第4話 ダンスパーティー後始末
参加するつもりはない。
それほど食事が好きでもないから、出される美食にも興味はない。
それでもパーティーで何が行われるか気になった。
だから、アルフィムは近くにあったカーテンを拝借し、それをローブ状に加工して被って、中庭まで出て大広間を覗くことにした。
最初のうちは、中々面白かった。
各々がダンスをしていたり、酔って狼藉行為を働いていたりする様子は楽しい。狼藉行為をするのは自分だけではないのだという安心感も得られる。
ただ、ツィアもシルフィも、エマーレイもファーミルもあまり積極的には参加していない。それは自分が不在のせいだろうか。そう考えると少し申し訳ない思いにもなる。
……が、そうした気分はすぐに忘れて、またパーティーの見物へと戻る。
「お、ジュニスとステレア女王がダンスをするのね。ルビアは踊らないのかしら?」
独り言をつぶやきながら、少し視線を動かしたところでピタッと止まった。
「あれは……」
エイルジェ・ピレンティがゆさゆさと歩いて、ツィアに近づいている。何か話しかけているようだ。
(ツィアと踊るつもりなの? あれだけピレントで一番エラいとか言っていたくせに)
アッフェルでは人を見下すような顔をしていたのに、今は随分となれなれしい顔をしてツィアに近づいている。それも気に入らないが、次の瞬間、ツィアが割とあっさりと応じたことに驚いた。
「えっ、踊っちゃうの?」
2人が広間の中央に向かっていくのを見て、愕然と膝をつきそうになった。
一瞬して、下唇のあたりに痛みが走る。無意識に噛んでいたらしい。
(そんなに驚くことでもないでしょ)
よくよく考えれば、ツィアは自分の補佐役である。自分達を組織と考えればそのナンバーツーである。
エイルジェは逃亡してきた身だ。さすがに「自分はピレントの正統女王」などと言うことはできないだろう。だから、エイルジェにとってツィアはそれほど身分違いでもないのかもしれない。
また、下手に断って、余計な波風を立ててみ困る。ツィアはそう考えたのかもしれない。
おそらく、そうだろう。
そう自分を言い聞かせようとするが、それでも何だかもやもやする。
踊りながら、話をしているのも気になる。
一体、どんな話をしているのか。
「むぅぅぅ……」
唸りながら見ていると、シルフィがふと窓からこちらを見た。
ぎょっとした顔でツィアの方に走り寄る。
その様子にアルフィム自身がびっくりする。
(私に気付いてあんなにぎょっとなるって、姿が分からないのかな?)
フードをかぶっているから、簡単には顔が見えないはずだ。だから、怪しい者がここにいると思ったのかもしれない。
しかし、シルフィはわざわざツィアのそばまで駆け寄っていった。怪しい奴がいる、というのであれば近くにいる兄のエマーレイでも良かったはずだ。
ということは、自分のことに気付いたうえで、教えに行ったということだろうか。
ツィアもこちらを向いた。「まずいことになった」という慌てた顔をしているようだ。
ということは、怪しい奴とは思っていないようで、自分だと気づいているのかもしれない。
「……」
出ないと言っていたのに、こっそり見ているのも気まずいし、自分が変な感情を抱いてしまったことも気まずい。
アルフィムはさっさときびすを返して、部屋に戻ることにした。
少し歩いて振り返ると、2人ともそれ以上追うことはなかったようだ。
「……」
何だか放置されたようで、それも面白くないし、そんなことを感じる自分自身が余計に面白くない。
「あー、もう、イライラする!」
思わず右足を振り回した。
ドカンという音がして、何かがガラガラと崩れる音が続く。
「あれ……」
目を丸くする彼女の前には、粉々に崩れ落ちようとしている石像があった。
翌朝。
アルフィムはシルフィとともに、王の間で小さくなっている。
「……体調が悪い中、中庭で魔道の実験をしていたら、咳込んで近くにあった石像を壊してしまったというわけですね」
リルシアが驚きと呆れが入り混じった表情で報告を聞いている。
2人はその前で更に小さくなる。もっとも、アルフィムはともかく、「1人じゃ怖いから」と無理矢理付き合わされたシルフィは「何であたしまで」と釈然としない顔をしているわけであるが。
「……今すぐとは言いませんが、必ず弁償いたしますので」
「たいした石像ではないですし、ビアニー軍のカタパルトが直撃したと考えれば安いものですよ。ただ、誰かに当たったら危ないので、今後、実験の場所はきちんと選んでくださいね」
初犯ということもあって、リルシアは特に叱責などすることもない。発言はまさに彼女の本音でもあるのだろう。
「そういうわけにもいきませんので、やはり弁償します」
アルフィムは再度頭を下げた。
二か月後、フリューリンクからの請求書を見たネミリー・ルーティスが「何で私が払うのよ!」と文句を言いつつ、伝令に該当の額を持たせることになるが、それはまた別の話である。
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