第6話 第二王子の事情

 ヤスパンはヘーデルと比較すると集落自体が小さい。


 領主にして、前王の第二王子フェネルの屋敷も、数日前に訪ねた第一王子パルナスの屋敷の三分の一程度の大きさだ。


「これだとミアーノ家の屋敷より小さそう」


 アルフィムが首を傾げていると、ツィアが淡々とした様子で答える。


「それは当然だろう。エルリザとヤスパンだと人口も広さも違うし」


 当然、前者の方が圧倒的に上だということだ。


「逆に本拠地にこれだけの差があるのに、パルナスとフェネルが対等にやりあっているという点を見るべきじゃないかな?」


「まあ、確かに……」


 市街地の規模や人口を見ても、ヘーデルとヤスパンでは10倍近い差がありそうだ。


 ところが両者の勢力圏付近の状況は似通っていた。ということは、それだけフェネルの側が善戦していることを示す。陣営には期待がもてるのではないか、ということであった。



 フェネルの屋敷を訪ねて、パルナスの時と同様にリルシアの紹介状を差し出す。


 用意周到なリルシアからは、6人分の紹介状をもらっている。


「お姉ちゃんは間違えて提出するから、あたしが管理する」


 と、シルフィが持ち歩いていて、実際、ここまでのところは間違いがない。



 待ち時間はほとんどない。


 すぐに屋敷の中に通された。入ってすぐに応接間があり、そこに長身の青年が立っている。


「ここの家宰を務めているセレン・ジューリアスドといいます」


 相手の言葉に、アルフィム一行は一斉に顔を見合わせた。


「あれ、第二王子のフェネル殿下は?」


 アルフィムが問いかけたちょうどその時、奥の部屋から数人の足音がした。


 程なく、入口から数人の部下に担がれた輿が入ってくる。その上にけだるそうに座っている人物がいる。茶色い髪に茶色い瞳、やや浅黒い肌はこの周辺の山岳系民族に特徴的な外見で、服装もこのヤスパンの多くのものと変わるところはない。


 アルフィム達と視線が合うと頭を下げた。


「このような挨拶で失礼します。このヤスパンの領主であるフェネル・ベルフェイルです」


「あ、こんにちは……」


 見るからに歩けないらしい様子に、アルフィムもトーンダウンして素直に頭を下げる。


「……下半身が色々と不自由しておりまして」


「そうだったんですね」


「フリューリンクの顛末は聞いております。本来はこちらから出迎えに行くべきだったのでしょうが、このような状態なうえに、ご存じかと思いますがベルティは色々混乱しておりまして」


 どうやら自分達のことも知っているらしい。


 これだけでも、パルナスと大違いである。



 聞きづらい雰囲気であったが、フェネルは自らが幼少の頃から風土病にかかり下半身不随になったことを淡々と説明してくれた。


「大変ですね……」


 丁寧に説明してくれることはパルナスとは大違いだ。


 アルフィムの中では、「長男よりは次男が良い」という認識が大きくなる。一同も同じかと思ったが、ツィアはけげんな様子で問いかけた。


「そうした事情は他の王族や廷臣もご存じなのでしょうか?」


 たちまちセレンの表情が硬くなり、フェネルも苦い表情になる。


 その理由が分からず、戸惑うアルフィムに対して、ファーミルが小声でささやいてくる。


「ツィアは、五体不満足な人間が国王となることに疑義を呈しているのですよ」


「……五体不満足?」


 呟いて、そういえば以前フィネーラと悪戯をしていた時に、セシエルがそんなことを言っていたことを思い出す。何かやって歩けなくなろうものなら、国王にも王妃にもなれない、と。


 自身が王妃になりたいなどと全く思っていなかったので、「だから何なのよ?」とセシエルに毒づいていたが、これは他の国にもあてはまるのかもしれない。


 国王はいざという時には戦場に出て、国のために戦わなければならない義務がある。足が動かないというだけで、その条件にはあてはまらない、ということだろう。



 セレンが代わりに進み出る。


「もちろん、これらの事実を公にはできません」


「……当然だろうな。それを部外者である俺達に知らせても良いのか?」


 ツィアが続けて質問する。


 これはアルフィムも頷くところだ。


 自分達はリルシアの紹介状をもっているが部外者である。領主が下半身不随で国王になれないということを広められたら困るのではないか。


 セレンは淡々とした様子だ。


「そこはまあ……、仕方ないですね」


 どうやら、何らかの自信はあるらしい。あえて困った表情で答えたことからアルフィムは、2人が誤魔化せる自信を有していることを察した。


 もちろん、それをどうこうしたい気持ちもない。わざわざ他人の不幸を広く知らしめて国王の座から遠ざけたいと思っているわけでもないからだ。


「じゃあ、その部分は知らないことにして聞いたらいいんじゃない?」


 ツィアを含めた全員に尋ねた。


 全員、問題ないと頷き、フェネルとセレンに話を促した。

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