1.混乱の王国・ベルティ
第1話 ベルティ王国
アクルクア南東部にあるベルティ王国は、複数の川が流れて土地も肥沃であり、人口も豊富である。
そのため、周辺地域から多くの者達が入ってきており、それらが地域ごとに別々に分かれている。
「北にはステレア系、西にはオルセナ系、南にはフンデ系、東にはパレジア系、更に山岳系の独立民族がいて、中央部にはいわゆるベルティ人がいるのです」
「ややこしすぎる……」
ファーミルの説明に、アルフィムの目は半分くらい回っている。
それでも何とか頭を整理して、質問した。
「……何でステレアやオルセナ系の人達はベルティに留まっているんですか?」
それぞれの地域に国境となる川が流れている。その向こうには、同じ民族の国があるのに、わざわざ多数の民族でごったがえす地域にとどまっているというのはややこしいし、理解できない。
同じ民族同士でくっつく方が良いのではないか。
「もちろん、ステル・セルアにいるベルティ国王がそれを認めないこともあります」
例えばオルセナ系同士でくっつきたいと言われても、ベルティにとっては勢力が少なくなることを意味する。簡単に認めるはずがない。
「ただ、ベルティ国内の各民族自身があまりそうしたことを求めていないこともありますね」
「どうしてですか?」
「例えばオルセナは滅茶苦茶な政治をしていて、生活レベルは最悪の更に最悪を行きます。そうした面々が大挙して来られても、ベルティのオルセナ人は困るわけですね。それなら別の国ということで、自分達だけが良い風に暮らしたいということなんですよ」
「なるほど……」
アルフィムはオルセナを歩いた時のことを思い出す。
生活レベルが最低というのは本当で、女性達ですら盗賊団を結成するくらいの酷さだ。
いくらルーツが同じといっても、そうした者達と一緒に暮らしたくないというのはありうるのかもしれない。
「そういうことで、各民族とも自分達がベルティに属するということは認めているわけですが、当然、ベルティの中でより上に行きたいということで、各民族間で諍いが絶えません。これを一時的に解消したのが前王のカルロア4世です」
カルロアは、各民族から妻を迎えて、その間に生まれた子供を領主として据えるという方策を取った。
これにより、各民族とも中心地に民族の象徴としての王子を抱くことになり、その父であるカルロアは尊敬を集めたわけであるが。
「当然ですが、それが通用するのはカルロアの時代だけ。彼が死んだら後継者を巡る争いが起こることは火を見るより明らかです」
「……それが今の状況である、と」
「そういうことです」
ステレア女王リルシア・アルトリープは、カルロアの妹の娘にあたる。
民族的には普通のベルティ人であるようだが、彼女自身はベルティの王位についてはどうでもいいようで、「誰でもいいから勝ってステレアを支援してほしい」ということのようだ。
「でも、リルシア女王自体も養女なんでしょ? どうして、男子をもらわなかったのかしら?」
ベルティでこれだけ王子達が相争うのなら、1人くらいステレアに分けた方が良かったのではないか。
アルフィムはそう考えるが、ツィアがあっさり否定する。
「そうなると、ステレア王がベルティ王位を主張して、ベルティの方に乗り出すかもしれない。ステレアとしては本末転倒になる」
「あ、なるほど」
先ほどの各民族の話が戻ってくる。
ステレア系ベルティ人はベルティ地域の肥沃な地を自分達のものだけにすることを望んでいるから、ステレアにいる者達には来てもらいたくない。
また、ステレアの者としても国王がベルティ王位に熱心になれれては困ることになる。
「本当、ややこしいのねぇ」
「そういう点では、強いんだけどまとまらない国と言えるわけだな」
「ネミリーもベルティを何とかしてビアニーに対抗させようなんて一回も言わなかったけれど、そういう事情があるわけなのね」
そうなると、果たして安易にベルティに向かうのが良いのかどうか。
「自信がなくなってくるな……」
「いや、なくなるようなどんな自信があったのかが知りたいんだけど」
シルフィがあまりにも的確なツッコミをし、ファーミルがクスッと笑う。
「ほら、全員ドカーンと倒したら、仲良くなるかなぁ……って」
全員絶句しているので、さすがにまずい発言をしたと思ったようだ。アルフィムは話題を変える。
「各王子達はそれぞれ母体となる民族と結びついていて、当然そこから王妃をもらったりしてより結びつきが強くなるのよね? そうなると、ますます対立が厳しくなりそう」
「その通りだな。四子のルーリー殿下と、末子のサイファ以外の王子はそうしている」
ツィアの返事にアルフィムは首を傾げる。
「末子のサイファは14なんだっけ。まだ結婚が早いんだろうけれど、ルーリーはどうして?」
「彼が治めているアネットはちょうどベルティの中心付近にあり、各民族が入り混じっている。誰かと結婚して民族的バランスが崩れると非常にまずい」
「うわ、大変ね……ということは、誰とも結婚しないか」
それぞれの民族から平等に妻を迎えるか、ということになる。
「そういう理由があっても、何人も妻を迎えるのはダメだけど、ルーリー殿下は将来的にどうするんだろう?」
「それを俺に聞かれても困る。直接聞いてくれ」
ツィアはそう言って、肩をすくめた。
まさにその通りである。今、一行はまさにアネットに向かって歩いているのだから。
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