枚200円と格安。チェキを撮る時は一度席で注文し、誰と撮るのかを選ぶ。もちろん気に入った人を撮ってソロチェキをもらうのもありだし、その気に入った人と一緒に撮ることもできる。
友達同士で撮るのもありだし、ひとりで撮るのもだってありだ。
僕が選ぶのは小熊さんとのツーショットチェキ1択。
〝チェキが撮れるコスプレ喫茶〟でチェキが採用された理由は、文化祭の思い出を形に残せるといった点だ。
だからチェキの売り上げの200円というのは、儲けのためではない。すべて材料費、余った分は募金となるのだ。
募金のためと考えればなおさら撮りまくるしかない!!!
やるぞ山本隼兎! 小熊さんと撮りまくるぞ!!!
と、その前に――純平とれおれおのチェキを見届けないと。
ちょうどれおれおも飲み終えてチェキの注文を始めていた。
最初は小熊さんとダブルチャイナチェキを撮るものだと思ってたけど、そうじゃなかった。
れおれおは純平とのチェキを注文したんだ。
推しからの注文。これ以上に嬉しいことなどあるのだろうか。否、ない。
どれだけ嬉しいのか想像もできない。想像しただけでも脳が溶けてしまいそうになるよ。
外野の僕でもそんな状態なんだ。純平はもっとだろうな。
親友としてこのチェキは見届ける義務がある。しっかりと見届けさせてもらうよ。純平。
「チャイナと執事。これまた不思議な組み合わせだ」
「あ、ああ、え、あ、そ、そうです」
純平のやつ緊張しまくりじゃんか。せっかくれおれおから声をかけてくれたってのに。がんばれ純平。運動部で鍛え上げた鋼の精神を見せる時だぞ。
「2枚撮るからね」
「え? あ、に、2枚!? あー、小熊とか?」
「違うよ。キミと……純平くんとだよ」
「へ?」
純平の情けない声を合図に会話が終わった。
その会話のない間を絶好の機会とばかりにカメラを構えるクラスメイト。
そして掛け声の後、シャッターは切られた。
――カシャ。
「もう1枚撮りますよー。3、2、1ッ!」
――カシャ。
2枚連続で撮られたチェキ。その2枚とも純平とれおれおのチェキだ。
レンズ越しから見ていないし、現像されたチェキフィルムも見ていない。けど、わかる。純平が全く同じポーズを撮っていたことに。
それに比べてれおれおはクラスメイトの掛け声の中でポーズを変えていた。まるでモデルのように。
1枚目も2枚目もチャイナ服に合ったポーズだ。
1枚目は手のひらに自分の拳をつけて、ちょっとだけお辞儀をする挨拶のポーズ。
2枚目は片足を上げて戦闘態勢に入ったかのようなポーズ。
僕以外の人は全員れおれおに視線が吸い寄せられていたに違いない。それだけポージングが美しくセクシーだった。あと、片足を上げたポーズは際どすぎて逆に目を逸らしてしまうほどでもあった。
さすが人前に立つご当地アイドルという素晴らしい活動をしているだけはある。
「に、2枚も……いいのか? 俺なんかと撮って。小熊と撮らなくていいのか?」
「いいんだよ。それにくままとはもう撮ってある。10枚もね」
れおれおは自分が座ってた席へ行くとすぐに純平の元へと戻った。
その手にはチェキフィルム。おそらく小熊さんと撮ったと言っていた10枚のチェキだろう。
「ダ、ダブルチャイナ
ダブルチャイナ
見たい。見たい。うらやましいぞ。純平!
というかいつ撮ったんだ?
僕たちが着替えてる間しか考えられないよな。
あんな短い時間で10枚も。さすがチェキに慣れているだけはある。
「それ、あとで隼兎にも見せてやってくれ。絶対に喜ぶ」
ありがとう純平。なんて優しいんだ。さすが親友だ。
「そのつもりだよ」
れおれおもありがとう。ダブルチャイナチェキをありがとう。
あぁ、今日はなんて素晴らしい最高の文化祭なんだ。
「それで、純平くん。どっちがいい?」
「え? どっちというのは?」
「さっき撮った私とのチェキだよ。1枚はキミにあげる」
「い、いいの? いいのですか? いいのでしょうか? いいのだろうか?」
「もちろんだよ」
「ッしゃ!!!!!」
純平にとっても最高の文化祭になりそうで良かったよ。
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