エピローグ
一年だか二年ぶりに訪れた喫茶店にはあの日と同じ席にあの日と同じ顔の人物が座っていた。
私は不機嫌な顔のままに、それでも仕方なしと割り切ってその人物の前に腰かけ、歩み寄ってきた店員にアイスコーヒーを注文する。
ややもして飲み物が届き、それを口に含んだタイミングで対面する人物は口を開いた。
「相も変わらずの様子で安心しましたよ、津出さん。よくきてくれましたね、急な呼び出しだったのに」
「そちら様もお変わりはない様子で。相変わらず人の都合を考えないのだわね」
適当な返事に彼は文句をいうでもなく、小さな溜息を吐くに留まり、改めたように私を真っ直ぐに見つめた。
本日、私は彼女の恋人を名乗っていた男に呼び出された。
まるで数年前の再現のようだったが、これも一つのケリとして考え渋々とここへやってきた。
「結局、彼女はあなたのみを求める結果になりましたよ。まあ御自身の現状からしていうまでもないでしょうけども」
「そちら様は彼女とは完全に縁が切れたようだわね」
「果たして本当に縁はあったのだろうかと疑問すら浮かぶ程ですよ、僕……いや、我々は」
彼女はあの雨の夜からずっと私のもとにいる。
それこそ数年前のように、いやさ、まるでその続きを今正に実現せんとするかのように彼女は私から離れる素振りをみせない。
私には何一つ問題はない。
元より後悔があった上に、結果として彼女と再度心を通わせることが出来ている。
その事実だけが重要であり、その他のことにさして思うことはない。
「とはいえお気づきなんじゃあないですか。そもそも彼女があなたから離れたことなどこの二年の間に一度もないと」
「さあ、さっぱりですわね」
明確に二年の月日だったと告げられて私は曖昧だった虚無の期間に一人で納得する。未だにその間の記憶は曖昧で、日々は飯を食って寝て大学に通うだけのあまりにも機械じみた生活だった。
それこそが私の最も望んだ生き方だったろうに、その日常に何一つ感慨もないものだから、当人の望む理想や憧憬などというものは存外、的の外れたものなのかもしれない。
「まあ順を追っていきましょうよ。あなた自身の感じている、なんともご都合主義な現状に対する納得だって必要でしょう」
それは貴様等が納得する為の言い訳ではないのかといおうとしたが言葉を呑んで適当に頷いておく。
「そもそも彼女はあなたから別離を望まれて頷いた訳ですがね、彼女は心底あなたを想っている。そうとなれば頷くでしょう。まして彼女自身が起因となる問題であるなら尚更だ。元より恋人の関係でもない上に繋がりといえば身体だけ。で、あるならば関係なんて普通の恋仲の間柄よりも尚、さっぱりと終えることが出来るというのも、彼女にとっては好都合だったでしょうね」
饒舌に語る男の表情は至って普通だ。
そこに怒りや憎しみといった負の感情はない。
淡々と語るだけで、私は男の言葉に耳を傾けつつ手元にある飲み物を啜る。
「第一に切り離したのは多くの恋人たちでしたかね。身体の関係のみの相手とも距離をおいて、一つ一つの問題の解決に迫った訳です。とはいえ突然に別れを切り出される訳ですから納得しない男もいますよ、僕もそのうちの一人でしたけども」
「ふぅん」
適当に返事をする私に男は言葉を続ける。
「次に近しい人々の選別でしたかね。選別ですよ、選別。意味、分かりますか?」
「言葉のままに選んで別けるということでしょう」
「ええ。端的にいえば彼女の行動や思想だとかに疑問を抱かないような……要するに表面上のみでの付き合いで済む人物だけが彼女の傍におかれることになった、という訳です」
「まるで女王様だわね」
「ですが元よりその気質ですしね、間違いではないですよ」
あっけらかんという男の言葉に私は嘲笑のまま鼻を鳴らす。
