第11話 シルフィ・フラーナス
「さっき、アロエタの街がどうこうと言っていたけど? その話は何なの?」
盗賊と名乗った少女、シルフィ・フラーナスにエディスが尋ねる。
完全な敵とは思いづらいが、味方であるとも言いづらい。何の目的で舟の中に隠れていたのか、それも含めて聞きたいことは色々ある。
ただ、さしあたり本人が口にしていたことから突破口を見つけるべきだろうと考えた。
アロエタの街なるものがどこにある、どういう街なのか、エディスは何一つ知らない。
シルフィは下を向いて、首を左右に振った。
「……どうしたの?」
「思い出したくもないのよ」
「いやいや、それはないでしょ。自分から言っておいて、今更そんなことを言われても、私も困るわよ」
エディスが両手をひろげて抗議すると、シルフィは重い溜息をついた。
「……全滅させられたのよ」
「……うん、全滅?」
「オルセナ軍が襲撃してきて、街が全滅したの」
シルフィはそれだけ言うと、重い溜息をついた。
「全滅って、全員死んだってこと?」
シルフィは無言で頷いた。
オルセナ軍が襲撃してきて全員死んだということは、殺されたということだ。
「な、何で……?」
エディスは混乱してきた。
コスタシュの話を信じるなら、オルセナ軍はカチューハとコレイドから奴隷を連れ去るために軍を動かすということである。
だから、人を浚うのは分かるが、殺すということは理解できない。
「ツィアさんが言うには見せしめだって」
「見せしめぇ!?」
思わず大声になった。シルフィが「シッ」と指を口元にあてて、エディスも「ごめん」と頭を下げる。
「ちょっと離れた方がいいよ。ここは目立つから」
「た、確かにね」
シルフィの言葉に説得力を感じて、エディスは船着き場から離れた川べりに移動する。
話によると、シルフィはベルティからハルメリカに移動中だという。
一緒にいるのは兄と、2人の主人にあたる騎士らしい。その騎士の名前がツィアというらしい。
「ベルティは今、内戦中でしょ。だから、ハルメリカから資金援助を受けたいわけ」
「なるほど……」
エディスは頷いているが、全部分かっているわけではない。
ただ、ネミリーが「ベルティが内戦状態になれば、近づいてくる勢力はあるかもしれない」と言っていたことは覚えている。シルフィの言葉はそうしたことを差しているのだろう。
「オルセナを横切るとなると危険だから、比較的安全なコレイド地区からカチューハの方へ抜けようと思ったんだけど、コレイドにオルセナ軍が攻撃していたわけ」
「……それで全滅」
「2000人程度の小さな街だったからね」
「2000人!?」
エディスが驚き、また慌てて口を紡ぐ。
「全然小さくないでしょ……?」
声を落として尋ねた。
2000人で少ないとなれば、カチューハはどうなるのか。
「でも、地域の中では少ないし、そもそも砦みたいな街だったらしいのよ。あたし達が着いた時には既に真っ黒こげになっていて、黒焦げになった死体が無数に転がっていたわ」
「……想像するだけで吐き気がしそう」
「……ここに来るまで6日ほどかかったけど、途中毎日思い出しては吐いてきたから」
シルフィがげんなりとなる。この辺りは年相応の少女のようだ。
「オルセナ軍はまず、武装勢力が徹底的に殺戮して付近の住民を恐怖に陥れて、その後本隊が本命の集落を攻撃して奴隷を回収していくんだって。だから、今、セシリームで本隊が準備をしているだろうということで調べに来たわけ」
「そこまで酷いことになっていたなんて……」
「とりあえずあたしはこういう理由で来ていたのだけど、お姉ちゃんはどういう理由なの?」
「私? 私は友達がオルセナにいるっていうから、ハルメリカからやってきたんだけど」
「えっ、ハルメリカからやってきたの?」
シルフィが驚いている。目的地からやってきた人間がいるのだから、当然だろう。
「そう。で、途中の街でオルセナ軍が奴隷浚いに出ているとか、コレイドとカチューハを襲撃する計画があると聞いてやってきたんだけど、そこまで酷いことになっているとは思わなかったわ」
もちろん、セローフで「オルセナ王女の秘密を知る者を皆殺しにする必要がある」というような発言は聞いていた。しかし、口にしている言葉を聞くだけ、ということと実際に2000人の集落が全滅させられたという話を聞くのとでは全く違う。
「そのままにしておくわけにはいかないわ。私は一旦、仲間に伝えに行くけど、シルフィちゃんはどうするの?」
「復讐したいっていう面々もいるし、ひとまず情報を集めようとしていたんだけど、目の前の人に邪魔をされたから」
「……それを言うなら、私も貴女に邪魔をされたわけだけど、それはいいわ。多分1日あれば戻ってこられると思うから、もし情報とかあったら、ここで教えてくれる?」
エディスの言葉に、シルフィは目を丸くする。
「えっ、1日で戻るって、仲間はそんなに近いの?」
「ううん、多分100キロくらい南にいると思う」
「……もしかして、お姉ちゃん、計算ができない人?」
シルフィが首を傾げながら尋ねてきた。
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