「今夜、空いてる?」
「……」
「……」
カリカリと、シャープペンシルが紙の上をなぞる。
あの先輩達がどこかに行ってから、ずっとその音だけです。
こんなに静かなのは久しぶりな気がします……。
――ガララララ
「やっぱ居ない――たまたまかな」
「良いじゃん。来るまでここでやろ」
「そうだね」
そして、いつからか増えていく生徒達。
――ガララララ
「やっぱ、“あいつら”居ない」
「やりー!」
「声でけぇって」
――ガララララ
「…………」
アレから二時間程。
気付けば、生徒達が10人程集まっていました。
一年生から三年生まで。
「!」
そしてこの時気付きました。
ココに人が集まらなかったのは、隠れスポットとか認知度が低いからとかではなく。
“あの人”達の声が、周りに漏れていたからだって。
思えば昨日も、人影が見えた後すぐに見えなくなっていました。
……朝日君が彼女達を移動させたから、みんなここに来たんですね。
「……っ、と」
眠たそうに目を手で擦りながら、参考書に向かう彼。
彼のおかげ、なんですよね。
ここがしっかりと“自習室”となったのは。
大げさでしょうか。
たまたまでしょうか。
それでも――私は彼のおかげで勉強に集中出来ました。
「……」
手に取ったペットボトルに口を付ける。
見ればもう、中身は半分。
やっぱりほうじ茶は美味しいです。
☆
「……いつもより頑張っちゃいました」
「はは、勉強してるときの鈴宮さんかっこよかったよ」
「! そ、そんな」
「おかげでこっちも、来週までの宿題全部終わっちゃった」
自習室。気付けば、もう外は暗くて。
時刻にして19時前。
ここまで遅いのは久しぶりです。
とっても集中出来ました。
校舎の外に出れば、夜風が解放感を与えてくれます。
《——「一緒に帰る?」——》
思い出す彼の声。
……男の人と帰るのなんて初めてです。
「結局……あの人達戻ってこなかったですね」
「一度戻ってきてたよ。すぐ出て行ってたけど」
「えっそうだったんですか!?」
「うん。ここがそういう場所じゃないって悟ったんじゃないかな」
軽くそう言う朝日君。
どこか遠い目をしていて。
「その……仲の良い人ではなかったんですか?」
「知り合い程度だよ、久しぶりに会ったし」
「そっそうですか」
「うん。もう会う事も無いんじゃないかな」
「……は、はえ……」
「そんなもんだよ、あの人達とは」
遠くを見ながら笑う彼は、やっぱり私とは遠い人なんだと実感します。
一体どれだけの“知り合い”が……。
そして、その膨大な中に私が居るということも。
ほんの少し寂しいです。
……って、会ってまだ数日しか経ってないのに何考えてるんでしょう。
「そんなことより、結構遅くなったけど大丈夫なの?」
「あっ全然大丈夫です。お母さんとお父さん、帰ってくるの遅いので」
「そうなんだ。じゃあご飯も自分で作るのかな」
「! は、はい……たまに……」
「えっそうなんだ、凄いね」
見栄張っちゃいました。
本当はお母さんが作り置きしてくれてるのを適当につまんでいます。
……今日は作る気でした! 多分。
「ま、まぁ慣れたらそこまでですよ(大嘘)」
「流石だね、得意なやつとかあるの?」
「得意料理は……オムライスです……」
「ああ。あの卵フワフワのやつとか出来たりして」
「えっ? ふ、ふわふわ?」
「レストランとかでたまに出てくる、包丁通した瞬間パカってなるやつだよ。見たことない?」
包丁通した瞬間パカ……? 桃太郎?
どう見ても朝日君ふざけてる雰囲気じゃないですし……。
私の知ってるオムライスではありません。
……薄い卵をケチャップご飯に載せるのが普通なんじゃないですか。
「よ、よゆうかも……しれません(目逸らし)」
「凄いね、勉強じゃなく料理もできるなんて」
「えへへ……」
か、帰ったらフワフワ? オムライスの勉強します。
何がパカっとするのか分からないですけど!
「……そういえば、俺も鈴宮さんと一緒なんだ」
「へ? オムライスですか?」
「ははっ違う違う。家帰っても一人ってとこ。今日一緒に勉強出来て嬉しかったよ」
「!」
そのお礼は、私が言うべきものなのに。
これまでずっと、助けてもらっているのに。
一度も、それが言えないままで。
「?」
不思議そうにこちらを見る朝日君。
私は、口を開く。
「あっ。あのっ――」
「な、なに?」
「こっ↑、これまで(裏声)、ありがとうございました!!」
「え」
さ、最悪です。
声が裏返ったまま、訳も分からず大声で叫んでしまいました……。
暗い帰り道、響く私の声。
意味不明です。
なんか今世の別れの挨拶みたいな!
「……ははっ。転校でもするの?」
「し、しません!」
「良かった。あとお礼なんてしなくて良いよ」
「え……」
「全部俺の為にしたことだから」
「は、はい」
一体何が彼の為になったことなのか分かりませんが……!
「でも、それなら——」
「は、はい?」
「……あぁ。やっぱりいいや」
どこか、躊躇する様に。
彼は口を開いて閉じる。
初めて見る、朝日君の姿。
「ぜっ全然、なんでも!」
「! そこまで言う?」
「は、はい。今日はいっぱい集中できたので」
驚いた顔。
ようやく、これまでのお返しが出来ると思えば自然と口から出ていました。
バーベキューの時も。
カラオケの時も。
そして、今日だって——彼には助けてもらってばかりだったから。
「……なんでもか」
それでもちょっと言い過ぎました。
ま、まずいです。覚悟の準備が――
「……じゃあ——」
彼は口を開く。
ほんの少しの空白を開けて。
「――今夜、空いてる?」
その言葉が、私の鼓膜に響いたのだ。
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