「結局、全ての整理整頓を済ますまでに二年の月日を要したと。あなたのことですから彼女の近況とか知らないでしょう?」
「幾度か構内で見た程度だわよ」
「そんなもんでしょう。なら気づかない筈ですよ、彼女の傍にいる人物たちの入れ替わりようといったら激変したどころじゃない。それこそ表面上の付き合い程度の、いってしまえば顔見知りで済むくらいの連中が今の彼女の取り巻きですから」
そういわれて私は尚のこと呆れる。
「多分、元々全員をそういう風に見ていたと思うわよ。それがより見て取れるようになったってだけなのでしょう」
「……でしょうね。ですがそこまでの行動をする程に彼女は必死だったんですから、あなたはとんでもない人物ですね」
その台詞が賞賛か蔑みかは分らなかったが、言葉を無視して飲み物に口を付ける。
「でもそれが済んだところで手段も状況も不足していたのですよ、彼女にとっては」
「不足」
「ええ。先ずをして心配だったからお得意のままにあなたを影からずっと見ていたり、ね」
寄越された台詞だが、しかし私は特に驚きもせず、相変わらずに無表情のまま対面する。そんな私の様子に男は目を瞑り、これもまた恐ろしい人物だ、とだけ呟いた。
「そもそもあなたの行動パターンは二年前に把握していた訳ですよ。あなたと恋人ごっこをする以前に散々付き纏っていたでしょう?」
「ええ、そうね」
「で、あるなら……あなたをどこからでも監視出来ますよね。例えばよくいくコンビニだとかも分かっているし、あなたの行動する時間帯だとかも把握している訳だ」
「……そうでしょうねぇ」
「それも気取られないように、時には誰かを都合のよい風に使ったり、ね」
「まあ……出来ちゃうんでしょうね。周りには別れを告げられたとはいえ未だに御執心な男共もいるし、人員に不足はないでしょうね」
「……つまり、そういうことですよ。それが二年もの間、あなたと彼女の周りで起こり続けていた訳です。彼女は二年間、ひたすらにあなたを監視し続け、並行して周囲の環境等を整えたりして着々と準備を進めていた訳だ。あなたを手に入れる為の準備をね」
そういわれた私は、やはり特に反応もせず、飲み干した容器を手に取り適当に観察するくらいなものだった。
そんな私の様子に彼は諦めたようにかぶりを振るだけで、結果的に私に対するこの報告に意味はなかったのだと悟った様子だった。
「……恐ろしいと感じたりはしないのですか?」
「何を?」
「彼女を」
寄越された質問に私は少しばかり口を噤むが、天を見上げ、次いで視線を横へとそらし、窓辺から見える外の景色を捉えると小さく微笑む。
「そんな獰猛な様こそがいいんじゃないのかしらね」
「獰猛、ですか」
「ええ。まるで獣ではないの。己の持ち得るもの全てを利用してでも是が非でも手に入れんとするその必死さって、ある意味羨ましいでしょう」
「……その気持ちが、我々には足りなかったのでしょうかね」
「どうかしらね。少なくとも二年前に私はあなたにいったわよ。己の心に従えばいいと、是が非でも手に入れんとするなら他者の意思すら粉砕しろと」
私は立ち上がる。
外の景色に視線をやった時、そこに見知った人物がいた。
今日の予定を告げた覚えはなかったが、どうやら告げるまでもなく、その人物は全てを理解し掌握しているらしい。
その手練れの様に自然と笑ってしまうのは、呆れが礼にくるというか、言い換えるなら天晴とでもするか。
つまり、誰もがその人物には敵わないという訳で、私は男への興味が完全に失せると背を向ける。
「結局、あなたには勝てなかったのですね、我々は」
「これは勝ち負けの話しだったのかしら」
「違いますか?」
「ええ、残念ながらに」
縋るような声だった。
