第5話 自由騎士の次なる目的

 石像をうっかり破壊したことの謝罪が終わり、アルフィムとシルフィは王の間を出ようとしたが。


「お待ちください」


 と、リルシアから呼び止められる。


「……何とお呼びすればよろしいのですかね、アルフィム卿?」


「あ、それはもう何でもご自由に」


 エディス・ミアーノの名前を使いたくないので、自由騎士を名乗ってみただけだ。「アルフィム」だろうと「騎士アルフィム」だろうと、何でも構わない。



「それでは」


 と、リルシアに話があると言われ、近くにある椅子に座る。


「従者のツィア・フェレナーデから聞きましたが、貴方は反ビアニーというわけではなく、ビアニーの一部の者のやり方に納得がいかずにここに来たのだとか?」


「……反ビアニー?」


 反ビアニー、ビアニーの一部の者のやり方と言われてもピンと来ない。


 ただ、確かに彼女が許せないと思っているのはガフィンとその一派である。例えばイサリア魔術学院で一緒にいたジオリスと敵対したいわけではない。


「……そんなところだと思います」


「ということは、ステレア北部にいるビアニー軍を攻撃するという場合には、貴方は反対するというわけですね?」


「……そっちって、確かジオリスがいるんでしたっけ?」


「そうですね。ビアニー王子ジオリスが指揮をとる主力軍です」


 リルシアによると、現時点で攻撃する意図はないらしい。


 撃退できたという事実が重要なのであって、まずはそれを広めたい。


 変にステレア解放を狙って、ジオリスの軍に敗北でもしようものなら、今回の解放自体が無意味になりかねない、ということである。


「とはいえ、ステレアとしてもいつまでも北部を占領されたままにしておくわけにはいきません。いずれは動く必要があると思いますが、貴方が協力してくれるのか、くれないのか。それを確認しておきたいだけです」


「……うーん」


 ツィアかファーミルいれば、「どうすればいいと思う?」と聞けるが、その2人はいないし、呼びに行くわけにもいかないだろう。


「個人的にはジオリスと喧嘩したいとは思いませんが、ガフィン・クルティードレの影響が強くなっているのなら考えるかもしれません」


「なるほど、分かりました。それで、貴方はこれからどこに行くか決めているのでしょうか?」



「……!」


 彼女がここに来たのは、フリューリンクにいるビアニー軍をどうにかしたい、ということであった。


 それは最高の形で実現された。


 しかし、その後のことは全く考えていなかった。


 シルフィの方を向いて、「どこかアテがない?」と目線で訴える。


 向けられたシルフィもいい加減慣れてきたのだろう。「そんなの聞かれても分からないよ」と目線だけで答えている。


「特にどこに行こうというのはないですね」


「ベルティに興味はないですか?」


「ベルティ?」



 もちろん、ステレアの南にベルティ王国があることは知っている。


 大陸で一番強い国とも言われているが、2年前に国王カルロア4世が死去して以降、王子達がそれぞれの地域に割拠して内乱に陥っていると聞いている。


「ベルティの王族は今、非常に繊細なバランスの上に成り立って膠着状態が続いています。そのバランスを突き動かす者がいれば、一気に動くこととなるでしょう」


 そういえば、リルシアもベルティ王族の1人だったということを思い出した。


 ベルティが内戦で他所に構っていられないから、ビアニーが簡単にフリューリンクを包囲できた。


 もし、ベルティの内戦が終わるのならば、ステレアはベルティからの支援を受けることができ、ビアニーをそれほど恐れることがなくなる。


 そうなれば、ステレア北部の奪還を目指すことも可能となる。



(なるほど、私がジオリスと戦うのが嫌なだけなら、ベルティに行かせることでステレアが有利になるということね)


 リルシアの思惑が見えてきた。


「私がベルティに行くとして、何をすれば良いのでしょうか?」


「……現在のベルティには六つの勢力があります。前王の長男から六男までがそれぞれの根拠地に拠っているわけですね」


「どこかを応援するということでしょうか?」


「そうですね。私が見る限りで、6人の中では長男パルナス、四男ルーリー、末子サイファの勢力が他より上です。この3人の誰かについて、統一してもらえればステレアとしては大いに助かります」


 話が大きくなってきた。


 今すぐ考えるのは無理そうだ、と思った時、はたと気づく。


(あれ、そういえばツィアもシルフィちゃんもベルティから来たんだよね。シルフィちゃんは生まれはフンデらしいけど)


 となれば、自分が今すぐ決めるわけにもいかないだろう。


「今すぐじゃなくても良いですよね? 回答するのは明日とか、でも」


「もちろんです」


 リルシアも大きく頷いた。

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