第4話 盗賊現る
一行はアタンミを越え、一日ほど進む。
盗賊が襲ってくるかもしれない、という警戒はあるが、今のところ何も起きない。
「セローフがネーベル軍を派遣するという話がありますので、盗賊も警戒しているのかもしれませんね」
とはパリナの解説。
「このままコスタシュが調査しているカチューハだっけ。そこまで行けるといいんだけどね」
セシエルが楽観的な観測を口にしたが、パリナは「さあ、どうでしょうか」と浮かない様子だ。
「オルセナ領内に入ると、もっと大胆に暴れているという話ですので」
エディスがさすがに首を傾げる。
「そんな物騒なところだと、オルセナの人はどうやって移動しているわけ?」
「移動なんてできませんよ。もちろん、盗賊を返り討ちにできるくらいに徒党を組めば別ですが。力のみが物を言う国、それがオルセナです」
「ほえぇ」
エディスは奇妙な声をあげ、訳が分からないと外を見た。
更に一日。
馬車二台はオルセナ領内に入った。
行程と地図:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16818093077405913463
「主要都市としては北東に進むとオルセナ第二の都市であるピスフェンに行くことになりますが、ネミリー様から指定されているカチューハは南ですので、このまま南に進みます」
エディスは馬車の外を再度見た。
微かに道らしきものは見えるが、整備はされていないらしい。小石なども転がっているようでガタガタと揺れる。
「こんな調子で更に進むのね……」
「そうですね。レルーヴの地域では村に宿泊することもできましたが、ここからはテントを貼って寝台を使うことになるでしょう」
「寝る場所はいいんだけど、乾パンと果物ジュースだけなのは辛いなぁ……」
元々小食のエディスが食事に不満を漏らすのだから、セシエルとフィネーラはもっと苦しい。フィネーラは「肉が食いたい!」と叫ぶが。
「獲りに行くしかないし、獲った肉は多分食えないよ?」
セシエルが冷然と返し、ひっくりかえるのであった。
更に二日進むと、西側に山が見えてきた。道から一キロも行かないあたりはもう森林地域が広がっていて、誰の目にも不安を呼び起こす。
「いつ盗賊や山賊が出て来ても不思議じゃないね」
「セシエルはガイツリーンで盗賊の多い地域を回っていたんでしょ? それと比べてどう?」
「いや、まあ、こっちの盗賊をまだ見ていないから……うん、今、何か聞こえなかった?」
セシエルの言葉に、残りの3人が無言となり、耳をすませる。
「あ、確かに何か悲鳴みたいなものが聞こえた」
声のようなものが遠い前方から聞こえてきた。
エディスは窓を開けて、前を見た。
数百メートル先に動く数人の人影が見える。目を凝らすと、何人かで地面に倒れ伏す2人ほどの人間を取り囲んでいるようだ。
「大変! 誰か襲われている!」
「何だと!?」
とすぐに応じたのはフィネーラ・リアビィだ。
「フィネ、助けに行くわよ!」
「よっしゃ!」
まずエディスが馬車から飛び降り、次いでフィネーラが馬車の馬1頭の連結を解いてまたがり、両者して追いかける。
「いや、2人とも……、もうちょっと様子を……」
というセシエルの言葉は、既に2人が消え去った無人の空間に虚しく散っていった。
「こらー! おまえら、弱い者を襲うなんて卑劣なことをするな!」
馬上のフィネーラが手斧を構えて叫ぶ。
その横を走り去りながら、エディスも叫ぶ。
「そうよ! 黙っていると痛い目に遭うわよ!」
取り囲んでいた連中が、2人に視線を向けた。
一瞬のにらみ合いの後、取り囲んでいた連中が一斉に森の方に逃げ始める。
「お、俺達に怖れをなしたようだな」、「そうね」
エディスはフィネーラの言葉に頷いて、倒れている2人に近づいた。一人は若い女で、もう一人は体格の良い男のようだ。
「大丈夫ですか?」
エディスは何の気なく声をかけ、一瞬「うっ」と顔をしかめた。何だか変な臭いがある。どうやら相手の男から臭うようだ。
「大丈夫ですか?」
風を自分から遠ざかるように微かに吹かせて、再度尋ねた。
「あ、ありがとう……」
と立ち上がった男はかなり大きい。190近くはあるだろうか。
「えっ……?」
エディスは驚いた。
男じゃない、女だ。
やたらと体格の良い女だった。フィネーラと同じくらいに筋肉が発達している。相当鍛えているようだ。
(あれ、これだけ鍛えていて、何でうずくまってやられていたんだろう……?)
エディスがそう思った瞬間、女の太い腕がエディスの首元に入った。
「うわっ!?」
「おい、そこの連中! この女の命が惜しければ、有り金と所持品を全部出せ!」
エディスの頭上から、女とは思えない野太い声が馬車に向けて投げかけられた。
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