《推しチェキ》クラスメイトでご当地アイドルの推しとのツーショットチェキが100枚に到達しました。〜なぜか推しは僕と普通のツーショット写真が撮りたいらしい〜
012:不意のくままポーズは反則だろ、あと破壊力がやばい
012:不意のくままポーズは反則だろ、あと破壊力がやばい
今日は始業式……だったよな?
むしろ同じくクラスに小熊さんがいる時点で、緊張して集中することさできなかった自分もいる。
学校生活に支障をきたしまくっている。
などと、下校中に考えている。
今思えば朝起きてからずっと小熊さんのことを――くままのことを考えている気がする。
そもそも何で小熊さんはこんなにも普通のツーショット写真を撮りたがってるんだろう。
僕なんてただのクラスメイト、そしてただのファンでしかないのに……。
「
「うわっ! 小熊さん!」
「うわっ、って! 驚きすぎだよ〜」
驚くのも無理はないだろ。
だって今まさに小熊さんのことを考えてたんだから。
それにここはもう学校じゃない。突然後ろから声をかけられたら、誰だって驚くだろ。
「ど、どうしたの? 小熊さん」
「隼兎くんを見かけたからさ〜、声かけちゃった」
僕を見かけただけでわざわざ声をかけるか?
多分、いや、絶対に……小熊さんの目的は――
「普通のツーショット写真、撮ろ?」
やっぱりだ。
小熊さんの目的は普通のツーショット写真。
イベントで使われるチェキカメラではなく、小熊さんが所有しているスマホのレンズを通して僕と普通のツーショット写真が撮りたいとのこと。
「さっきも言ったけど……炎上の火元になるようなことはしないから。絶対に。それがファンとして当然の責務!」
「でも二人っきりで下校してるよ? こんなところ誰かに見られて、写真でも撮られたら勘違いされちゃうんじゃな〜い? 違う意味でツーショット写真が撮れちゃうねっ!」
確かに小熊さんの意見はごもっともだ。
誰かにこんなところを見られでもしたら大変なことになる。
それこそ小熊さんが言っているパパラッチ的な存在にでも見つかったら、小熊さんのアイドル人生が幕を閉じることにも繋がりかねない。
ではどうするのがベストか?
走って逃げるか?
いや、それだと小熊さんに嫌われてしまう可能性が……。
くままを守るための行動とはいえ、くままに嫌われてしまったら意味がない。
この状況の打開策は……まあ、これしかないか。
「誤解されたら、しっかりと誤解を解けばいい!」
今のこの状況のようにどうしても避けられないことが、これから幾度となく起こるだろう。
その度に誤解を解けばいいんだ。
「だったら写真もそうじゃない? 変な誤解されてもクラスメイトだからとか、友達だからって言えばさ〜」
「それはまた別だよ。自分たちの意思で撮った写真だと、たとえ誤解が解けたとしても誤解を招いたという汚点は払拭できない」
そう。だから写真のように避けられるものは、徹底的に避ける必要がある。
小熊さんのアイドル人生のためにも、これだけは絶対に譲れない。
だって小熊さんは――くままは、僕の最高の推しだから。
「なるほど〜。そこまで考えていたのか。それじゃあさ〜、隼兎くんのカメラで撮ろうよ。隼兎くんがSNSに流さない限り安全だよね?」
「それは僕も考えたよ。でも、それも無理だ」
「な、何で!?」
「だって自慢したくなるじゃん! くままとのツーショット写真だよ? チェキとかじゃない普通のツーショット写真! 特別感が半端ない写真! 絶対待ち受けにするだろうし、何ならSNSのアイコンにもしてしまう可能性が……。その勢いで投稿、そしていいねなんてもらった日には、嬉しくて自分を制御できなくなる。また新しい写真を撮ってしまいかねない。それが永遠と続き、いつか炎上の火元に……。止められないんだよ。くままへの愛が……」
気持ち悪いだろ。
でも本気だ。本気でくままを応援したいんだ。
だから1枚でも写真を撮ってしまったら、自分を制御できなくなる自信がある。
くまま依存症になる自信があるんだ。もう初期症状は出てるけど……。
「考えすぎだよ〜。でも真剣に考えてくれて嬉しい。ますます諦められなくなっちゃう」
「な、何で! どうして? 僕の話ちゃんと聞いてた?」
「聞いてたからこそ諦められないの。
真剣な眼差し。
ステージの上に立つくままのキラキラと宝石のように輝く瞳とは、また別の輝き。
小熊さんにも小熊さんの考えが、気持ちがあるんだとわかった。
だからと言って僕が折れることはない。
それと一つ小熊さんは間違っていることがある。
僕も今日気付かされたことなんだけど……。
誤解は解かないと……だよな。
「小熊さん」
「ん? 何? もしかして撮る気になった?」
「違う違う! 撮る気はない!」
「えー。じゃあ何よ〜」
「僕の推しはくままだよ」
「突然の告白っ! どうしたの? 知ってるよ」
困惑の表情を見せる小熊さん。めっちゃ可愛い。
どんな表情でも可愛いって、小熊さんは可愛いという概念を作り出した女神様か何かか?
本当に可愛いな、まったく。
僕の思考が鈍くなる前に伝えたいことを伝えなきゃ。
「くままは小熊さんだよ」
「ん? そうだけど……それがどうしたの?」
「僕の推しは小熊さんもでもあるってこと」
ご当地アイドル
同一人物であることは今日思い出したこと。
思い出したことによって改めて気付いた感情もある。
くままを推すということは小熊さんも推すということ。
そしてくままは小熊さんの一部であるということ。
くままを全力で応援したいって気持ちは――小熊さんを全力で応援したいって気持ちだから。
「だからその……くままと比べて
「隼兎くん……」
告白じみた感じになってるけど、ちゃんと言葉は選んだ。『好き』という言葉を避けて『推し』という言葉を使った。
これなら告白だという勘違いはされないだろう。そしてファンとしての本気が伝わるだろう。
いや、絶対に伝わってる。その証拠に瞳が少しだけ涙で光ってる。
「全力のくままポーズ! 制服バージョン!」
不意の全力のくままポーズだと!? しかも制服バージョン!
「――ぐはッ!!!」
まさか下校中にくままポーズを拝められるとは……。
クラスメイトで本当に良かった。
クラスメイトという特権を使うのは些か不本意ではあるが……。
でも本当に良かった。
というか、なんで小熊さんは突然くままポーズを?
「どうだ〜? このくままポーズを前に写真を撮らないとかあり得ないだろ〜」
「くそっ! 強硬手段か! 反則だぞ!」
「反則も何も隼兎くんが言ったんだよ? くままは小熊さんだって! それにくままじゃない部分の私も推してるって! だから私はくままとして使えるものは使うわ〜!」
何かに寄りかかってないと立っていられないほどの破壊力だ。
可愛さだけで街が一つ消し飛ぶぞ!
「くままポーズから解放されたければ、私とツーショット写真を撮りなさいっ!」
「ぬおぉおおお!! なんて可愛さなんだー! 時空が歪むー!!」
幸せすぎて意識が飛びそうだ。
耐えろ。耐えるんだ!
きっと小熊さんだってくままポーズを維持することができないはず。
体勢が少しでもズレたら僕に勝機があるあるはずだ。
だからそれまで耐えろ、僕!
「くっ、やるわね。さすが私のファン……」
「耐えた……のか? 僕は小熊さんの可愛さに……耐えたのか?」
時間の感覚はとうに麻痺している。
どれだけ耐え続けたかはわからない。
でも耐えた。あの可愛さに僕は耐えたんだ。
毎日チェキを拝めていたおかげかもしれない。
もしも拝めてなかったらと考えると……可愛さで死んでいた。
「隼兎くん! 覚えてなさい! 明日の学校も! 今週の日曜日のイベントも!」
捨て台詞のような台詞を叫びながら小熊さんは駆けて行った。
遠ざかっていく小熊さんも芸術的だな。美しい。自然と同化してるや。
それにしても去り際の小熊さんの顔。どうして真っ赤だったんだろう?
恥ずかしかったのかな?
いや、ステージに立って歌って踊る人――天使だぞ。恥ずかしいはずない。
じゃあどうして顔が真っ赤だったんだろう?
照れ隠しとか? そんなわけないか。
まあ、何でもいいよな。すごく幸せそうにも見えたし。
推しの幸せそうな顔が見れて、僕は幸せだ。
だけど――
「鍛えないと……僕の体がもたない……」
くままポーズの破壊力は本物だ。
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