ならず者達、魔王軍で勇者を目指す!?
あんよ
第1話 ならず者の人生は静かに終わる
「ようこそ、ならず者のサイトウソウタよ。死んでしまうとは情けない!」
突然、小馬鹿にした演技がかった、幼さを感じさせる声で俺は我に帰る。
声のした方を振り返ると、全体的に暗く薄い赤色の部屋に大きな椅子・・というよりも玉座と呼ぶのがふさわしいそれに
黒い髪をサイドで結い、特徴的な縦長の帽子と赤を基調とした道服のようなものを着た声の高さ相応の体型の少女が、足を組んで肘を突き、赤黒い目を細め性悪そうに顔を歪めていた。
まるで地獄の入り口のような空間で、目の前の彼女の言葉を反芻する。
・・・ならず者。そんな俺の、最後の時を思い出す。
・・・それは暑い夏のある日だった。
俺は飲まず食わずでゲームに没頭していた数日間の過集中から覚め、急に感じた空腹を満たそうと近くのファストフードを食べようと外に出たのだ。
田舎道を運動不足な体で自転車を漕ぐこと数分。
急に視界が点滅しだし、色差が徐々になくなっていく感覚を覚えた。そこからの記憶はひどく断片的で記憶もあやふやだ。
ただ一つ、確かに覚えているのは最後に見た景色は反転したような景色だったことだけだ。
・・・そんな、面白味も見せ場もなく、淡々と、俺の人生は終わったのだ。そう、客観的に冷静に回顧した俺は、未だ半口角上げた少女の目を見る。
「で、俺はこれから地獄に行くと?」
思えば、人に迷惑をかけてばかりの人生だった。親からすれば、可愛げもない負担にしかならない子供だっただろう。
そんな俺が行き着くとこなんて・・
「そうではない」
「え?」
俺は耳を疑った。
ならなんだ、天国にでも行けるのだろうか。そう考えると、死んだのも悪くないと俺はこれからの第二の人生への期待で胸を膨らませていると、その少女は見透かしたように鼻で笑い、足を組み直す。
「うぬぼれるな、主のような罪で地獄なんて片腹痛い!ここは煉獄、どっちつかずな者が来るところなのだ。要は主は中途半端ってことッ!中・途・半・端!!」
言って少女はゲラゲラとお腹を抱えて、肘置きを叩いてジタバタと笑う。
・・・なんでここまで馬鹿にされなきゃならないんだろうか。体型差のせいか、いっそ殴って解らせてやろうかと、握り拳を作る。
流石に殴る気はないけどな!
そんな少女は目尻に笑い泣きの涙をためて、息を整えながら
「ハァー。特段いい事してない人は死んでも笑いやすくて気分が晴れるのだ。たまにとはいえ、この仕事は気が重いからな。・・・ちょっとでも水を飲んでたらまた違ったのにね!」
再び笑い出した少女。
もう限界だ。
流石の無神経さ、無礼さに俺はイラつきを抑えられず、一歩、また一歩と彼女に歩み寄る。
すると少女は驚いたように目を丸くし、両手を顔の前で必死にじたばたと動かす。
慌てたあまりに、彼女はゴトッと椅子から転げ落ちてしまう。
「ちょ、ちょっと待て!わわ、わ、悪かった!それにもし手を出したら貴様こそロクでもないことになるぞ!こ、このワタシを誰と心得る。わ、ワタシは閻魔なのだぞ!?」
言葉尻の割には顔はおびえた子犬のように、目を潤ませながら彼女は言った。
・・閻魔?
「これが?」
「し、失礼だぞ!」
こんな失礼で、威厳もなく、チビで弱そうなのが?よく見る閻魔ってのはもっと怖そうなものだが・・
しかし、現実に見るのはこれが初めてだし、ここは一旦停戦だ。
・・・別に日酔ったわけじゃない。
閻魔、そう名乗った少女はお尻をはたきながら立ち上がり、俺に向き直って
「というわけで、閻魔であるワタシが命ずる。ソウタ、異世界に行くのだ」
やっぱこいつ偽物だろ、そう言いかけたが気を逆立てないよう言葉を飲み込む。
「貴様にさっきも言ったように貴様は中途半端なのだ。私は善とも悪とも言い切れない、そんな貴様への処遇を決めかねているのだ。どちらともに気安く送るわけにはいかない以上、猶予を与える必要がある。言い換えれば、観察処分という事なのだ」
「そこでの身の振る舞いで行き先を決めるってことか?」
「半分正解なのだ。確かにそういった処分もできる・・が、ソウタ。死んだ今、現世に未練があるんじゃないか?」
閻魔はまたあの、見え透いたような目をしてそう言った。
ないといえば嘘になるが、そこまで現世に執着があるわけでもないはずだが・・
「だからもし、異世界を支配しようとする魔王を倒せば、今の記憶を持ったまま貴様が望む環境で生まれ変わらせてやるのだ」
なんだと!?
それはつまり・・・
「美人な若妻や、富豪の子も可能か?」
「可能だ」
「行こう」
マジかよ!!なら俺が理想としていたヒモ生活の状態で人生をやり直せるのか!?何周目のRPGだよ、それ!
それにこういった転生には特殊能力がつきものだ。転生した俺が現代知識や特殊の力で無双してウハウハハーレム・・!くそぅ、夢が止まらないぜ!
「まぁ今のは、報酬の一例なのだが・・・やる気になったようで何よりなのだ」
パチン、と閻魔が指を鳴らす。
すると突然、禍々しいオーラを放った扉の枠のようなものが出てきた。
「これを通ればお望みの異世界に行けるのだ。・・さぁ、ソウタよ、異世界を救うのだ!」
背中から、閻魔の声を聞きながら俺は期待高鳴る異世界への第一歩を・・・!
「あれ、俺、特殊能力とかもらってないーー」
俺の言葉を遮るように、閻魔は俺の背中を押しながら
「あ、アッレレー?アゲタヨ??」
「おい、待て!絶対もらってねーぞッ!」
「うるさいな!!そもそも煉獄に来るような中途半端なやつにそんなもの、豚に真珠、猫に小判なのだ!!天国内定者に渡さないと能力が在庫切れしちゃうのだ!」
「要は犬死に候補ってことじゃねーか!!」
縁にしがみ付き、出ようと必死に抵抗する。
瞬間、世界が歪みだし、閻魔の声も遠のいてきた
「それじゃ、頑張ってくるのだ!」
「ざっけんなーー!」
俺の叫びは、闇の中に飲み込まれていった・・・!
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