失った黄金
☆
三人称視点
☆
夜、夕方を過ぎて。
「あー久々に投げた~」
「真由って意外と身体動かすの好きだよな」
学校、最寄り駅近くのボーリング場から出てきた彼ら。
泰斗は途中で家の用事で抜けた為、翔馬と真由だけ。
「ねーどっかでゆっくりしたい~もちろん翔馬の驕りね」
「……仕方ねぇな」
暗くなった道を、彼は笑いながら歩く。
もう陽は居ない。
泰斗も塾なり家の用事なりで放課後は忙しい事が多い。
つまり、これからは翔馬と真由……二人っきりの時間が多くなるということ。
(おいおい、コレ“来た”んじゃねーの?)
邪魔者が居ない。
彼のテンションは、これ以上ない程上がっていた。
「あそこのファミレスで良いか?」
「……は? ふざけないで~」
「あ、あぁすまん」
美咲が居る場合は別だが、そうじゃない時は違う。
彼女は、お洒落な店しか基本行きたがらない。
ファミリーレストランなど
しかし翔馬は知らない。
そういう時の店はずっと
「あそこの喫茶店はどうだ?」
「んーここら辺うちの生徒いるからだるい~。行くなら駅の向こう側」
「分かった。真由の行きたいとこで良いぜ」
「え……良いとこ思いつかないの?」
失望した様な彼女の表情。
ちょっとした屈辱だった。
(めんどくせぇ……)
しかし、翔馬は耐える。
せっかく二人っきりなのだから。
「あーもう良い~。あそこ行こ、モンブランが美味しいとこ」
「どこだそれ、店の名前は?」
「知らな~い、陽が連れてってくれたし、陽に聞けば~」
「……ッ。別の場所にしようぜ、他にどこかねぇか?」
「え~んじゃあそこ。プリンすっごく美味しいとこ!」
(店の名前を言えよ、名前を!)
苛立ちながら、拳を握り込む。
その願いが通じたのか、彼女の口からそれは出た。
「“エルドラド”、だったかな~」
「! そこ行こうぜ、じゃあ」
「……はぁ。情けなく思ってよ~? なんでワタシが店決めてんの」
「す、すまん真由」
機嫌が悪い彼女に焦る翔馬。
携帯のマップアプリで検索して数十秒、見つける。
駅の向こう側。何度か行った事はあるものの――先導はずっと陽がして来た。
ほぼ初見。
なんとか奮い立たせて、彼は歩き出す。
(まあ、なんとかなるだろ)
☆
「ね~まさか迷ったとか言わないよね?」
「い、いやそんな事ねーよ」
「歩くの疲れた~」
(ここら辺ビル多すぎだろ……!)
恐らく、一度は通り過ぎた。
同じ道を行ったり来たりを繰り返している。
この時間はサラリーマンが多いのもあって、距離感も掴みにくい。
初見では中々苦労する――マップアプリに頼り過ぎては逆に迷ってしまう。
そんな場所で。
「ッ、ココか?」
「ね~まだー?」
「多分この三階だ――あった! あったぜ、エルドラド」
「うっさい……」
マップのピンと位置がピッタリ重なる。
階段横、小さいビル案内を見ればそこに載っている。
なんと、幸運にも彼はそこを見つけた。
本来は駅から徒歩5分のところ、既に20分は経っているが。
ようやくありつける。
「プリン、プリン~」
「ハハッそんな好きなのか?」
「ココほんと美味しいんだよね~陽ってこういうの見つけるのは上手くてさ~」
(……機嫌も戻ったか? ったく、マジで大変だったな)
階段を昇りながら、安堵の息を吐く翔馬。
長い道のりだった。
ようやく、ようやくだった。
(アイツが見つけた店、ってのは不愉快だが……仕方ねぇ)
三階。
そのレトロなドア――に、辿り着く前に。
「ッ……!?」
時刻にすると19時頃。
平日といえど、金曜日。
エルドラドは隠れ家的ながら人気店。
数人が、その扉の前で並んでいた。
ココはファミレスではない、喫茶店だ。
いつに空くかなんて検討が付かない。
後ろに居る真由の表情を、彼は見るのが怖かった。
「…………」
「た、多分すぐ空くだろ!」
「はぁ……もう良い」
彼女は順番待ちの表にすら向かう事もしない。
「ちょ、真由ッ」
「帰る」
(嘘だろ、おい!)
心の叫びは通ることなく。
結果、その
二人の時間は終わって。
「待ってくれって! あ、明日だ!」
「……なに」
「明日は美咲も誘って遊ぼうぜ、なぁ」
「……」
「だ、駄目かよ?」
「……はぁ。良いけどさ――」
なんとか繋ぎ止める為、呼びかける彼。
ため息を付きながら、彼女はそれに振り返った。
「――陽も誘っといて。分かった?」
▲作者あとがき
久しぶりのあっち視点。
いつも応援ありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます