聞こえた声
バスケ部の練習が終わって、帰ろうとした頃。
メッセージアプリの通知。
表示される名前は――『翔馬』。
『美咲練習終わったか? 俺ら○×で遊んでたんだけど真由も居るから来いよ』
「はぁ……」
先輩達の鬼特訓を受けて、一息付いたらこれ。
狙いすましたかのように、部室で着替え終わった瞬間。
既読スルーなんてわけにいかないし……特に用事もないから断るのも変な感じ。
正直早く帰って、溜まったアニメを消化して昼寝したい。
でも……。
『今日はちょっと疲れちゃったかも』
『そんな色々行かねーからさ。来てくんね?』
…………はぁ。
『分かった いまどこ?』
返信してまた溜息。
こういう時、バッサリ無理! って言える人になりたい。
☆
革のジャケットに派手目なサングラス。
ただでさえ威圧感あるのに、服装までアレな人。
そんな、翔馬が手を降る。
「待ってたぜ」
「お、おまたせ……」
「おう」
「美咲〜!」
「練習お疲れだな、美咲」
じゃあ帰らしてよ——なんて言える訳もなく。
「で、陽はまだ〜? 一番最後なんて珍し~」
「! 陽君来るの!?」
と思ったら真由がそう言う。
まさかだった。
嬉しい意味で。でも、前の翔馬は苦笑いで。
「あぁそれなんだけどよ、別に呼ばなくてもよくねって」
「違うグループで仲良くやってるんだろう? だから——」
「——いや、何勝手に決めてんの?」
そんな翔馬達に、強い口調で言う真由。
「翔馬達じゃロクなとこ連れてってくれないし。陽居なきゃ駄目でしょ」
「! わっ、ちょっと真由言い過ぎ」
「ハハッ、俺達も結構ココら辺で遊んで来たし大丈夫だって」
「……昨日の事もう忘れたんだ〜」
「ッ、それは」
「? おい翔馬、昨日アレから——」
「なんでもねぇ!」
「は〜、勘弁してよ。早く呼んどいて」
「……ッ」
「それまで服とか見よ美咲〜」
「う、うん……」
分からないけれど、翔馬と真由の間で何かあったらしい。
……雰囲気も悪いし、帰りたい。
ただ、陽君が来るんだったら別だ。
何が何でそうなったのか分からないけど。
あのカラオケ以降、一言も話せてないし。
「……チッ。泰斗、陽に電話しろ。今すぐ来いって」
「なんで自分なんだ? 別に構わないが——」
泰斗は不服そうに携帯を取り出し、操作して。
少し長い呼び出し時間。
「あぁやっと出たか。今から○×駅に来いって翔馬が」
「……何? 無理?」
聞こえてくる泰斗の通話。
そっか。陽君……断ったんだ。
ちょっと残念だけど、スカッとした自分も居る。
そして、ちょっと羨ましいとも思う——
「——変われ」
でもその様子に痺れを切らし、翔馬が奪い取る様に携帯を取った。
「おい陽。つべこべ言わずに来いや。せっかく誘ってやってんのによ」
「ちょ、翔馬君!」
「もー放っときなよ美咲〜」
「あ? おい聞こえてんのか」
『ごめん』
思わず近付く。
通話口、聞こえてくる彼の声。
いつも優しいそれは、普段よりも語気が強くて。
『大事な用事中なんだ。だから邪魔しないで、翔馬』
「ッ」
そんな声、初めて聞いた。
でも——それに青筋を立てる翔馬。
「予定なんてお前にねーだろ」
「チッ、早くしろ!」
「嘘付くんじゃねぇ」
通話口に向けて吐き出す彼。
強い剣幕。
電話の向こうに居る陽君には、何も出来ない。
……やっぱり、私は私が嫌いだ。
こんな時でも、怖くて彼を止められない——
『——“おい、準備はまだ時間かかんのか?”』
え?
なんで?
通話口、今確かに——
『——“早くしねーと置いてくぞ……ったく”』
「つ、ツヴァイ……?」
「美咲、何か言った〜?」
「なっなんでもないっ」
ぐるぐると頭を回していく。
ツヴァイの声優さんが今陽君の家に――?
常識で考えよう。そんなわけない!
でもなんで? アニメを何周もした私が聞き間違える訳ない、あの声は確かにツヴァイの声だ。
……あっ。
確かあのカラオケの時。
三人の彼女達も、コラボメニューをアレだけ頼んでた。
《——「なんかあの三人と仲良くなったらしいぜ」——》
休みだし彼は彼女達と遊びにいってるのかもしれない。
そして今、翔馬からの電話。
そこから『大マジ』好きな人が近くに居て、彼を助けた……ってこと?
咄嗟に。完璧な台詞のシーンを引っ張ってきて。
凄すぎない?
でもなにあの台詞!
一期から放送中の五期でも聞いたことない……!
「ッ。す、すまん真由。なんか家族の用事みたいでよ。陽抜きで行こうぜ」
「……は〜もう良い。美咲行こ」
「…………」
「美咲?」
「……あっ。ごめん」
ちょっとの間、周りの声が聞こえなくて。
変なスイッチ入っちゃった。
私——なんでこんなところ居るんだろうって。
頑張って練習して、今から折角の休日。
録画したアニメを見るのを、楽しみにしていたはずなのに。
決めた。なんか吹っ切れちゃった。
「……何かさっきの男の声、違和感があったな。音質がおかしいというか」
「! 泰斗、それマジか?」
「機械を通した様な……とにかく変な声だったぞ」
「……あ? もっかい電話するか、訳分かんねぇ事しやがって」
「僕は音響には詳しくてな。断言でき――」
後ろ、そんな風に話す二人。
……変に勘が良い。
「――さっきの声は陽君の従兄弟だよ。私聞いたことあるもんっ」
「!? そ、そうなのか美咲。すまん翔馬間違いだ」
「………あぁ? なんだよ泰斗。とにかく陽は無理ってことで、美咲も良いよな?」
少し怒った様に嘘を付いたら、二人はすぐに信じた。
……ごめんね。でも陽君の為だから。
きっと彼はこっちに居るより、“あっち”の方が楽しいもんね。
「……私さ、やっぱり練習で凄く疲れちゃった。ごめん帰る」
「「「えっ」」」
だから私も、楽しい方へ。
固まる三人には悪いけど、私にも“大事な用事”がある。
踵を返した帰り道は——どこか
「ごめんね、ばいばい」
だから……また話聞かせてね、陽君。
▲作者あとがき
今夜もう一話更新します。
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