第6話 フリューリンク解放戦・4
先頭を行くアルフィムの視線に、ビアニー軍の陣地と軍勢が広がってくる。
「まずは相手の指揮官らしいのを倒す。その後、アルフィムは相手の攻撃を抑えることに専念してくれ」
ジュニスの指示。
「攻撃を抑える?」
「ビアニー軍側からすると、味方が倒されまくると怒るだろう。こっちに攻撃してくるのならどうにかなるが、後ろの連中が集中攻撃を受けるとまずい」
「そうね……」
指揮官がいち早く倒されて、しかも弓矢などが通用しないとなると、相手は恐慌状態に陥る。しかし、友軍が大勢やられていけばその仇討ちという意識が湧くかもしれない。
「変わった戦い方をする方が、フリューリンク側も早く気づくだろうし、ね」
「そうだ。それもあるな」
2人の意図が一致し、南側にある陣地の方へと向かっていく。
その陣地から2人の豪華な服を着た男が出て来た。勲章のようなものもついているから、この2人が指揮官だろう。
(とりあえず、ジオリスはいないようね)
相手の陣容に安心するが、1人の顔には見覚えがある。
(あの人はどこかで見たことあるわよね……。誰だったかしら?)
遠目でも端正に見える容貌に見覚えがあるが、どこで会ったかは思い出せない。
見知った顔を攻撃するのは気が引けるが、今更引くことはできない。
(あんな連中に協力する以上、仕方ないのよ……)
ガフィン・クルティードレのやっていたことを思い出す。理解できないことを行い、オルセナでは千人もの人間を虐殺し、しかもサルキアまで殺したという。
そんな連中に協力する以上、ここで酷い目に遭ってもそれは自業自得であるはずだ。
そう言い聞かせ、この場はジュニスに任せる。
近づくうちにジュニスが魔力を溜めていく。
1キロメートルほどに近づいたところで、相手が警戒の念を強めたようだ。とはいえ、いきなり攻撃するということもなく、まだ様子を見ている。
更に近づいたところでジュニスが声を張り上げた。
「俺はホヴァルト王ジュニス・エレンセシリア! スリーシープ条約に従い、ステレア軍の味方としてかけつけた!」
ほぼ同時に、ジュニスの手から炎の鳥が上がった。
敵としては非常に恐るべきものであるが、味方としては頼もしい。
鳥が羽ばたき、敵将2人を狙う。
「何だ、これは!?」
叫び声の直後、2人が炎に包まれた。周囲が慌てふためく中、ジュニスが鳥ではないが炎の玉を敵陣に向けて放り込む。
「敵だ! 敵襲だ!」
「南から敵だ! フィアネン将軍とケーネヒス将軍がやられた!」
陣から叫び声が聞こえるが、それが別の混乱を呼び起こす。
「ベルティの援軍なのか!?」
誰かの声が、軍に広がり、それが混乱を呼び起こしていく。
混乱が広がりつつも、迎撃に向き直る兵士も数多く存在する。
弓矢や投げ槍を構えてくるが。
「えええぇぇい!」
そこでアルフィムが叫んだ。
たちまち突風のような風が巻き起こり、放たれた弓や投げ槍すらもあらぬ方向へと飛んでいく。
「な、何だ!? 矢の向きが変わったぞ!」
「あいつらは人間じゃないのか!?」
現場指揮官が倒され、矢や投げ槍が通用しないという連続した事実に、さすがのビアニー軍も恐慌状態に陥っている。
元々、この場にいるのはビアニー軍の主力ではないと聞いている。総司令官のジオリスをはじめ、ティレーやシェーンといった有用な将軍も、ネーベル軍の行動を警戒して北にいるという。
それはつまりフリューリンクで戦闘は起きないと思っていた証拠だろう。総司令官がそうである以上、兵士達も油断しているはずだ。その状況からいきなり攻撃されて指揮官も倒され、攻撃は通用しないという驚くべきことが連続しているのだ。
そろそろ逃げてもおかしくないはずだし、早くそうなってほしい。
ジュニスは砲弾を打ち上げるかのような軌道で炎の玉を降らしている。
相手を倒すというよりは、散り散りにさせるのが目的のようだ。
(なるほど。相手を逃げ惑わせて大声を出させることで、フリューリンク城内にも見えるようにしているのね)
いい加減なように見えて、自分達にとって最善の結果が出るように工夫していることが伝わってくる。
更に二発ほど玉を飛ばすと、前方にいたビアニー軍は後退を始めた。
攻撃に対して下がったという事実に、付近のビアニー軍にも動揺が広がる。
「よし! このまま行くわよ!」
アルフィムも引き続き、矢や槍などを突風で跳ね返しつづける。
その合間にチラッとフリューリンク側を見た。
さすがに遠くてはっきりとは見えないが、城門の上を動き回る豆粒のような兵士達は増えている。こちらの様子は目にしているだろう。
ただ、まだ、城門に動きはない。
(もうちょっと暴れないとダメってことか……)
アルフィムは舌打ちした。
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