既に興味は失せていたが、私は最後の言葉として彼へと振り返る。
「トロッコ問題だろうと崖に掴まる妻や母だろうと、選択の余地はたったの一つだと決めつけるその寡欲な振る舞いと己への欺瞞こそが答えよ。死者は必ず出るのではないのよ。失いたくないというのならトロッコを破壊し、崖に掴まる人物全員の腕を掴んで引き揚げなさいな。用意された当たり前や普通や答えだなんてものに頷くばかりの人生なら、そこが限界の際だわね」
「……現代人らしからぬ、理想主義者の言葉ですね」
「そう思う程度だからその程度でしかないのよ。それではさようなら」
答えを体現した人物に振られるのだから、やはり彼やその他の取り巻き共に彼女を完全には理解出来まい。
別に私だって完全な理解をしている訳ではない。
結局のところ同じ人間という生き物なだけで彼女と私は他人だ。
彼女は本物の蝶になったという、その事実だけが重要であり、彼等は溢れる程の火炎を前にして翅を焼き尽くされて終わっただけの話しだ。
(彼女を殺してでも独占すりゃよかったのに)
独占や支配の行き着く最終形態は死だ。
その人物の持つ心や精神どころか意思の全てを破壊し、単一の無機物にしてしまえばそれで完了となる。
それが目指すべきエンドロールかと問われたらば否といわざるを得ないが、この世の中にはそうでもしなければ手に入れられない人物もいる。
何もかもを燃やし尽くしてでも目的を完遂する為に行動する人物を我が物にせんとするならば、やはり命の一つや二つくらいは奪わなければ太刀打ち出来やしない。
(普通とかいう言葉の柵は、世の均衡を保つための楔なのでしょうね)
理解できないままでいた私は一つの学習としてそれを受け入れた。
成程、人間社会において普通という言葉の真なる意味というのはセーフティであり、安全策なのだろう。
その言葉は呪いに等しいが、その呪いがあるが故に千差万別の世は成り立ち、一見機能していないと思われる道徳倫理というのは自衛の為の盾でもあり剣なのだろう。
何せ人間は皆が違う生き物だから、誰もが皆強い訳ではないし数多の壁を乗り越えていける訳でもない。
(意外とよく出来てるなぁ……いやはや人間様の叡智とやらは誠に恐れ入るわね)
それでもその枠組みから逸れる人間だっている。
犯罪がその最たるものだが、それとはまた別に、己の魂のみが絶対の掟とする社会不適合者がいる。
私はそれだ。
どれだけ理解や納得が出来ても、やはり私にとってして先の男やその他の人物たちの不出来な様には共感が出来ないでいる。
結果的に支配されたのは彼等であり、結末といえば敗北だとかと現状を勘違いするくらいに自分本位な連中だった。
そこに本質はない。本質は彼女の心の裡に触れたかどうかが全てだ。
「とはいえ……仮に理解したとしても、それを手懐け己の意のままに出来るかどうかはまた別の問題なんだけどもね」
私は外に出ると同時に煙草を咥える。
空にはどんよりとした雲がある。
それがゆっくりと流れていて、微かに香る雨のニオイに私は面を顰めつつも火を灯した。
相も変わらず若い男や女の行き交う洒落た通りだった。
だが私が紫煙を燻らせるとそれだけで道は開ける。
私は開けた道を歩む。
そう遠くない位置に一人の人物がいる。
先の店内からその姿を確認した時、既に私の興味はその人物にしか向かわなかった。
誰もがその人物を見ている。
通りすがるその時に、ふと視線を泳がせた時に、なんとなし振り向いた時に、各々の状況は数あれど、一度でも視界に入ればその美貌に見惚れる。
そんな人物は嬉しそうに笑いながら私を見つめている。
私は笑みを返さない。だが迷いのない足取りのままにその人物へと歩み寄り、紫煙を振りまき景色を往く。
「こんなとこで何やってんのよ、あんたは」
