同志
「……はは、奇遇だね」
「!!」
息を整えながら、居合わせた彼女に話す。
まさかこんなところで知ってる人と出くわすなんて思わなかった。
見ればかなりの大荷物。
そして、カゴの中身は——ツヴァイのジャケットのCDが入っている。
加えてもう二枚。
その下も、違うCDがなんかズレて見えるな——あっ見たらダメなやつだ。
「あ、あっ……その」
「ごめん邪魔しちゃったかな。買い物途中?」
「えっ、と……」
「?」
……やっぱ俺、怖がられてるのかな。
彼女が鈴宮さんとか柳さんと話す時と、明らかに反応違うし。
「ごめんね、ちょっと取るね」
あんまり話しかけても彼女に悪いしな。
さっさと買って帰ろう。
「……あぁ良かった。まだあった」
『冷炎の旅路』ⅠからⅤ。
それをガバッと取って、カゴに入れる。
——やっぱり、欲しい。
そう思った時には、もう駆け出してココまで戻ってきた。
後悔したくなかったんだ。
せっかく“面白い”と思えるものに出会ったから。
……ただ、しばらく財布の中はひもじいけど。
「じゃ、買い物楽しんで」
いざ手に取れば、心は軽い。
晴れやかな気分で、彼女に声を掛けてレジまで——
「——そっ、それ、買うんか?」
「? うん」
「なっ、なんでや……?」
「そりゃ欲しいからだけど」
「……!」
「?」
そんな当たり前の事、なんで聞くのか分からない。
アレか? 転売目的みたいな?
そう思われてたりしたらちょっと嫌だな。
「普通にアニメ見てて好きでさ、ココに寄ったらコレがあったんだよ」
「で、でも高ないか? それ全部……」
「それはそうだけど、無くなったりしたら嫌だから」
「……それは、そうやな」
「うん。流石に財布の中はヤバイけどね、諭吉が1.5枚分だし」
「……っ」
「?」
何か考えるような素振りをする彼女。
口にしようか迷っているような、そわそわした素振り。
「そんなに、す、好きなんか? 大マジ……」
「えっと——好きだよ。このCDはたまたま見かけたんだけど、一目惚れしてさ」
「……ま、まじ……なんやな」
「うん」
「あ、あのっ……良かったら、なんやけど」
「?」
「か、貸させて頂いても……え、ええですよ」
「え」
「うち、それ3セット持っとるから……」
「えっ」
今なんて言った? この子。
3セット? 45,000円?
それこそなんでだ?
「こんな、うちのやつで良かったら貸しますで……」
「ほ、ほんと?」
「おん……」
「まじか」
思いもよらぬ提案だ。
まさかこれをタダで聞ける――みたいな。
「ありがとう」
「……おん」
「でもごめん、貸してもらうのは良いかな」
「……や、やっぱうちのは嫌やんなぁ……」
「ああ違う違う! そういうんじゃなくて、コレは持っておきたいなって」
彼女が死にそうな顔をしていたので慌てて止める。
別に気を使って言ってるわけではない。
それにちゃんと理由がある。
「……これ、分かる?」
「え? そら分かるけど」
「ⅠからⅤのジャケットなんだけどさ、並べてみると……ツヴァイと主人公、どんどん距離が近付いてってるから」
「!」
Ⅰは端と端。
Ⅱでは少し近付いて。
Ⅲじゃ人一人分開けて並んで。
Ⅳは背中を合わせて魔物と戦って。
最後、Ⅴはツヴァイが主人公を背中に抱えている。
気持ちよさそうに眠る彼女と、ツンとした横目のツヴァイが印象的だ。
それをしっかり並べる店側のセンスもあって、一目惚れしたってわけで。
全て揃えたくなるのも仕方ないと思う。
そして、一つも欠けてほしくないのも――
「二人が旅でどんどん縮まってる感じが好きなんだ。部屋に飾りたいぐらいに」
「…………」
「ご、ごめんね。ばーっとしゃべっちゃって――」
「わ か る で !」
「!?」
び、びっくりした。
「めっっちゃ分かるで。この“旅路”シリーズは中身も外見も最高クラスやからな。うちの持ってるドラマCDの中でもトップクラスや! ツヴァイ様推しは全員持っとるんちゃうんかってぐらい」
「そ、そうなんだ」
「だからウチは観賞用にもう一個買ってもたんや。ちな三個目は保存用や! もう開封すらしたくないからな。外袋も劣化せんよう保存しとるで」
「えぇ……凄いね」
勢いで圧される。
急に饒舌になって、まるで別人だ。
いや、むしろこっちがいつもの彼女なのかも。
「あっすまんな、と、とにかくその……」
「?」
「だっだからな、もう貸すんやなくて安く売ってもええかなって……」
「えっ」
「最近な、もう部屋の容量がパンパンなんや。だから親にも怒られてもうて」
「あぁ……」
手にある袋を見て察する。
多分この量はそれが初めてじゃないだろうし、部屋がグッズで埋め尽くされてそうだ。
「お、おん」
「分かった、ありがとう。それについては後で話すとして……とりあえずそれ買って来たら?」
さっきのグイっと来た衝撃か、彼女のカゴの……その。
『カレとの添い寝、満月の夜』が、もうバッチリと見えてしまっている。
イラスト的に多分見たらダメだと思ってたけど無理だった。
なんとか気にしない様に、視線をカゴ以外の場所に移す。
「!! せ、せっせやな、行ってきます……」
「うん。行ってらっしゃい」
顔を真っ赤にしながらレジへ向かう彼女。
木原愛花さん。それは、初めて会った時とは全く違う印象で。
……面白い子だな、本当に。
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