ちょいエロ妄想劇場
市乃川英
第1話 通り雨に妄想する
「あ、雨だ」
僕は右手を空に向けると、ぽつりと落ちてくる雨粒を手のひらに受けた。
「本当だ」
隣に立つスーツ姿の女性――部下の
僕らは営業先から帰る途中だ。僕は上司で彼女は部下。彼女はちょっとむっちりしたボディが魅力的な二十五歳で、屈託ない性格から周りの男子社員の評判はすこぶる良い。かくいう僕も隙あらば頂こうという魂胆だ。だから今日の営業先回りはしてやったりといった感じだった。そこで偶然にもその帰りに雨。これはナイスタイミング――。
「ちょっと待って」
僕はスマホを取り出すと、いつも見る天気アプリを起動させた。雨雲レーダーを見ると、今いる場所に雨雲が近づいている。時刻のメモリを進めると十五分もすれば今いる場所にに大きな雨雲がやってくるのがわかった。
「もうすぐここにも雨雲がやってくる。とりあえず、どこかに雨に濡れないところに行こうか」
「それじゃ、そこの喫茶店に――」
という彼女の言葉にかぶせて、
「よし、ホテルに行こう」
と言うと、
「行きません」
と、ぴしゃりと彼女の心の扉が閉じられた。
「あれ、この流れって、ホテルに行きましょうって流れじゃ……」
「違います」
彼女の軽蔑の眼差し。少なくとも尊敬する上司を見つめる目ではない。
あれおかしいな、こういう時ってホテルに直行なんじゃない?
「だけどさ、上司と部下が出先で雨に降られちゃって仕方なくホテルで雨宿りってよくあるパターンじゃない?」
「知りません」
相変わらず彼女の心の門は開かない。なぜだ?
「それって言葉では否定しているんだけど、実は心のどこかで期待しているとか」
「期待していません」
そんなやりとりをしていると落ちてくる雨粒がだんだんと多くなってきた。
「本格的に降ってきたな」
「ほら、くだらないことやってないで行きますよ」
「ホテルに?」
「違います!」
彼女は僕の手を掴むと足早に喫茶店に向かった。
結局、喫茶店で小一時間ほど過ごしたところで雨は止んだ。
「じゃあ、ホテルは次回の楽しみにとっておこうか」
喫茶店を出ると僕は自分の持っている最高のスマイルで彼女に言った。
「勝手に言ってろ」
怒った彼女のぷりっとした尻が、左右に揺れながら信号を渡って行った。
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