「ふふふ、さて何でしょう? 元カレと密会している彼女さんをつけまわしたりとか?」
「相も変わらずに犯罪者のそれだわね、まったくもって度し難く恐ろしい女だわよ」
「あれあれ、もしかして褒められてるのかな?」
「その歪な感性も含めて、やっぱりあんたは唯一無二といえるわねぇ」
「いやこれ貶されてるのかな?」
「あら、ようやっと人並の理解力を得たのね」
「そもそも人間扱いされてないのかーい!」
彼女は笑う。
紫煙を纏う私の胸の中へとやってきて、誰の目があろうとも気にせずに強く抱きしめてくる。
梅雨の午後の往来で恥じらいもなく、けれども私も彼女も数多の存在を気にするでもなく、いつものままに、当たり前のように言葉を交わす。
「それで、どういった要件だったの? 脅迫とか? ぶっ飛ばしてこようか?」
「別に要らん世話だわよ。大した話しでもなかったし」
「えー、どうせ恨み言でも寄越されたんでしょ? 僕達の零ちゃんをかえせーとか」
「そこまで腐ってはなかったわよ。なんか知らんけど負けたらしいわよ、私に」
「んん……? 何か勝負でもしてたの?」
「さあ、さっぱり理解できなかったわ」
私は彼女と歩き始める。
あの二年前の朝を越え、梅雨の曇り空の下をいつものように、当たり前のように歩き始める。
私は彼女に悪女だといった。
彼女はそれに対して仕方がないといった。
手慣れたように、当たり前のように、私が限界まで落ちたあのブルースの宵闇に現れるべくして現れたように、彼女は己の所業を仕方がないで済ませた。
(それはきっと自然なことなのよ。炎に羽虫が集うのと同じく、己が羽を燃やしてでもより近付き我が手にせんとするなら、きっと、それは自然なのだわ)
全ては御都合のままではない。
二年前のあの朝から彼女の全霊を賭した思惑は始まっていた。
先の男に告げられた内容の全ては凡そのところで想像出来ていた。
ほぼほぼ的中していたが故に驚愕もなく、また、特に感想も抱かなかった。
何せ彼女の登場はあまりにも不自然過ぎた。
どれだけこの世に都合のよいことはあれど、あの時程に彼女が望んだであろう最高の状況もなかった筈だ。
二年の間、私に一切接近しなかった理由は単純なものだろう。
私を限界まで疲弊させて、散々なまでに罪悪感を抱かせて、その重みに耐えきれずいよいよ膝を折る――そんな折に出くわせば流石の私だって陥落する。
何せ求め続けていたからだ。
何せその為に部屋の扉の鍵を開けっ放しにしていたからだ。
色気のないコンビニというのも拍車をかける。
日常のありふれたシーンこそが過去に体験した思い出の数々を蘇らせる。
追憶の中に希望すら抱き、それが実現すればと願いもする。
してやられた、というべきだろう。
だが彼女は仕方がないで済ませ、いつものように無邪気に笑うのだから、最早私には抗うことなど出来ないしそんな意思すら生まれない。
「いずれ私も燃やし尽くされるのかしらね」
「そうなればどっこいどっこいじゃない? 何せここまでさせる程に私は燃やし尽くされた訳ですからねぇ」
「お互いさまって訳?」
「いやぁ、それはどうかな? 少なからず私の方が遥かに椿ちゃんを愛してるし」
「何そのガキみたいな台詞、恥ずかしくないの?」
「別にー? 結果的に欲しかったものは手に入れたから恥じも糞も気にしませーん」
まるで子供のままに彼女は駆け出して私の先をいく。
「あ! 椿ちゃん、雨降ってきたよ!」
そんな時、灰色の空から雨が降ってくる。
小さな水滴がまばらに宙を舞い、勢いは弱いにせよ、それらは私たちへと降り注いでいく。
次第にその威力は強まるだろう。
ゆるやかな風に紫煙が攫われ、その風の往く先に立つ彼女を見つめる。
「……やっぱりね、このニオイだなぁ」
「ん?」
「好きなんだ、このニオイ。雨とくっさい煙草のニオイ」
「臭いのに好きって何よ、妙な感性してるわね」
「いやぁ、だって嗅ぎなれたニオイだもん。椿ちゃんのニオイそのものじゃん? 雨と煙草と湿気た空気がさ、椿ちゃんの部屋であり、椿ちゃんそのものだもの」
だから大好きなんだと彼女はいう。
次第に雨が強まり、私は咥えている煙草を強く吸い、煙を喫みこむ。
「そんなにいいニオイじゃないでしょうよ。例え私のニオイだっつってもさ」
「そうかなぁ? 私は凄く好きだよ。だってさぁ」
彼女はそこで一度言葉を切る。
「椿ちゃん以外の全部がいなくなるじゃない。このニオイの中だけは椿ちゃんと私しかいないじゃない?」
――例えば燃える火に照らされる羽虫の中に、蝶がいて、蛾もいたら。
私はその翅を燃やし、二度と飛べぬようにと出来たかもしれないのに。
陽の光は確かに火炎よりも温かく、朝になれば誰しもに居心地のよい世界を創り出してくれるだろう。
だがそこに居場所を必要としない人だっている。
私は私だけであればよかった。
彼女は彼女のままでありたかった。
向かう先も目的も違えども、それでも私たちにとって、この紫煙の燻る灰色の世界こそ居心地がいい。
雨垂れの空を見上げて私は煙を吹かす。
それと共にまろみを帯びた風が私を包み、いつものように私の境界線を作る。
そんな境界の中に軽々と踏み入る彼女は、己のあるべき姿と生き方を実現せしめた麗しき蝶だろう。
身を焦がす程の火炎を裡に秘め、その温もりこそが陽よりも居心地のよいものだから、私もまた、安心して背の翅を燃やし、己そのものが火炎となることが出来る。
私たちはもしかしたら、お互いを焦がし続ける危うい関係性なのかもしれない。
互いは互いに温もりを見出し、憧れを抱き、愛しさを抱き、ないものを強請る子供の同士かもしれない。
それでも彼女は私を蝶と呼び、私も彼女を蝶と呼ぶだろう。
例え他者から見た時に蛾のような悍ましい色合いを放つ翅だとしても、それを蝶と呼ぶも何と呼ぶも全ては己の意思の次第の筈だ。
そうありたいと願い、そうあるべきと思い邁進するが故に私たちは燃え続け、翅を打ち鳴らし夜を越えていける。
「なんにせよクサイもんはクサイって訳でしょ。そこばっかは否定してないし」
「まあねぇ。でもほら、皆散り散りになってお店に入ったりしてるじゃん? こんだけの都会なのにもう通りに人の数が少ない、すごーい!」
「そりゃ雨に濡れたがる人はいないでしょうよ。英国人じゃあるまいし」
「あ、偏見だ! あんまり傘ささないらしいけど大雨になったら流石にさすらしいよ?」
「如何に恵みの雨だとかといっても、根本的に水に濡れっぱなしなんて多くの人が嫌がるってことだわね」
「けど居心地いいけどなー……どうせだしこのまま雨デートでもしない? 折角の休日だしさ!」
「しかしそうは問屋が卸さんのよ。何せ我々は最大の過ちを犯したからね」
「え?」
「今日、大量の洗濯物したでしょうがよ。そんでこの雨だわよ。もっと強くなることを考えてみなさいな」
「……こりゃ大変だ! 急いで帰らなきゃだよ、椿ちゃん!」
「ええそうよ、こんなところでのんびりしている暇はないって訳なのよ。だから……」
私は彼女の手を掴む。
雨の中、いつものように、毎度のように。
紫煙を纏いそれを燻らせながらに。
私たちが私たちであることを確認するように。
「家に帰るわよ……零」
「……うん!」
彼女と共に私は歩いていく。
いつものように、毎度のように。
雨の中、火炎を抱き、それを揺らめかせながら。
背の翅が濡れてしまわぬように、身を寄せ合いながらに。
私たちは寄り添い、歩いていく。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます